第8話・転校
数日後、とある噂にうちのクラスは騒然としていた
怜「今日来るっていう転校生、どんな子なのかなぁ?」
紅音「面白い子だと良いわね」
蒼「そ、そうだね」
誰が聞きつけて来たのか、僕たちが教室に入った時にはすでに、[ウチのクラスに転校生がやってくる]という情報が広まっていた、あちらこちらで「女の子か、男の子か」、「イケメンかそうじゃないか」など、さまざまな話で盛り上がっている
由紀「……悠真、どうしたの?」
悠真「……え…?」
由紀「顔色、悪いけど」
悠真「は、ははは、心配すんなって、俺は平気だよ…」
蒼(……)
平気なわけがない、今の悠真にはきっと何かある、それはおそらく…
〜
蒼『おーい、ゆう……ま…?』
悠真『……』
〜
僕の想像だけど、おそらく昨日のアレが関わっているのだと思う
悠真「……」
蒼(……悠真…)
彩花「お前らー、席につけ〜」
そんな会話をしていると白谷先生が教室に入って来た、昨日と違い悠真の方がビクッと震える…みんなもそれぞれ自分の席に戻り……朝のホームルームが始まった
彩花「今日はお前らにビッグニュースだ、このクラスに転校生が来るぞー!」
男子生徒1「先生!その転校生は女の子ですか!?」
彩花「おぅ開口一番失礼だな田中、だがまぁ、女の子だ」
先生がそう答えると、クラス中の男子がわっと湧き上がる、歓喜の声を上げる者、急にカッコつけだす者など、その種類は多種多様、傍目から見るとちょっと引く
悠真「違う……違う…そんなわけ…」
隣の席の悠真は、そんな中でも[違う、違う]と呟いている…その転校生に何かあるのだろうか…
彩花「ほらお前ら落ち着け、いつまでも入ってこれないだろ?」
先生が盛り上がる男子生徒たちを手を叩き落ち着かせる…そしてクラスが落ち着いた後、先生は扉の外にいる生徒へと声を上げた
彩花「藤咲!入って来て良いぞ!」
「はい」
扉越しに返事が返ってくる、そのまま扉が開いて……銀髪の綺麗な女の子が入って来た……ん?
蒼(え銀髪?)
いやまぁ別に問題ではないのだが……この学校は髪染め禁止だし、アレが地毛なのだろうと、少し驚いた
?「アマサギ市から来ました、藤咲きなりです、みなさん、よろしくお願いします」
そう彼女が自己紹介すると、一度静まったクラス内がもう一度湧いた
男子生徒1「銀髪美少女キター!!!」
男子生徒2「このクラスで本当よかった…!」
男子生徒3「ありがとうございます神様!」
わかりやすいクラスメイト達だとつくづく思ってしまう…なんというか、きなりさんに失礼ではなかろうか…
彩花「藤咲はいわゆるハーフでな、フィンランド人と日本人のハーフなんだ、日本語はペラペラだから臆せず話に行けよー」
先生がそういうと、男子生徒ほとんどが「はーい!」と声を上げた…このクラスの1人であることが恥ずかしくなってくる
きなり「……」
蒼(?なんだ……?)
自己紹介を終えた彼女は、クラス中を見回すようにキョロキョロとしていた……
きなり「あっ……!」
何かを見つけたのか、声を漏らし、転校生であるきなりさんはこちらへと歩いて来て…そして、僕の隣、正確に言えば、悠真の席の前で止まった
きなり「やっと……やっと見つけました…ずっと、ずぅっと…探していましたよ…悠くん」
悠真「……」
彼女にそう言われた悠真は、まるで、そう、[どうして……]と言いたげな顔をしていた
ー
男子生徒3「またお前かー!!!宮原悠真ァー!!!」
男子生徒2「クラスのマドンナや元氷の女帝、一番星だけでは飽き足らず転校生までー!!!」
男子生徒1「滅スル…滅スル…!!!」
田中、何する気だ落ち着け落ち着け
怜「ま、待ってよ!」
バンッ!と机を叩いて怜が立ち上がる、意義あり、と幻聴が聞こえて来そうなポーズを取った
きなり「?はい?」
怜「藤咲きなり……さん!貴女は悠真と、どういう関係なんですか!?」
きなり「んー……そうですね…悠くんと私は……運命によって結ばれた2人、でしょうか?」
怜「う、う!?」
紅音「運命ですって!?」
今度は紅音さんが大きな音を立てて立ち上がる、その顔色には焦りが見えた
きなり「はい!私にとって悠くんは、ヒーローなんです!」
紅音「ヒーロー……?」
きなり「はい!悠くんは「やめてくれ」?……悠くん…?」
悠真「俺はもう、ヒーローなんかじゃないんだ…」
きなり「ゆ、悠く「ほらほら、ホームルームの続きするぞー」!あ、す、すみません、先生!」
彩花「ん、きなりさんの席はそこな、小野の前」
蒼「え」
きなり「前……小野さんというのですね、藤咲きなりです、クラスメイトとして、これからよろしくお願いします」
