第4話・会議
蒼「……」
紅音「ではこれより、第32回・悠真との仲を深める大作戦会議を始めるわ」
蒼(ネーミングセンス……)
あと会議という割には、僕ら2人しかいないんですけど
ー
ことの始まりは約数ヶ月前、まだ僕たちが高校一年生の二学期くらいのことだ
紅音「蒼くん、ちょっと良いかしら」
蒼「……え?」
紅音「放課後にごめんなさいね、ちょっと話したいことがあって」
蒼「え、いや、構わないけど…」
紅音「ありがとう、そういうわけで、蒼くん借りて行くわね、悠真」
悠真「お?おー、りょーかい、また明日なー」
蒼「あ、うん」
悠真が手を挙げて振ってくるので、こちらも手を振りかえす
紅音「それじゃ行きましょうか」
蒼「え、い、いや、行くってどこに」
紅音「視聴覚室よ、鍵は先生から借りてきたから」
蒼「え視聴覚室?」
ここじゃダメなのか、という質問を投げかける暇もなく、彼女はスタスタと歩いていった
蒼(何かあるなら、悠真の方にだと思ってたけど……)
彼女が悠真のことを好いているのだろうということはすでに察しがついているし、だとしたらやはり彼女が用があるのは悠真の方じゃないのか
と思っていた、まさかこんなことになるとは思わずに
蒼「で、僕に話って?」
紅音「ふふふっ……それはね…相談があるの!」
蒼「……そうだん?」
ー
で、こうなったのである、議題はこのネーミングセンスのかけらもない会議名で察しただろう、簡単にいえば[悠真と恋仲になりたいから相談させてくれ、そしてあわよくば協力してくれ]ということだろう
蒼「紅音さんって、悠真のこと好きなんです?」
紅音「私が?まさか、そんなわけないじゃない、ただ悠真と親睦を深めようという話よ?別に悠真のことが好きとかそういうわけじゃないわ……まぁ?確かに悠真はイケメンでスポーツ万能で、その上優しくて私のことをよく見てくれて」
とまぁこんな感じである、一度悠真のことを語りだすと止まらないこの人の姿を見て、[悠真のことが好きじゃないだろう]という人はいないと思う
蒼「それで、結局今回は何をすれば良いんです?」
紅音「え?あ、そ、そうだったわね……こほん」
ちなみに現在、僕は視聴覚室にて紅音さんと机を挟んで向かい合うように座っている、これがこの会議(という名の相談)の基本の形だ
蒼(普通の生徒ならこの状況、自分のアピールのために使ったりしそうなものだけど……そんなことしたって普通に虚しいだけだし…)
紅音「実は明日、土曜日の午後、お互いに着替えてから悠真と2人で買い物をしに行くことになったのよ」
蒼「へぇ、悠真と」
単純に珍しい話をされて興味がそそられてしまう、悠真は女性恐怖症という側面を持つため、だいたい遊びに行く時は僕と2人だけかいつも昼食を共にしている5人でのどっちかだ、あの3人には恐怖心を抱かないというのは知っているけど、それでも女の人と一緒に遊びに行くというのは珍しいと思ってしまう……ちなみに僕たちの高校は土曜日に授業がある、1、2、3時間目だけだけど
紅音「それで、悠真の好みを教えて欲しいのよ、どんな服装とか、どんな髪型とか」
蒼(それくらいもっと前から聞いてくればよかったのに……)
だけどまぁ、髪型は学校指定だし、服装は制服、5人で遊ぶ時は学校帰りが多いため、そこでアピールするという考えにすら至らなかったのかもしれない
蒼「知っていることに限りはありますけど、一応好みの話をしたことがあるので、知っている限りでお教えしますよ」
紅音「ありがとう、いや別に、悠真にどう思われようと関係ないのだけれど、せっかくでー…買い物で普段は見られない悠真の姿を見られるのだから、こっちも普段は見られない格好でいたいじゃない?」
蒼「あーはいはい」
もうツッコムのもめんどくさいので何も言わないが、彼女は間違いなく悠真のことが好きなのだろう、別に隠す必要もないのに…というか今デートって言おうとした?
