第2話・友人
授業は進み、4時間目の終わり、いつも通りの昼休みがやってきた
蒼「んーっと……あったあった」
学校指定のカバンの奥の方に仕舞い込んだ弁当箱を取り出す、毎朝、澪姉さんが早起きして、みんなが起きる前に作ってくれているお弁当だ
?「蒼くーん!」
蒼「わっ!?」
背中をドンと押される、何かと思えば、大体いつも一緒にいるメンツの一人である怜だった
怜「今日もみんなでご飯、食べよ?」
蒼「それは構わないけど…っていうか力込めすぎでしょ今の…」
怜「あはは…良い音なったもんね…ごめんね?」
彼女は緑川怜(みどりかわれい)、うちのメンツで一番明るく、ショートボブの女の子だ、ちなみに今日遅刻してきた
蒼「別に構わないけど…悠真は?」
怜「悠真君や紅音ちゃんたちはもういっちゃったよ?あとは蒼くんだけ」
蒼「あー…っていうか、僕も一緒に食べてて良いの?」
怜「?うん、構わないけど…?」
蒼「……」
個人的に、あそこの輪の中には非常に居ずらい、だから断っても良いのだけど、なんだかんだいつもみんなで食べてるし、なんの用事もないのに断るのはかえって不自然になるだろう
蒼「わかった、それじゃあ行こうか」
怜「うん!」
ー
悠真「お、きたきた、蒼ー!怜ー!こっちだこっち!」
怜「お待たせー!」
いつもと同じ、学校内に設置されているベンチのところに見慣れた3人は居た
蒼「お待たせ、先に食べてても良かったのに」
悠真「[いつもみんなで食べてるんだから、少しくらい待ちましょう]って由紀が」
蒼「そうなんだ、ありがとう、由紀さん」
由紀「いえ、気にしないで」
この人は空波由紀(そらなみゆき)さん、僕らと同じクラスの女の子で、ストレートヘアが似合う女の子だ……一時期彼女には[氷の女帝]という異名があった、[あった]と過去形なのは、一年生の時、悠真がその氷を溶かしたからだろう
紅音「それじゃあ5人揃ったし、いただきます」
悠真「いただきまーす」
こうして5人でお昼ご飯を囲むのが毎日の恒例だ、勉強がどうだとか、最近このゲームにハマってるとか、そんな他愛もない話を毎日している
悠真「そういや蒼、澪さんや芽依さんは元気か?」
蒼「うん、みんな元気だよ、いやまぁ、さくらは相変わらずだけど…」
紅音「さくらちゃん、いつも眠そうだものね」
この四人は、実はうちの姉妹と面識がある、特に澪姉さんと芽依姉さんはこの学校のOGで、去年の学園祭や体育祭の時にもやってきていたので印象に残っているのかもしれない
怜「でも私、さくらちゃんのこと好きだよ?とっても可愛いし!」
由紀「私は、澪さんが一番好き、お姉ちゃんみたいで……」
悠真「蒼、お前の姉妹人気だな」
蒼「あは、あはは……」
間違ってはない、確かにうちの姉妹はみんな可愛い、よく「告白された」等の話を聞くことがあるし
悠真「ま、確かに澪さんも芽依さんも、さくらちゃんも
梨乃ちゃんも真由ちゃんも、みんな可愛いもんな」
怜「む」
紅音「ふーん?」
由紀「……はむ」
悠真「?……え、どした?」
蒼「はぁ……」
そう、僕が「この輪に居ずらい」と言った理由はここにある……簡単かつ簡潔に説明しよう、紅音さん、由紀さん、そして怜は悠真のことが恋愛的な意味で好きなのだ
蒼「悠真、僕、君が時々わざとやってるんじゃないかって思うよ」
悠真「え?なんだよ、蒼まで突然」
蒼「……なんでもない」
そして、悠真は典型的な鈍感系主人公なのだ……正直言って、客観的に見れば3人が悠真のことを好きなのは手に取るようにわかる、紅音さんは露骨にアピールしているし、怜は悠真へのボディタッチが多い上によく悠真と話しては顔を赤らめている、由紀さんはよく悠真のお手伝いというか、サポートをよくやっている……それに
