第8話 2つのパーティー

朝になっていた。とても眠い。ルナが顔を舐めてきた。

「おはようルナ。起こしてくれてありがと」

ルナはしっぽをブンブン振って喜んでいた。


朝食を済ませて仕事に行こうとしたら

母が「そういえば、昨日健吾さんが会社設立のパーティーが土曜日にあるから是非来て欲しいって。くるみは行くの?」

「ごめん、私その日用事があるから父さんと母さんで行ってきて」と家を出た。


そして土曜日の朝が来た。私は掃除、洗濯を済ませ、仁の誕生日プレゼントを買いに行った。

彼、喜んでくれるといいな。


私が出かける準備をしていたら、父から電話があって健吾のパーティーにどうしても間に合わないから、代わりに私に出席してほしいという内容だった。私は絶対に無理だと断ったが父も譲らず電話を切られた。

どうしよう。今日は彼の誕生日なんだから無理に決まっている。

そうだ!あかりに頼もう。あかりに電話をしたら今彼氏と旅行中だと言われた。

本当にどうしよう。時間が無い。とウロウロしていたら彼が迎えに来てしまった。


私は彼に事情を話すと

「じゃあ、僕と一緒にパーティーに行こう。そして健吾さんに挨拶して、僕の誕生日パーティーすればいいでしょ」とさらりと言った。

「これで決まり。会場どこ?」

「えっ、ダメだよ!」と私は焦った。

「何で?未来の夫と一緒にパーティー出たらダメなの?」

「いやいや、待ってよ」

「大丈夫だから、ほら行くよ!」

と彼は楽しそうだった。

もう両親になんて説明するのよ。あーもー、こうなったらどうなっても知らないんだから。


パーティー会場に到着した。私と仁は会場へ入って健吾を探した。すると健吾の方からこちらへ来てくれた。

「くるみ、よく来てくれたね。あれ?お父さんとお母さんは?」

「あっ、父と母は仕事で出席できなくて私が代理で来たの」

「ああ、そうだったの」

と健吾は少しがっかりしていた。


「この度は会社設立おめでとうございます。健吾は凄いよ。有言実行だね」

「いやー、全然凄くなんかないよ。必死になってやっていたらもうこんな歳になっててさ。予定ではもう少し早かったんだけどね」

と照れくさそうにしていた。


「さっきから気になっていたんだが、隣にいるイケメン君は誰かな?」

待っていましたとばかりに仁は

「初めまして、尾崎と申します。くるみさんとお付き合いさせていただいています」

っていきなり言っちゃった。

「えっ!お付き合い?君がくるみと?」

健吾はびっくりしていた。そうだよ、普通そのリアクションだよ。

「はい、結婚を前提にお付き合いしています」

仁は自信満々に答えていた。

ああ、私はここから逃げ出したい気分だった。


「くるみ本当なの?騙されてないよね?」

健吾は私に聞いてきた。

「健吾、本当の事だよ。騙されてもいない。私の彼氏なの」と答えた。

健吾はびっくりし過ぎて動揺しているのがわかった。

だが仁は気にせず

「今日はこれから僕の誕生日パーティーがあるので失礼します」と言った。

私は健吾の事が気がかりだったが会場を後にした。


「ね、上手くいったでしょ。健吾さんびっくりしてたね」「うん」と気のない返事をした。

これでよかったのかと不安がよぎる。

「今から僕だけのくるみでいてね」

と甘えるように言った。私は黙っていた。


彼の自宅に到着した。プレゼントを持って彼と手を繋いで部屋に入る。

「誕生日パーティーへようこそ」

テーブルにはご馳走が並んでいてシャンパンやワインもある。花束はオシャレな花瓶に飾られて

「ステキ!これ仁が全部したの?」

「そうだよ」

「仁の誕生日なのに私がするべきだよね」

「いいの、いいの。僕の誕生日なんだから僕がしたいようにするの」とニコッとした。


「仁、お誕生日おめでとう。これ私からのプレゼント。開けてみて」

「ありがとう。くるみからのプレゼントなんて嬉しすぎる」と言って楽しそうに開けていた。

私はシルクのパジャマをプレゼントした。

「くるみ、僕パジャマは着ない派なんだけど」

「えっそうなの?どうしよう、そんなこと思いもよらなくて」私は慌てた。

「嘘だよ。くるみのプレゼントだから大切に着るよ。そしてくるみと一緒に寝るんだもん」

「一緒に寝る?って」私は赤面した。

彼は私を困らせて楽しんでいた。やっぱり子供だなぁ、可愛いなぁと思った。


私達は食べて、飲んで、笑ってはしゃぎまくった。


夜が更けて彼が

「くるみおねだりしてもいい?」と言った。

私は「何を?」

「僕が一番欲しいプレゼント」

「うん、何が欲しいの?」

「僕はくるみが欲しい」と彼が言った。

「えっ!なに?ちょっと待って!」

私は心の準備ができていないし、勝負下着でもないし、久しぶりで自信もないし。

彼がいきなり覆いかぶさってきた。

彼はとろけるような瞳で私を見つめ

「くるみは僕の宝物」と耳元で囁いた。

