第7話 初キス
小さい頃から勉強ばかりして友達も少なく一人が多かった子供時代。だから唯一映画を見るのが楽しみで違う世界へ連れていってくれる、その時だけでも幸せになれた。
親に言われて獣医になって、病院の跡取りなんだからと言われ生きてきた。
でもこれからは僕と彼女のために生きたいと思っていた。
彼は仕事帰りにくるみの自宅近くまできていた。どうしてもくるみに会いたかった。
電話をするが出ない。車はあるから家に居るはずと思って自宅の横に車を止めた。
すると男の人と一緒に自宅から出てくるくるみを見た。仁に衝撃が走った。アイツは誰だ!
くるみは笑顔で手を振って男を見送っていた。
仁は身体の震えが止まらなかった。
そして男が車の横を通り抜けると直ぐに
「くるみ!」と駆け寄った。
そしてくるみを力強く抱きしめた。
「仁、どうしたの?電話くれれば会いに行ったのに」
「今の誰!アイツ誰!」緊迫した声で言った。
「あー、あの人元旦那だよ。新しく会社設立したから親に挨拶に来ただけ」
仁はさらにくるみを抱きしめた。
「苦しいよ。どうしたの?」
彼は無言だった。
「じゃあ、私着替えてくるから少し待ってて」
仁は車に戻ってくるみを待った。
自分がこんなにも嫉妬深い人間だと初めて知った。くるみの事になると冷静じゃいられなくなる自分に戸惑っていた。
「お待たせ」とくるみは助手席に乗った。
「仁、何かあったの?急に来るくらいだから重要なこと?」
彼は
「今日父親にくるみのこと認めないって言われた。僕はずっと今まで両親のいう通り生きてきた。だけどくるみに出会ってそれは違うと気づいたんだ。僕はくるみと一緒にこれからの人生生きていきたい。病院の事も跡取りの事もどうでもいいと思っている」
私は
「そうだね、15才上の女と結婚なんて許さないと思うよ。親は子供のことを一番に考えているものだから。だけど親の所有物で無いから勘違いしてしまう親も中にはいると思う。親はね、子供が不幸になってる姿なんて見たくないもの。最後は分かってもらえると思うよ」と諭した。
彼は「今から僕の自宅に行くけどいい?」
「大丈夫だよ。いいよ」と答えた。
怒っている彼を見るのは初めてだ。いつも穏やかな彼しか知らなかった。彼はずっと無言だった。
彼のマンションに着いた。高級マンションだ。
彼は助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ、くるみ」と手を差し伸べてくれた。
私はこんなお姫様扱いされたのは初めてで嬉しかった。
「ありがとう」と手を取り降りた。
彼は手を握ったままエレベーターに乗り部屋まで案内してくれた。
「ここが僕の家。くるみが初めてのお客様です」
といつもの優しい彼だった。
部屋に入るととても広くてシンプルで落ち着いた印象だった。私は思わず
「うわぁ、素敵な部屋」とはしゃいでしまった。
「ソファに座ってくつろいでて」
ソファも革張りの高級な感じ。座り心地も良い。
なんだか差があり過ぎて私の部屋に招待できないなと思ってしまった。
「くるみ、何飲む?コーヒー、ハーブティー、緑茶にアップルティーもあったような?どれがいいかな?」
そんな種類あるの?女子力高いよ仁は。
「コーヒーは眠れなくなるから、ハーブティーでお願いします」と答えた。
「僕と同じだね。カフェインに弱くて夜はもっぱらハーブティー飲んでるよ」笑顔だった。
いつもの彼に戻ってくれてホッとした。さっきまでは少し怖かったから。
「ハーブティーどうぞ。おかわりもあるからたくさん飲んで」
「うん、ありがとう」
彼は私の隣に座った。とても近いというか密着してるよー。私は少しだけ席をずらした。
彼はイタズラな顔をして
「ダメ?」と言ってきた。
私はしどろもどろになりながら
「ダメではないけど、ちょっと」とモゴモゴしてしまった。
「ちょっと何?」と聞き返してくる彼。
うわぁ、どうしよう。これって逃げられないって事だよね。
「くるみは本当に45才なの?普通なら僕がくるみに襲われても不思議じゃないのにね。くるみはやっぱり可愛いよ」と頭を撫でられた。
私はキュンとしてしまった。
「はぁ、私の方が年上なのにリードされっぱなしだね」
「これからも僕がくるみをリードするよ。くるみもその方が良いでしょ」と得意気に言った。
彼は私を見つめ
「ねぇ、キスしてもいい?」
と甘い声で囁かれて、私はコクリと頷いた。
彼の唇が私の唇と重なって優しく抱きしめられていた。仁の早い鼓動が伝わってくる。私もドキドキが止まらない。見つめ合って微笑む二人。
彼が
「今週の土曜日僕の誕生日なんだ。その日は僕の家で一緒にお祝いして欲しいんだけどいい?」
「もちろん、じゃあプレゼント何がいいか考えておいて」
「うん、もう考えてあるから大丈夫」
「えっ、何?」
「当日に教えるから」
「それじゃ間に合わないでしょ」
「大丈夫なの。だからくるみは自宅で待ってて。僕が迎えに行くから」
「うん」とよく分からないまま返事をした。
「じゃあ、もう遅いから送っていくね。くるみ寝不足は堪えるでしょ?」
「こらっ!」と彼の背中をポンと叩いた。
彼は嬉しそうに笑っていた。
仁といると本当に楽しい。年齢なんて関係ないと思ってしまう。ああ、私なんで45才なんだろう。同じ30才ならなんの問題も無かったのに。
「くるみまた明日」と言って彼は帰った。
部屋に入るとルナはぐっすり寝ていた。そっとベッドに入って私は眠りについた。
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