第10話・解決

蒼「……」

さくら「……」


次の日、いつも通りさくらと共に登校しようと家を出ると


悠真「お……おー、蒼…さくらちゃん…」

蒼「お、おはよう、悠真」

さくら「おはようございます…悠真先輩…その……」


きなり「〜♪」


さくら「とっても仲良しさんですね」


悠真と、そして悠真の腕に抱きついた藤咲さんがいた


悠真「……」


悠真の顔色は思った以上に悪い…と言うかどこか慌てているようにも見える


蒼「えっと……な、なんで悠真と藤咲さんが一緒に?家が近いとか?」

悠真「それがさ……」

きなり「私の家と悠くんの家が隣同士なんです♪」

蒼「あぁ……」


あるあるだね、小説とかゲームとかでよく見るよ、主人公の隣の家とか向かいの家にヒロインの1人が引っ越してくるみたいなやつ


さくら「あー……悠真先輩って、学校でもモテモテの大人気ですもんね!」


朝一番からラブラブカップル(のように見える)様子を見せられてさくらの眠気も覚めたらしい


悠真「え、いや、いやぁ……は、ははは…そんなことないと思うけど……」

蒼「……そ、そうだ、朝からあったんですから、せっかくなら一緒に登校しませんか?」


悠真がチラチラとこちらに助けを求めてくるのでなんとか言葉を絞り出して手助けを送る……断られると思っていたけれど、返ってきた返事は思ったよりも友好的な言葉だった


きなり「わかりました、一緒に登校しましょう?」

蒼「え」

悠真「お、おおー!そうと決まれば早く行こうぜ!な!?」

さくら「え、ちょっ、せ、先輩!?押さないでください!ちょっと!?」


ごめん、さくら…でも兄とその友人を助けると思って付き合ってほしい…



さくら「ねぇお兄ちゃん、どう言うこと?って言うか何この状況!あの女の人見たことないけど、また先輩女の人ひっかけたの!?」


通学中、先を歩く2人の後ろに並んでさくらが話しかけてきた…僕は包み隠さず事情を話すことにした


蒼「小学生の時、悠真が助けた女の子らしくてさ…一時の夏を一緒にしたらしいんだけど……」


知ってることを全部話す、と言っても、僕が知っていることも少ないし、こちらからしたら不明瞭な点も多い、こんなことなら詳しく聞いておけばよかった


さくら「えなにそれ、ラブコメ?」

蒼「いや思ったけど」


やってることが完全に恋愛小説の主人公である、クラスの人気女子複数人に好かれていて、転校生の女子生徒と古い知り合いでしかもその子と過去に何かあったとか、普通に恋愛小説の主人公のそれである(2回目)


さくら「お兄ちゃんのクラス、大変なことになってない…?」

蒼「大変なことになってる、田中とか」

さくら「誰それ……」


いやあの壊れ具合は普通じゃなかった、なんかもはや恨みの域じゃないかと思うほど


さくら「はぁ……なんでも良いけど、お兄ちゃんは巻き込まれたりしないだよね…確かに、私のクラスでも先輩は話題に上がるぐらい人気で、モテモテで、みーんな先輩にキャーキャー言ってるような、確かにそんな魅力が多い先輩なのはわかるけど…」


少しずつ俯いて、一度悠真の方を見てから、今度はこちらを見てくる…その瞳は真剣そのものだ


さくら「私にとっては先輩よりもお兄ちゃんの方が大切なんだから」

蒼「あはは……気をつけるよ」


ごめんさくら、もう十分巻き込まれてると言うか渦中にいる



悠真「はぁ……」


クラスに入ると、周りの生徒が悠真と藤咲さんの方を一斉に見る……女子生徒からは興味津々、男子生徒からは嫉妬の視線だ


きなり「?悠くん?どうかしました?」

悠真「すっごい見られてる」

きなり「?見られて……?」


嘘でしょ、この視線に気がつかないってどんだけ鈍感なのきなりさん、悠真の女子からの想いへの鈍感さと同じくらいの鈍感さっすよそれ


蒼(全く…)


視線感じながら僕たち3人はそれぞれ自分の席に座る…なんというか、本当に困った……


由紀「蒼くん、悠真」

蒼「!」

悠真「お、由紀…おはよう」

蒼「お、おはよう、由紀さん」

由紀「2人とも、疲れてるみたいだけど…」

悠真「あー……まぁ、うん」

蒼「色々あって…」

由紀「?……そう」


訝しげにこちらを見つめる由紀さん、すると、そんな彼女に気がついたのか藤咲さんが由紀さんの方へやってきた


きなり「あ、由紀ちゃんさん、おはようございます」

由紀「きなり、おはよう、学校の場所は覚えられた?」

きなり「はい!まだちょっと怪しいところがありましたけど……でも、悠くんが案内してくれたからちゃんと来れました!」

由紀「そう、よかったわね…学校内で何か困ったことがあったら言ってね、私も力になるから」

きなり「わぁ……ありがとうございます!」

由紀「うん」


あれ、なんか2人は良い感じに友好関係結べてる感じ……?まぁ確かに、由紀さんは紅音さんや怜のように感情を素直に表に出すような人じゃないし、そういう意味では悠真にガンガンアタックをしに行くきなりさんとは間に何か入ることもなく友好関係を築けるのかもしれない


