第14話 料理教室と誕生日

楽しかったお正月も終わり、彼は東京へ行ってしまった。

私は自宅に戻りルナと遊んでいた。


あかりが慌てて私の部屋に入ってきた。

「運命の出会いが。ねー聞いて。私にもやっときたー」とハイテンションのあかり。

「運命の出会い?急にどうしたの?」


「聞いて。今日、私の絵を飾ってくれている喫茶店に新年の挨拶に行ったの。今年飾る絵の打ち合わせも兼ねて。そうしたら、お客の一人が私の絵を気に入ったから是非譲ってほしいと言ってきたの。

その人はたぶん年上だと思う。背が高くてなかなかのイケメンで渋い感じで大人の雰囲気出しててさー。でマスターが私の事を紹介してくれたの。そしたら、君の絵他にあるなら見たいって言ってくれて。私嬉しくて後日会う約束したんだ。名刺もらってびっくり!大手会社の社長だったの。もう絶対運命だよ」

あかりは完全に舞い上がっていた。

「すごいよ、あかり。運命かもね。神社の御守り御利益あったね」

「今度の日曜日、どうしよう」

「あかりが男の人ではしゃぐの久しぶりだね。いつもの天真爛漫なあかりでいいんだから。じゃなきゃあかりの良いところ分からないもの。それをどーんと受け止めてくれる人なら良いね」

「ありがとう。さすが私の姉だわ。この恋頑張る」

「もちろん、応援してるから頑張れあかり」

彼女はウキウキして帰っていった。


私は嬉しかった。あかりがあんなに楽しそうに話して。それにあかりの絵が好きな人なんだから、きっと素敵な人に違いないと思った。キラキラしたあかりを見て、私が仁と会った時もこんな感じだったのかと思った。


私は彼のお母様に料理を教えてもらう事になった。毎週土曜日に彼の自宅で。


今日が初めての料理教室。

私は緊張したまま彼の自宅を訪問した。

お母様が出てきてにこやかに私を迎えてくれた。


まず、料理の基本と材料の見分け方などを勉強して、今日は出汁の取り方を教えてもらった。

どの料理にも出汁で味が全然違うらしい。

お母様は分かりやすく丁寧に教えてくれた。

さすが仁のお母様だ。


「くるみさんバツイチよね。ご飯どうしてたの?」

「お恥ずかしい話ですが、弁当やスーパーの惣菜とか利用する事が多くて。共働きを理由に料理をあまりしてなくて、すみません」


「実は私もね、料理が全く出来なかったの。

結婚して仁を直ぐ産んだから子育てと家事に追われて料理なんて余裕がなかった。あまりご飯を食べられない状態だった。そんな時私倒れちゃって、栄養失調だったの。同じ団地の人が救急車呼んでくれて助かったんだけど。

その時主人は地方の動物病院で半年間くらい研修で居なくて。あの時は辛かったわ。私が死んだら仁はどうなるのって。

その時食べる大切さを知ったの。家族が元気でいられるのは美味しい食事なんだとわかったのよ。

そして料理の勉強して頑張った結果が今の私。

くるみさんも大丈夫だから自信持ってね」

お母様は励ましてくれた。嬉しくて涙が出てそうになった。

「はい、仁の為に頑張ります」


「それで、今取った出汁を使って料理を作ります。まずお味噌汁とだし巻き卵。あと仁の好きな肉じゃがを作ります」

と言って次々とお母様は丁寧かつ手早く教えてくれる。メモを取りながら頑張る私。

だし巻き卵が難しくて3度目で何とか形になった。

「今日はこれで終了よ。よく頑張ったわね。もう少しで仁が帰ってくる時間よ。楽しみだわ」

「お母様、ご指導ありがとうございました」

「いいのよ。私凄く嬉しいの。お嫁さんに頼りにされて」と上機嫌だった。


仁が帰ってきた。「ただいま」

「そういえば、今日から料理教室だったね。

どおりでいい匂いがすると思ったよ。楽しみだなぁ、くるみのご飯」

「あ、あまり期待しないで下さい」

と自信なさげに答えた。

「美味しいに決まってるじゃない。私が教えたんだから。そんな事より早く着替えて冷めないうちに食べてちょうだい」

「うるさい、わかったから」彼は不機嫌になった。

「私にはあんな言い方するから直ぐ喧嘩になるのよ」お母様も少し不機嫌。


3人でテーブルを囲んで食事をした。

「うーん、美味しい。くるみ凄く美味しいよ」

「ありがとう、全部お母様が教えてくれて作ったの。良かった」

「あら、私にはいつも無言だったのに。昔みたいに貴方に美味しいって言って欲しかったのよ」

お母様は寂しそうに言った。

「ごめん、母さんのご飯はずっと変わらず美味しいよ。ありがとう」照れながら彼は言った。

「仁、今までの不満全部吹き飛んじゃった。

もうー最高の息子よ」

お母様は目を潤ませていた。

「私は片づけしたら帰るわ。貴方達の邪魔したくないもの」とサッと後片付けして帰ってしまった。


「くるみ、ありがとう。僕はとても感謝してるよ。母さんは厳しくなかった?大丈夫だった?」

「うん、全然その逆。優しく丁寧に教えてもらったよ。お母様はとても尊敬する人だもの。

まだ始まったばかりだから仁のために頑張る」

と私はやる気を出していた。


「くるみ今日はお泊まり?」

「お正月にはね伸ばしたから帰らないとダメなの」

手を合わせて謝った。

「仕方ないよ」と彼は寂しそうに私を抱きしめ熱い口づけをした。

「明日の朝ごはんは一緒に食べよう」

「楽しみにしてる」と笑顔になった。


翌日、私は早朝から彼の自宅でだし巻き卵の練習をしていた。

お味噌汁と卵焼きに焼き魚だけだが朝ごはんが出来たので、彼を起こしに行った。

「仁、おはよう」と口づけをした。

「あれ?くるみ?」

「朝ごはん一緒に食べよう」

と彼の手を握って起こそうとしたのに、逆に彼に引き寄せられていた。

「ごはんより先に食べたいものがあるんだけどいい?」

彼は私を見て囁いた。

私は静かに頷いて、彼の腕の中に沈んでいった。


彼は美味しいと言って朝食を食べてくれた。

私は嬉しかった。


そして東京へ行ってしまった。

仁やっぱり寂しいよ。


毎週土曜日はちょっと忙しい。お母様の指導のお陰でメキメキと上達していく。

毎週彼もご飯を楽しみにしているし、私も仁の嬉しい顔を見るのが楽しみである。

お母様もとてもにこやかだ。


そんな土曜日のある日小包が届いた。

お母様が受け取った。

「あら仁が自分宛に送ったんだわ。何かしら?洗濯物かしら?」

と言って開けはじめた。中からチョコがたくさん出てきた。

「あの子まだこんなにチョコもらえるのね」

クスッと微笑んだ。

「お母様、これからどうするか教えて下さい」

「今行きます」


「さっきの小包にチョコがたくさん入っていたのよ。あの子、高校から急にモテ始めてバレンタインには持ちきれない程チョコが集まってくるの。大学の時も」

「くるみさん、あの子イケメンで女子に人気があるけど信じてあげてね。仁はくるみさんだけが大好きなんだから」

「はい、もちろん信じてます」

「仁の事よろしくね」


彼が戻ってくるなりお母様が

「あんなにチョコどうするの?くるみさん驚いていたわよ」

「あっ!母さん!何で無断で開けるんだよ」

「いいじゃない、母親なんだから」

「僕もうっかりしてたよ。あー面倒臭いな」

彼はかなり不機嫌になっていた。


「あのー仁。私は全然気にしてないし信じてるから大丈夫だよ」と彼に伝えた。

「くるみ、ありがとう。母さん!僕達の仲をどうにかしようとしてないよね?」

と食ってかかった。

「あら、そんな事で簡単にダメになるなら諦めなさい。仁にはもっと逞しくなってほしいの。些細な事で揺らがずくるみさんと貫き通して欲しいのよ」

お母様は真剣だった。

「ごめん、大人気なかった。そうだね、甘えていたのは僕だったよ」

彼は反省していた。


「お腹も空いたしご飯食べましょう。今日は仁の大好物のハンバーグよ。さぁ召し上がれ」


お母様は心から仁の幸せを願っている。

私の親もきっと同じ思いでいるのだろう。


3人で楽しく食事をした。

お母様の自慢のハンバーグは最高に美味しかった。


私は自宅に戻った。ルナが珍しく起きていた。

「お姉、帰ってきたの?」あかりが部屋にいた。

「遅くにどうしたの?」

興奮気味に

「私、彼氏ができたの!」と満面の笑みだった。

「あかり、おめでとう!この前の人?」

「そう!絵を気に入ってくれた人」

「あれから、彼に私の絵を見せたら感動してくれて。何枚か購入してくれたの。彼は仕事ばかりで結婚もした事なくて、お付き合いしてる人もいないって言うから食事に誘ったの。そして告白したんだけど返事もらえなくて。

