第15話 帰宅
春の陽気の中、朝を迎えた。
私の気分はピンク色だった。
彼はまだ寝ている。彼の寝顔を見るとニヤけてしまう。
「そんなにじっと見つめて僕をどうしたいの?」
彼が優しく微笑んだ。
「寝顔を見てるだけだよ。いつまでも見てられるの」とニコッとした。
「くるみは本当可愛すぎる!」と彼は悶えていた。
「くるみ、あと一カ月で僕は戻る。今まで我慢させてごめん。もう少しだから。帰ったらくるみのお父さんに挨拶に行こう」
もう以前の彼ではない。父もきっと許してくれると思う。
「うん、わかった」と私は答えた。
一カ月が経った。今日は彼が帰ってくる日。
お母様の料理教室も今日が最後。
「くるみさん、よく頑張ったわね。もうこれで大丈夫。基本ができていればあとは簡単だもの。自信を持って作るのよ」ふとお母様が寂しそうに見えた。
「お母様、至らぬ私に料理を指導してくださって
とても感謝しています。お陰でこれから仁さんと歩んでいくための糧ができました。ありがとうございました」
私は涙が出て止まらなかった。
お母様も私を見てもらい泣きをしていた。
仁が帰ってきた。
「あれ?なんか二人で泣いてたの?僕の帰宅に感動してる?」と冗談ぽく言った。
「やーねー、くるみさんが泣くから私までもらい泣きしちゃったのよ。ねっ、くるみさん」
「お母様にお礼の挨拶をしていたら涙が止まらなくなってしまって」私は恥ずかしそうに言った。
「くるみは涙もろいから仕方ないよ。意外なのは母さんがもらい泣きってあるんだね」
と彼はニヤッとして言った。
「私だって血の通ってる人間よ。泣く時くらいあるわよ。本当、仁は私に冷たいんだから」
と憤慨していた。
お母様も帰って二人になった。
私は彼に抱きついた。
「仁、私すごく寂しかった」
「くるみ、僕も同じだったよ」
しばらく二人は抱き合っていた。
荷物をほどいて一緒に片づけをして落ち着いたら夜になっていた。
お腹も空いたので、作っておいたビーフシチューを一緒に食べた。彼は満足な顔をして美味しかったと言ってくれた。
「仁、お泊まりしてもいい?」
「もちろん、お泊まり大歓迎。今日のくるみは甘えん坊だね。すごく可愛い」
と嬉しそうに言った。
「ハーブティーはどう?」
「いただくよ」
二人はのんびり飲みながら寄り添っていた。
「すごくホッとしている。くるみが隣にいて一緒にお茶して。いつまでもこうありたいな」
「うん、私もだよ。特別じゃなくていい」
「あのね」
「うん?」
「あのね、私に寂しい思いさせたバツとして、
今日は私をたくさん愛して欲しいの」
恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
彼はとろけるような笑顔で私に口づけをして
そのままベッドへ運ばれた。
「くるみ、そんなに僕が欲しいの?甘えてくるくるみは最高に大好きだよ」
二人は熱い熱い夜を過ごした。
小鳥のさえずりで目が覚めた。
隣に彼はいない。どこへ?
書斎の方から音がする。彼は仕事をしていた。
私は彼にコーヒーを入れた。
「仁、コーヒー飲む?」
「ありがとう。まだ寝てていいよ。昨日は疲れたでしょ?」と悪戯っぽくニンマリして言った。
私は顔が真っ赤になった。
「いや、あのー」
「可愛いよ。くるみ」
「仕事もう少しで終わるからそれまで休んでて」
私は朝食の準備を始めた。
お母様のお陰で料理が好きになるなんて心から感謝した。
「うーん、香ばしい良い香り。今日はパン?」
「うん、もう少しで出来るから座ってて」
「仁、できたよー」
「うわ、美味そう」
二人で手を合わせて「いただきます」
「僕は朝からくるみの愛情たっぷりご飯を食べられるなんて幸せだよ」
「仁は大袈裟だよ」
「明日からやっと職場復帰だ。橘と一緒に病院を盛り立てないと。そのための資料作りをしていたんだ」
「そういえば、橘さんはずっと病院にいてくれることになったの?」
「うん、まぁね。アイツも今は病院離れたくないらしいよ。お正月に会ったの覚えてる?あの時、看護師の一条さんと一緒にいたでしょ。橘は一条さんに惚れてるから、どうしてもって頼まれてるんだ」
「そっかー、橘さんにも春が来てほしい」
「そうだね、僕達みたいにね」
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