蒼「……」

怜「悠真!蒼くん!」

悠真「お、怜、今日は遅刻しなかったんだな」

怜「えなにその私が毎日遅刻してるみたいな」

悠真「3遅刻で1欠席判定くらったくせに」

怜「ゔっ!」

蒼「あはは……まぁまぁ、おはよう、怜」

怜「おはようー、もー、ほんとひどいよねー」

悠真「悪かったっての…?あれ、紅音は?」

怜「紅音ちゃん?紅音ちゃんは……まだ来てないのかな」

紅音「えいや、普通にいるけど」


気がつくと、紅音さんは悠真のすぐ後ろに立っていた


悠真「……いや、心臓に悪いわ」

紅音「気が付かれなかったの私の方なんだけど!?」


紅音さんが抗議するように声を上げる…いやそりゃそうだ…


紅音「まったく…それで、今日悠真は、きなりさんと登校してきたのよね?」

悠真「え、ま、まぁ、そうなるけど…」

怜「えー!?ずるいずるい!私も一緒に登校したい!」

悠真「いや怜の家は逆方向だろ……」

怜「迎えに行く!」

悠真「朝何時に起きる気だ」


今更ながら、本当に悠真は好かれているなと思う、女の子にモテモテで、それこそ主人公並みだ、別に僕にはモテたいとか恋人が欲しいとか、そういう欲があるわけではないけれど、それでも[すごいなぁ]とは思ってしまう、本人にとっては悩むことも多いだろう、女性恐怖症という側面を持つ彼にとって……


きなり「〜で…が」

由紀「そうなの?私は〜に…が」


きなりさんは、そんな悩みの象徴みたいな存在だ


蒼(なんとかできれば良いけど…)


賭けになってしまうけれど……ここは大きく出ることにしよう……そして僕は、藤咲さんに声をかけた



悠真「はぁ……」


そうして帰り道、悠真は昨日と同じように項垂れながら歩いていた


蒼「大変だったみたいだね、今日も」

悠真「まぁな……きなりのひっつきにも困ったもんだよ…」

蒼「あはは……でも、良いんじゃない?それくらい悠真が好かれてるってことだしさ」

悠真「そりゃ、そうだけどさ……」

蒼「……ねぇ、悠真」

悠真「?どした?」

蒼「……話し合ってくれば?」

悠真「……え?」

蒼「悠真の中藤咲さんがなにか突っかかってるっていうのはよくわかるし、過去に何かあったんじゃないかっていうのは僕にもわかる……でも」


僕はこの二日間、悠真ときなりさんを見て思ったことをそのまま告げる


蒼「何かあったのは、悠真じゃなくて、むしろ藤咲さんの方じゃない?」

悠真「!それ、は……」

蒼「その何かのせいで、悠真は深く傷ついて、次第に女性と関わるのを避けるようになった……そうでしょ?」

悠真「……」

蒼「……僕は、詳しくは聞こうとは思わない、でも…悠真にとって、その一夏のことは、決して目を瞑ってはいけないことだと思う」

悠真「!」

蒼「……頑張ってこい!宮原悠真!」

悠真「……あぁ!」


僕のその言葉を聞いて、悠真はきた道を走って戻る、藤咲さんは先生に呼ばれている[という設定]になっているため、このまま走って戻っていればどこかで合流するという算段だ


蒼「全く……」


僕はスマホを操作して、メッセージを送る、今日初めて連絡先を交換した彼女へ



次の日、朝に家を出ると、一緒に登校している悠真と藤咲さんを見つけた


蒼「悠真、藤咲さん」

悠真「お、蒼!」

きなり「蒼さん、おはようございます」


ぺこりと藤咲さんが頭を下げる……悠真は昨日ほどギクシャクしたような様子はない


蒼(うまく行ったんだ……)


僕にとっては、この2人の間に何があったのかわからないし、本当に突然始まって突然解決したような感じだ……でもそれは…


蒼(悠真が元気になってるから、言いっこなし、かな)


そうして僕は、彼女の連絡先を自分のスマホから消した

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一応主人公ですけども 蜜衣柑斗 @11070616

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