そう言って、きなりさんはぺこりと僕に頭を下げて来た、あわててこちらこそと頭を下げると、それを見届けた彼女は自分の席へと座った
ー
ホームルームが終わると、目の前の席に座るきなりさんはクラスメイトによって囲まれた、どこから転校して来たのか、とか、綺麗な髪だね、とか……一番聞こえて来たのは、悠真との関係を聞くものだろう、悠真とどういう関係なのか詳しく聞いたり、どうして悠真がヒーローなのかを聞いたり…でも、悠真とのことに関しては、言いたくないのか、「自分と悠くんだけの思い出にしておきたいのです」と話していなかった…そして、藤咲さんの斜め後ろに座っている悠真は、心底居心地が悪そうで……
蒼「悠真、本当に大丈夫……なわけないか…」
悠真「え、あぁいや、大丈夫大丈夫……これくらいなんともないって……!」
僕たちに心配をかけまいとしているのだろう、その平然を装った悠真の笑顔が、僕たちにはどうしても辛そうに見えた
怜「悠真…」
紅音「……」
怜も紅音さんも、流石に今の悠真には聞くのは悪手だとわかっているのか、自分の席に座って何も聞こうとはしなかった
その後の授業中、悠真は一言も発することなく、静かに4時間目までを過ごしていた
ー
紅音「で、ここでなら、聞かせてもらえる?」
昼休み、いつも通り5人揃ってお弁当を持ってベンチで話を聞くことに、今ここに僕たち以外の人間はいない
怜「悠真、何かあるなら私たちも教えて?もしかしたら、悠真を手伝えるかもしれないし」
由紀「はむ……」
紅音さんも怜も、悠真を心配そうにして声をかける、由紀さんも怜の言葉にお弁当を食べながらもうんうんと頷いていた
悠真「……」
蒼「…悠真、もし何かあるなら、話してくれ、僕たち、ずっと悠真に支えられて来てるんだ、こんな時くらい、恩返ししたい、力になりたいんだ」
「そんなこと…」と呟いた悠真…けれど、悠真はポツポツと話し始めてくれた
悠真「……俺ときなりは、とある街で出会ったんだ」
ー
小学生の夏休み、父さんの仕事の予定で夏休みまるまるじいちゃん家に住んでた年があったんだ
悠真『んー……暇だな…友達はいないし、ずっとじいちゃん家でゲームしてるってのもつまんないし…』
家の中に引きこもってダラダラしてるのもアレだから外に出て遊ぶことにしたんだ、せっかくの夏休みだしここの付近に住んでる同い年達と友達になれでもすれば長期休みのたびに一緒に遊べるし
悠真『ふんふんふ〜ん♪』
道を忘れないようにしながら散歩してると、大きな公園を見つけた、たくさん遊具があって、色々と遊べたんだ
?『や、やめて、ください……ひぐっ、ぐすっ……』
でも、公演についてしばらく経った後、俺は見ちまったんだ……あの子のことを…同い年くらいの男子に囲まれて、蹴られたり踏まれたり、殴られたりしてる彼女のことを、俺はそこに向かって駆け出した、いじめを見て黙って見てるなんて、俺にはできない
悠真『おい!何してるんだ!やめろよ!!!』
俺はいつの間にか、男子達とその女の子の間に立っていた
『なんだよ!邪魔すんなよな!』
『そーだそーだ!』
『変な髪してる奴なんて庇うなよ!』
悠真『何言ってんだ!!!人と髪の毛が違うからなんだっていうんだ!?そんなのこの子をいじめて良い理由じゃない!!!』
そういうと、図星をつかれたかのようにたじろぐ男達、そして居心地が悪くなったのか、色々言いながら逃げていった
悠真『ったく……だいじょぶか?』
?『う、うん…でも、君のほうこそ……[顔は覚えた、学校が始まったら覚悟しとけ]って……」
悠真『大丈夫大丈夫、俺あいつらと絶対同じ学校じゃないから!』
?『え……?』
悠真『俺は宮原悠真!お前は?』
?『わ、私は……』
ー
由紀「それが…藤咲さんだったんだ」
悠真「そう……その後、俺たちは何日も仲良く遊んで……そして、あの日「悠くん」!」
きなり「一緒にご飯食べても良いですか……?」
悠真「え、あ……」
悠真が不安そうな表情でこっちを向くので、僕は静かに頷いた
悠真「あ、あぁ、えと、この4人も一緒でいいか?」
きなり「わぁ……皆さん、同じクラスの方々ですよね?」
蒼「うん、改めて、僕は小野蒼」
由紀「空波由紀、由紀で良い」
紅音「湊紅音、よろしく」
怜「緑川怜だよ、歓迎しましょうぞ〜」
きなり「藤咲きなりです、よろしくお願いしますね!」
彼女が笑顔でそう自己紹介する…でも、彼女のその笑顔には、どこか、悠真と似た悲しさを感じた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます