第10話 約束

翌日からいつもの日常が戻ってきた。

早速、彼からおはようの電話がきた。元気そうな声でなにより。


後日、一条さんからもお礼の電話をいただいた。院長もお母様も安心して、仁も普通に戻って仕事をしているとの事だった。

私は心からホッとした。


私の方はあれから父とはあまり話していない。

今、父は健吾の会社と新しい建築物の打ち合わせで忙しそうにしていた。父はフリーの一級建築士なので健吾にとっても都合が良かったのだと思う。


そういえば、健吾にはきちんとお詫びをしなければと考えていた。いつがいいかメールをしておいた。


明日は休日なので彼の家へ行く日である。彼からは朝から来てとおねだりされたが、私も心を鬼にして昼から行くように約束した。

するとメールが来た。健吾からだった。明日の昼ならいいとの返信だった。

私はランチの美味しいレストランで食事をする事を約束した。彼の家からも近いし都合が良かった。


私は健吾とレストランにいた。健吾はパーティーの事は気にしていないと言ってくれたが、私はどうしても謝りたかった。

「あの時はごめんなさい。私も彼も反省しています。大変ご迷惑をおかけいたしました」

と頭を下げた。

「いいから、本当に気にしてないから。まあ、びっくりはしたけどさ。彼氏だっけ?元気にしてる?」

「うん、いろいろあったけど今は元気だよ。これから彼の家に行くの。ここから近いんだ」

「ふーん、くるみがあんな年下の子とねー」

とニヤニヤしていた。

「変なこと想像しないでよ、もう」

と口を尖らせた。


仁はくるみが大好きな和菓子を買ってレストランの横を通る。すると窓越しにくるみが見えた。仁はどうしてくるみがここに?と。隣には健吾の姿が飛び込んできた。衝撃が走る。仁はまた嫉妬でいっぱいになった。どうして健吾さんと。仁は急いで自宅に戻った。冷静になれ、大丈夫だ。くるみは僕のものだと言い聞かせた。


「いやー美味かったよ。ご馳走様。くるみも頑張れよ。もし悩みがあればいつでも言ってくれ。元夫だから相談しやすいこともあるだろう?」

と健吾は爽やかに言った。

「ありがとう。あったらお願いします。健吾も頑張ってね」と別れた。


私は急いで彼の家へ向かった。インターホンを鳴らすが出てこない。

「どうしたのかなぁ」もう一度鳴らす。

彼は怒った顔で出てきた。

私は「遅れてごめん。仁の好きなカツサンド持ってきたよ」と息を切らせて言った。

「さっきまでどこで誰といたの?」と質問された。

「えーと、近くのレストランでパーティーのお詫びに健吾と食事をしてたんだけど」と答えた。

「ふーん、お詫びねー」と疑いの眼差しで私を見た。

「えっ、どうしたの?」私は焦った。

「本当に健吾さんとはなんでもないの?」

「もちろん」

「僕に誓って」「うん、誓って」

「じゃあ、入って」と彼はやっと部屋に入れてくれた。


「僕もね、くるみの好きなどら焼き買ってあるんだ」

「嬉しい、ありがとう。あれ?もしかして、その時目撃したの?」

「そうだよ。僕やきもちで変になりそうだったんだからね」

「ごめん、先に仁に伝えておけば良かったね」

と手を合わせて謝った。

「じゃあ、これで許してあげる」と言って

私に熱いキスをした。

彼のお腹がグーッと鳴った。私は笑って

「さっきのレストランのお持ち帰りメニューでおススメだったから仁に買ってきたんだけど食べる?」とカツサンドを差し出した。

「いただくよ」と美味しそうに食べていた。

私は冷たいレモンティーを入れて彼の隣で寛いでいた。


突然、インターホンが鳴った。またも嫌な予感。

彼が出る。仁の両親だった。

「どうしたの?二人で。まぁ入ってよ」

「お前の事が心配で来てみたんだ」父親が言った。

「あら、やっぱりくるみさん来てたのね」

と母親は私を見た。

私はソファから立って

「先にお邪魔しています」とお辞儀した。


「君がくるみさんか?先日は仁がお世話になったね。親のくせに子供の事が分かってなくて、結局看護師や君に助けてもらったよ。申し訳なかったね」

と父親は私に頭を下げた。

「それで、お母さんとも話し合ったんだが、くるみさんとの結婚を認めようと思ってね」

「認めてくれるの!」と彼は叫んだ。

「うん、まあ条件はあるんだが仁のあんな姿を見ていたら許すしかないだろう」

「そうよ仁。もっとしっかりしてちょうだい」

母親が呆れて言った。


「くるみに相応しい男になったら結婚する。僕は父さんの言う通り何もわかっていなかった。ただ自分の事だけ考えて行動してた。だから、きちんと判断できる大人になるまで僕達を見守っててほしんだ。いいかな?」

と仁は両親に思っていたことを吐き出した。


「お前はくるみさんと生涯を共にすると決めたんだな」

「はい」

「協力しよう。その代わりお前には病院を継いで欲しい。それは約束してくれ」


少し沈黙があった。


「わかったよ。病院は僕が引き継ぐから安心して。だから絶対にくるみとの仲をどうにかしようなんて考えないでよ。もし破ったら契約終了だから」

「あら、大丈夫よ。約束は守るわよ。ねぇお父さん」と母親が笑みを浮かべてた。

「話は以上だ」

と言ってご両親は帰っていった。


仁は真剣な顔で

「くるみ、一日でも早く君のお父さんに認めてもらえるように頑張るから待っててくれる?」

「はい、待っています」

と私は答えた。



「ねぇ、あなた。仁があんなに真剣にくるみさんの事考えて努力しようとするなんて、私二人を応援したいわ。仁には強く生きていってほしいの。守る大切なものができたのだから」

母親は嬉しそうに言った。

「そうだな、仁には幸せになってほしい」

父親は心の底から思うのだった。

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