第9話・嫉妬
いつもの5人に、きなりさんをたした6人で昼食を食べる…悠真もきなりさんも、自分から進んで過去の話をしようとはしなかったし、僕たちも無理に聞こうとはしなかった
蒼(でも、今は別の意味で気まずい)
さっきまでは、悠真と過去に何かあった人がやって来たことによる警戒、そして今は…
きなり「悠くん、はい、あーん」
悠真「ちょちょちょちょちょちょちょちょ、待て待て待て待て待て待ってください、きなりさん、自分で食べられるって…!」
きなり「あの時は、ずっとこうしてご飯食べてましたよ?」
悠真「え、そ、そう、でしたっけ…全然何にも覚えてないんですけど」
怜「ぐぬぬぬ…」
紅音「くっ…グイグイ行ってるわ…!しかも間に入れない空気感…!」
由紀「はむ……」
これである、というかこれでしかない、きなりさんは3人の視線に気が付かずに悠真にあーんしようとしているし、周り3人からはえも言えない怒りがじわじわと伝わってくる……しかも悠真は女性恐怖症完全発動、圧倒的カオス、誰か助けて
蒼「あ、あー……そう言えば僕、先生に呼ばれ[ギンッ!]てた気がしたけど気のせいだった〜」
サラッと逃げようとしたら悠真にすごい勢いで睨まれた、その目は[女にグイグイ来られてるのすごい怖いんですけど]という恐怖心と[逃げたら許さん]という彼の強い思いの両方感じる
由紀「?本当に大丈夫?もし不安なら、少し先に抜けて先生のところに行って確認してくれば」
蒼「いやいやいやいやいや大丈夫です!というかここにいさせてください!」
ここから抜け出そうものならこの後悠真には何言われるかわかったもんじゃない……かと言ってどうしよう、正直に言ってこの状態はどうしようもない、悠真はきっと、僕がうまいこと思いついて助けてくれることを期待しているのだろう、だが悲しいかな、そこ2人というかきなりさんの雰囲気は他のものを寄せ付けない何かがある、つまりこれ以上僕は思いつきようがないし何もしようがない……つまり僕には
蒼(このまま昼休み終了5分前の予鈴を待つしかない…!)
なんと悲しい運命か、なんと情けない話か、笑いたいものは笑うが良い、救いたいと、役に立ちたいとほざいていた男はいざ彼が困ると何もできない愚か者なのだと……でも、これだけはわかってほしい……この空間に居なければならないというだけでも相当精神が削られていくということを
怜「ね、ねぇきなりさん?きなりさんのいうあの時って、つまりは小学生の時の話だよね?私たちはもう高校生だし…」
ナイスだ怜!良いツッコミをしてくれた!
きなり「?だって私と悠くんは、運命で結ばれてるし…」
あーそういうタイプねー!?はいはいはいはいはい理解した理解した…だが、それならそれでやりようがある
蒼「藤咲さん、ちょっと良いかな?」
きなり「?なんでしょう?」
蒼「藤咲さんからしてみれば、探して探して、ようやく数年ぶりに見つけた悠真の近くにいたいというのはよくわかる、けどね…悠真は…その…恥ずかしいみたいなんだ」
悠真「え」
きなり「恥ずかしい?」
蒼「そ、そう、よくよく考えて見て?2人が出会ったのは小学生の頃でしょ?その間に2人とも成長したし…その、藤咲さんみたいに綺麗な人にそんなに近くに来られると、恥ずかしくて緊張しちゃうんじゃないかな、ね?悠真」
きなり「え……そ、そうなんですか?悠くん、私、綺麗になりました……?」
悠真「ぅぇ、あ、あー、えっと……あ、ああ!スッゲェ綺麗になったよ!うん!」
きなり「悠くん……!」
キラキラとした目で悠真を見つめる藤咲さん…かくいう僕は悠真に[本気で恨むぞ!]と言う視線を送られている
蒼(ごめん、悠真…今の段階ではこれが最適解なんだ…!)