蒼「基本的に悠真の好みは髪型で言えばスカーフ三つ編みですね」
紅音「スカーフ三つ編み?」
蒼「えっと、こういうやつです」
スマートフォンを操作して、彼女にスカーフ三つ編みをした女性の後ろ姿を見せる、すると紅音さんは興味深そうに僕のスマホを覗き込んだ
紅音「スカーフ三つ編みって、これ、難しそうね」
蒼「まぁ確かに難しそうですけど、やり方としては耳上の髪を結んで、そこにスカーフを通して三つ編みをしていくだけですよ」
紅音「へぇ…詳しいのね」
蒼「普段から髪型のセットも自分でしない妹がいるもので」
紅音「あぁ、さくらちゃんね…」
たったこれだけで伝わってしまうのはどうなのだろうか
蒼「あとは服の色ですが、赤や黄色などの鮮やかな色合いというよりは、グレーや黄土色、薄香色などの単色の服を好んでいるみたいです」
紅音「なるほどなるほど、単色ね…」
蒼「服装はワンピース、その上に軽く上着を羽織る程度の服装が好きみたいですね」
紅音「へぇ……ワンピース…」
僕がこうして話している間にも、紅音さんは手元のメモ帳に僕の言った話を逐一メモしている、いや、もう好きじゃん、悠真のこと…
ー
紅音「よくよくわかったわ、今日はどうもありがとう蒼くん、今度何かお礼するわね」
蒼「あいや、結構です」
別にお礼が欲しくて協力したわけじゃない、ここまで何度も紅音さんに協力してきて、今更何も言わないのも気が引けるし、それに知ってることをきちんと話さないと解放されなさそうだったし
紅音「そう?ま、蒼くんがそういうなら無理にそうする必要もないわね、それじゃまた!」
蒼「あ、うん、お気をつけて〜」
最終下校時刻、夏のため日も伸び、別に夜道というわけではないので学校を出てそのまま紅音さんと解散する、なんか、色々と頑張る人だなぁとつい思ってしまう、自分の好きな人に振り向いてもらうために努力できる人はすごいと思う
蒼(まぁ、毎回最終下校時刻まで相談されるのは勘弁してほしいけど…)
紅音さんの背中を苦笑いしながら見送り、僕も僕の家への帰り道を歩く、今日の夕飯はなんだろう、と考えながら
蒼「……ん?夕飯?」
あれ、そう言えば今日の夕飯担当って……
蒼「あ」
……結局その後、ダッシュで帰ることになった
ー
蒼「はぁぁぁ……」
自分の部屋に戻り、自分のベッドに転がり込む、ちなみにもう入浴はちょうど終えたところだ、あの後、澪姉さんがバイトがなかったため、代わりにみんなの分の夕飯を作っておいてくれていた、[気にしないで良いよ]と言ってくれはしたけれど、やっぱり申し訳ない
蒼「……デートか」
ふと学校で紅音さんの相談を思い出す、デートって、いわゆるアレだよね、男の人と女の人が1対1で一緒に買い物したり、いろんなところに歩いたり…まぁ僕には全然関係ないことだけど
蒼「もしかしたら紅音さん、悠真に告白したりするのかな」
紅音さんは悠真のことが好きだし、好きなら今回のデートをうまく活用するだろう、もしかしたら上手くいって、2人が付き合い始めるかもしれない
蒼「そうなると、僕とみんなとの関わりもここまでかな」
僕は言ってしまえば冴えないし取り柄もない、悠真の引き立て役で、こういう言い方はあまり良くないが、悠真のおかげでカースト上位側のグループに属することができているのだ……けれど、もし紅音さんと悠真が付き合うことになれば、当然悠真は彼女を優先することだろう、そうすれば、自然と5人でいることも少なくなるはずだ、そうなれば怜も由紀さんも、きっと2人で女の子のグループに混ざるだろう、2人は優しいし、みんなの輪の中に入れるだけのトークスキルを持っている……でも僕は違う、僕は悠真にすがって今の地位にいる、もし悠真が彼女を優先するようになれば、自然と僕は孤立して行くことになるだろう
蒼「それでも、構わないけどね」
元々僕は、あまり他の人と仲良く話をすることが得意なタイプではない、それにもし孤立して1人になっても、それは悠真と出会う前に戻るだけだ、だから何も問題はない
蒼「?電話……?」
そんなどうだって良いことを考えていると、ピリリリリリリ、と僕のスマホが鳴る、電話だ、誰だろうと画面を確認してみると、そこには[緑川怜]と表示されていた
蒼「もしもし、怜?どうかしたの?こんな時間に電話してくるなんて」
時刻は午後8時半過ぎ、別に問題はないが普段怜から電話がかかってくることなんて滅多にないため、[どうしたんだろう]なんてのんきに考えていると、怜は叫ぶように電話の向こうで声を上げた
怜『悠真が紅音ちゃんとデートするみたいなの!!!』
蒼「……は?」
なんでそのこと、怜が知ってるの……?
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