でも今日彼から付き合ってほしいって言われたのー!」と幸せオーラ全開だった。

「あかり良かったね。私応援するし、いつでも力になるからね」

「うん、ありがとう。今度紹介するからー」

と嵐が立ち去ったようだった。


早起きして彼の自宅へ向かった。

そーっと入って彼の寝顔が見たくてベッドへ向かう。が仁がいない。あれ?靴もあったし携帯もある。と思った時、後ろから優しく抱きしめられた。

「おはよう、くるみ。まだ僕が寝てると思ってた?」と耳元で囁いた。

私は少しはにかんで「仁の寝顔が見たくて」


彼は私を抱きかかえてベッドへ運んだ。

「くるみ、僕にそんな事言って何がして欲しいのかな?」

「えっ」と真っ赤になった私を

「くるみはやっぱり可愛すぎる」と言って押し倒し

「愛してるよ、くるみ」

二人は愛し合った。


一緒にシャワーを浴びて、朝ご飯を食べながら

「くるみ、土曜日お泊まりできないかな?」

「どうしたの?」

「くるみの誕生日パーティーしようと思って」

「覚えててくれたの?」

「当たり前じゃないか。最愛の人の誕生日を忘れるわけがない」

「ありがとう。とても楽しみだなぁ」

「僕も楽しみだよ」

彼は浮かれていた。



今日は私の誕生日である。

彼はお母様に今日の料理教室を断ってくれたようだ。お昼には自宅に戻ってると彼から言われた。


手作り弁当を持って彼の自宅へ向かった。

「仁、お弁当作ってきたんだけど一緒に食べる?」

「うん、お腹ペコペコなんだ」

彼は美味しいと言って食べてくれた。

「くるみ、料理上手になったね。全部美味しかったよ。僕の為に頑張ってくれてありがとう」

「仁は私の為にたくさん努力してくれている。

私も自分に出来ることを仁の為に頑張りたかった。それに仁の笑顔好きだから」

彼は私を愛おしく見つめていた。


「久しぶりに映画でも見る?」

「そうだね、見ようか」

「アバターどうかな?いい?」

「私、好きなんだ。楽しみ」

二人はまったりと映画鑑賞をした。

私は仁が横にいるだけで幸せだった。


インターホンが鳴った。

彼はどうぞと言ってドアを開けた。

「今日はお招き頂きありがとうございます。

これから誕生日パーティーの準備をさせて頂きます。キッチンをお借りしますので、準備が整いましたらお声をかけさせて頂きます。では」


私は何が起きているのか分からなかった。

「今日の為に出張料理人をお願いしていたんだ。

僕、一度してみたかったんだよね。だからくるみの誕生日にしようと決めてたんだよ」

「私、突然で驚いてるの。けど凄く嬉しい。

どんなお料理か楽しみだね」

二人ともワクワクしていた。


待っている間は映画の続きを見ていた。

アバターの世界観が私は好きである。

料理のいい匂いがしてきた。


「ご用意ができました。こちらへどうぞ」

オシャレなテーブルクロスの上に置かれた品のある食器。料理も美しく盛り付けしてある。

私は思わず「素敵!」と声が出てしまった。

シェフは嬉しそうに微笑んでいた。

ワインを注いでもらう。

「くるみ、お誕生日おめでとう!

これからもずっと僕の側にいてね。」

「仁、ありがとう。私感動してるの」

ウルっとしてしまった。


「くるみ!乾杯しよう」

「カンパーイ!」


料理も美味しいし感動する味付け。

出てくるタイミングもバッチリ。これがプロなんだと勉強になった。彼も大満足だったようだ。

シェフが最後にデザートですがよろしいですか?

と尋ねてきた。

彼は「はい」と言った。

私だけに出てきたデザート。

小豆とカスタードのミルフィーユ。彼が特別にシェフに頼んで用意してくれたものだった。

私は一口食べる。美味しい。小豆とカスタードって合う。私は幸せになった。

シェフは「お口に合いましたか?小豆を使うデザートは初めてなのでどうでしょうか?」

「とても美味しいです。和菓子が好きな方にもいけるメニューだと思います」

「ありがとうございます。ご意見を参考にさせて頂きます」

「今日はこれで終了となります。ありがとうございました」

と手早く片づけて帰っていった。


私はもう感動し過ぎてお腹も心もいっぱいだった。

彼が隣に座った。私を見つめて

「くるみにプレゼントがあるんだ」

と小さな箱を渡してくれた。

「開けてみて」

私はゆっくり開けた。指輪だった。

「僕からの婚約指輪です。受け取って下さい」

「はい!」笑顔で答えた。

彼は箱から指輪を取り出し私の薬指にはめてくれた。二人は熱いキスを交わした。


「私夢を見ているかと思うくらい今幸せです。

仁は私の好きな事どうしてわかるの?」

「くるみの好きな事はなんでもわかるよ。

これからくるみの大好きな事しようと思ってるくどいいかな?」とニコッとして言った。


彼は私を抱きかかえベッドに向かう。

二人は幸せいっぱいの夜を過ごした。

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