藤咲さんとは知り合ったばっかりでどういう人物なのかもわからないし、下手に機嫌を損ねたら大変なことになる可能性の方が高い……ちなみに、明らかに悠真がタジタジなおかげで紅音さんや怜、由紀さんからはさっきほどの圧は感じない
きなり「ごめんなさい悠くん、私、興奮してたみたいで…」
悠真「えぁ、ぁ、ま、まぁまぁ、へ、へーきへーき…次からは気をつけてな」
それからきなりさんはあーんをしなくなった、ただ、悠真へのアピールは止まらなくて…僕の胃はキリキリと悲鳴をあげ始めたのだった……
きなり「私、あの時悠くんに貰ったの、今でもずっとずっと持ってるんですよ」
悠真(え……な、なんのこと…?)
ー
4限を乗り越えて5限への救いの鐘が鳴り響き僕たちは教室へと戻った
蒼(なんとか助かった…)
席について、授業の準備をして項垂れる…もしかしてこれ、ここから毎日こんなことになるの…?
蒼(勘弁願いたい…)
自分の前の席に座る彼女を見る…悠真とご飯を食べられたことがそんなに嬉しかったのか、上機嫌で鼻歌を歌っているようだ…
蒼(……でも、彼女と悠真の間で何があったんだろう…)
今日悠真が話してくれたことは、悠真と藤咲さんが出会った時の話だった、問題ごとはその時に起こったのだろうし……
蒼(悠真も、浮かない顔をしている…)
あの調子じゃ、またしばらくは過去の話をしてくれないだろう…無理に詮索するものでもないし、できればしたくない
蒼(なんとか、2人のわだかまりが、ちゃんと解消されれば良いけど…)
そんなことを考えていると、本礼が鳴って、授業担当の先生が入ってくる……一応英語だし…苦手教科だからちゃんと授業を聞かなきゃ…
ー
先生「というわけで、受動態はbe動詞の後ろに過去分詞をくっつけることで形ができる、何度も言うようだが、配った動詞変換プリントをちゃんと覚えておくこと、動詞の原型がわかったところで過去分詞がわからないと意味ないからな……次は進行形の形だが……」
蒼(受動態……be動詞+過去分詞……)
今日の英語は受動態の授業、思ったより難しくて暗記系が多い、ついていくのがやっとだ……先生の話を聞きながら、家に帰ったら復習しないと…なんて考えていると、先生が問題を書いた
先生「では、この文章を受動態にしなさい」
黒板には英文が書かれている……僕もこんな形かなぁみたいなのはできたが、自信はない
先生「それじゃあ藤咲」
きなり「はい」
藤咲さんが立ち上がり、黒板の方へ歩いていく
きなり「……」
きなりさんが先生からチョークを受け取り、静かに、そして迷いなく英文を書く……そして、最後のピリオドを書いてチョークを置くと、先生から声が上がった
先生「正解だ!」
きなり「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてからこちらへ戻ってくる、その途中、悠真と目があったのか、ニコッと悠真の方へ笑いかけ、そのまま藤咲さんは自分の席に座った、悠真はなんともいえない顔で青ざめている
蒼(……なんというか、思ったよりも難しいかも…)
いや英語の授業は難しいけど……それじゃなくて、悠真と藤咲さんの関係を取り持つのが
ー
悠真「はぁ……今日は疲れた…」
蒼「お、お疲れ様…… 」
帰り道、いつも以上に疲弊した顔つきで悠真は歩いていた
蒼「……っていうか、藤咲さんいないんだ、てっきり悠真についてくると思ってたけど…」
悠真「あ?あぁ……転校初日だから色々とやることがあるらしい、俺としては助かったけど……」
蒼「へ、へぇ……でも、悠真も藤咲さんに会えて嬉しいんじゃない?」
悠真「え?」
蒼「だってほら、他の人よりも女性恐怖症が出てないし…いや出てるは出てるけど」
悠真「……そりゃ、困惑したし、なんでここにとも思ったけどさ…また会えて嬉しかったよ…無事だったってわかったしな」
蒼「無事だった……?それってどういう…」
悠真「ほら、さっさと帰ろーぜ、置いてくぞ」
蒼「えちょっ……」
これ以上、無闇に聞こうとするのは野暮かな……
蒼「わかった、帰ろう」
僕たちは、いつも通りの帰り道をいつも通りに歩いていくことにした
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