第17話 そのままで

3人は楽しく食事をしていた。

電話が鳴っていた。彼からだったが私は食事を優先した。


彼に電話をかけ直したのは1時間後だった。

「仁、ごめん。出先で気がつかなくて」

「いや、昨日の事怒ってると思ってたから」

「めちゃくちゃ、怒ってるよ。せめてメールくらい欲しかった」と静かに言った。

「くるみ、ごめん。本当にごめん」

反省した声だった。

「ご用件は何ですか?」

「仕事も片付いたから会いたいと思って」

甘えた声だった。

「あと1時間くらいかかるけどいい?」

「うん、待ってるよ」と嬉しそうだった。

きっと彼は仕事漬けでお腹が空いているだろうと思いお弁当を買って彼の自宅へ向かった。


インターホンを鳴らした。彼が私を引っ張り抱きしめられた。

「くるみごめんね。寂しい思いさせたね」

「仁が遠くに感じた。それに仕事にやきもち焼いたし寂しかった」

と素直な気持ちを伝えた。彼は私を見つめ

「僕はいつだってくるみが一番だよ。くるみにそんな思いをさせて悪かった、許してほしい」

と彼は力強く抱きしめてくれた。


「仁、お腹空いてるよね?お弁当たべる?」

私はニコッとした。

「くるみは気がきくね。いただくよ」

私はお茶を入れて隣で寛いでいた。


「お父様の具合はどう?お見舞い行こうか?」

「まだ入院が必要だけど大丈夫だよ。くるみとは退院してから行こうと思ってた。それでいい?」

「仁がそう決めたのなら私は構わないよ」

彼の肩に寄りかかる。

「くるみ愛してる」彼は私に口づけをした。


仁は少しずつ大人になって成長しているのに。

私は全然変わってない。不安な気持ちが押し寄せてきた。


「私このままでいいの?」と言葉に出していた。

「くるみ?」

「仁は変わっていくのに私はそのままで」

とボソッと言った。

「くるみはこのままでいいよ。変わったら僕が困る。そのままのくるみが大好きなんだから」

と彼は優しく微笑んだ。

私は思わず彼に抱きついてキスをした。


インターホンが鳴った。

「せっかく良いところだったのに誰かな?」

と迷惑そうに出た。

「母さん!」お母様が入ってきた。

「あら、お邪魔だったかしら。ごめんなさい。くるみさんお元気?料理は続けているのかしら?」

「はい、自宅でも作って両親にも好評です」

「良かったわ。そんなことよりお父さんが今週末退院するの。1週間早くなってね。仁に知らせないといろいろ準備もあるでしょ」

「父さん、退院しても直ぐに復帰しない方がいいと思うけど。なんか言ってなかった?」

「どうかしらね。あの人仕事人間だから、私は直ぐにでも病院に戻ると思うわよ」

「うん。父さんの体調で判断するとして、橘にも伝えないとな」

「母さん、わざわざありがとう。お茶でもどう?」

と何気なく彼が言った事に

「仁、お母さん嬉しいわ。あなたがありがとうだなんて。それにお茶まで勧めてきて。もう感激よー。来て良かった」

お母様は目を潤ませていた。

「相変わらず大袈裟だな。何飲むの?」

「緑茶をお願い」

「くるみも一緒でいい?」

私は笑顔で頷いた。


仁の大袈裟な表現はお母様譲りなんだと思った。

3人で楽しく会話してお母様は上機嫌で帰っていった。


「あー、邪魔が入ったね。くるみ続きはどうするの?明日にする?」

と悪戯っぽく言って私を抱きかかえた。

私は「これからお願いします」と答えた。

「いいよ」彼は優しく囁いて私は腕の中に身を任せた。


自宅に戻った。今日は少し疲れた。

ふと、あかり達のことを思い出した。

彼氏とお似合いだったなぁ。

ずっと仲良しでいてほしいと願った。

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