私はドキドキして心臓が飛び出しそうだった。

「いいの?」と彼が聞いてきた。

私は「はい」と静かに言い、仁と私は結ばれた。


朝目覚めると隣に仁が寝ている。

昨日の夜の事を思い出して、私は恥ずかしくてたまらなかった。

彼が目を覚ました。

「くるみ。お目覚めのチューは?」

とおねだりしてきた。

「おはよう」と言って頬にチュッとした。

彼はガバッと起きて

「くるみ、チューは口だよ。ほっぺじゃない」

と言い、私に口づけしてきた。

なんだこの甘い朝は。こんなの毎日じゃ身がもたないよ。


二人でシャワー浴びて、のんびり朝ごはんを食べていた。

突然インターホンが鳴った。私は嫌な予感がした。

彼が「やば!母さんだ。ずっと電話もメールも無視してたから来ちゃったか」

「私どうしよう。ここにいたらまずいよね」

とオロオロしていた。

「なんで、僕の妻になる人なんだからいなきゃダメだよ」


「仁、居るんでしょ?早く開けなさい」

と、怒りの声。

うわぁ、怒ってるし。ここに私がいたら火に油を注ぐのと一緒だよ。まずいよ。


「なんだよ、母さん。今開けるから」

彼の母親が入ってきた。


「仁、どうして無視するの?お母さん心配で。お父さんから聞いたわよ。相手は45才だって。あなたどうかしてるわ。もし遊びならすぐ別れてきちんとした相手見つけてちょうだい」


「母さん、僕は本気だよ。父さんにも言ったけど結婚を考えているんだ」仁はキッパリ言った。


母親は聞いていないかのように

「それに、病院を継がないって本当?お願いだからそれだけは貴方に引き継いで欲しいの。何の為にここまで頑張ってきたのよ。仁どうしちゃったの?昔みたいに素直な仁に戻って」

母親は泣きそうな顔で訴えていた。


「母さん、これが本当の僕だよ。僕はあなた達の所有物でもないし、道具でもない。育ててくれた事は感謝しています。だけど僕の人生は僕自身が決めて進んで行きたいんだ。もう、言うなりの人生なんて嫌だ」と彼は強い口調で言った。


「仁。あなたの事を一番に考えてしてきた事だったのに、どこで間違えてしまったのかしら」

と母親は静かに俯いた。


仁は私の隣に来て

「母さん、紹介します。美山くるみさんです」


私は腹をくくって

「はじめまして、美山くるみと申します。

なんて言っていいのか、仁さんの気持ち信じてあげて下さい」と小さい声で挨拶した。


母親は私をじっと見つめ、少しキツい表情で

「あら、45才って聞いていたけど思っていたより若いじゃない。千歩譲ってギリギリ仁とつり合う状態ね。仁が年増女に騙されていると思ったけど、全然印象が違っててがっかりしたわ」

と鼻息を荒くして言った。

「私は失礼するわ。あなた達のお邪魔虫になりたくないもの。まだ認めたわけではないから覚悟しておきなさい」と去っていった。


「ごめんくるみ。嫌な思いをさせちゃったね。母さんも悪気はないんだ。ちょっと自己中でキツい人だからあんな言い方してるけど、多分くるみの印象悪くなかったと思うよ。これは僕の見立てだけどね」

とニコッとした。

「本当にびっくりしたよ。生きた心地しなかった」

私はクタッとソファに座り込んだ。

「ごめん。お詫びに僕がチューしていい?」

えっと言う間もなく仁の唇でふさがれてしまった。


「朝ごはん途中だったね、食べようか」

「そうだね」と二人で楽しく食事を続けた。


「くるみはスターウォーズは好きなの?」

「うん、大好きだよ」

「僕が一番ワクワクした映画なんだよね。これから見る?」

「うん」

「DVD全巻セットあるんだ。どこから見る?」

「そうだね。エピソード1から見ようよ。いいかな?」

「もちろん」と彼は手早く準備してくれた。


彼は私の隣に座った。

「ねぇ、くるみ。僕は年齢なんてひとつも気にしていないよ。くるみじゃなきゃ意味がない。やっとくるみをみつけたんだから。絶対にもう離さないよ」

と私の肩を寄せた。

「うん、絶対に離さないでよ。私すぐ迷っちゃうんだから」

「大丈夫だよ。必ず掴みに行くから」

仁は私を見つめると熱いキスをした。


すっかり日も暮れ、そういえば私何か忘れているような気がした。携帯を見るとたくさんのメールやメッセージが入っていた。

ヤバい!両親に報告もせずに外泊して、健吾のパーティーの事も伝えていなかった。

私は我に帰り、彼に直ぐに送ってほしいと頼んだ。

彼はキョトンとして

「まだ早いよ。もう少しいいでしょ」

と甘えてくる。

「いや、ダメだよ?お願い。今すぐ私帰らないと家に居られなくなる」と言うと

「ここにずっと居ていいんだよ」

とニヤニヤして言った。


私は困った顔をした。すると

「今送るよ。そしてご両親に挨拶しないとね」

と仁はキリッとした顔で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る