『蒼くん、相談させて欲しいんだけど、悠真って私のことどう思ってるのかしら……あいや別に、気になってるわけじゃないのよ?ただちょーっとね、ちょっと』
『蒼くん、どうしよう…私、悠真のこと好きになっちゃった…』
『蒼くん……ちょっと聞きたいことがあるのだけど…悠真の好きな物って、何か知ってるかしら?』
蒼(あんな相談されちゃね……)
僕はこの3人に個人的に相談を受けている、そのほとんどが悠真に関してのことだけど
蒼「悠真ってさ、本当に鈍感だよね」
悠真「いや俺運動神経結構良いぞ」
蒼「そういうとこだってのー」
こいつの鈍感さは相変わらずだ…ここは一つ、空気を変えようか
蒼「でもさ悠真、悠真って女性恐怖症でしょ?なのに由紀さんと関わりを持てたんだね」
悠真「あぁ、ちょっと理由があってさ」
蒼「理由?」
悠真「由紀ってさ、元々クラス内で一人きりだったろ?クラスで本を読んでる姿を見てるとさ、なんか、ちょっと前の俺を思い出して……」
たははと悠真が頭を掻く……僕には詳しく話してくれないけど、僕が悠真と出会うより前に何かあったのだろう
悠真「そう思ったら、声をかけずに居られなくてさ、確かに最初は話しかけようか迷ったけど、でも、なんとかしたいと思ったんだ」
蒼「なるほどね」
確かにわからなくはない、去年の初めの頃、由紀さんは本当に誰とも関わらない、関わりをもたないようにしていた、僕もそれとなく声をかけたことはあるけど、多分、そのことを由紀さんは覚えてないだろう、結構強く拒絶されたし
悠真「だからさ、一緒にいたいと思ったんだよ、由紀のそばに、由紀は確かにクールだけど、本当に良いやつなんだって、みんなにも知ってほしくてさ」
由紀「悠真……」
二人の間に、少し良い雰囲気が流れる……良い話だな…と、普通の人なら思うだろう……普通の人なら
紅音「ふーん……?」
怜「むー…」
蒼(やっば……ちょっとやらかしたかも…)
ふっつーに話題間違えた、由紀さんが上機嫌になった分、紅音さんと怜の機嫌が圧倒的に悪くなってる
蒼「悠真悠真悠真!ちょっと良い!?」
悠真「うぇぇっ!?な、なんだよ!俺まだ食ってんだけど……?」
悠真を連れて一時離脱する、少し話し合う必要があるみたいだ……
ー
蒼「はぁ……」
結局あのあと、なんとか悠真にそれとなく注意して、二人にもフォローを入れて昼休みが終わった、個人的に今日みたいなことは勘弁願いたい
悠真「蒼、かえろーぜ」
蒼「あ、うん……帰ろうか…」
6時間目の授業が終わり放課後になる、授業に使ったノートや教科書をカバンにしまい、席を立つ
悠真「今日もだるかったなー」
蒼「ずっと寝てたでしょ」
悠真「いやそりゃそうなんだけどさ」
蒼「全く……その頭の良さが羨ましいよ」
悠真「……でさ、なんか、見られてない?」
悠真の言う通り、周りを見回してみると、確かにたくさんの学生たち……正確にいえば女生徒がこちらを見てヒソヒソ話している…だいたい内容は察したけど
蒼「大方悠真がかっこいいとか、イケメンとか話してるんじゃない?」
悠真「い、いやそりゃぁ、ないだろ、は、ははは」
そんなことあるんだよね……
「悠真くーん!」
悠真「!?」
ビクッと、悠真の体が震える、今聞こえてきた女の子の声に動揺しているのだろう
悠真「あ、あはは……」
悠真が笑顔で手を振り応対する……その顔は普通に引き攣っている
蒼「早めに行こう、悠真」
悠真「そ、そうするか……」
早足で校内を移動し、靴を履き替えて校舎を出ると、悠真は安心したように胸を撫で下ろした
悠真「……なんとかなったなぁ…」
蒼「相変わらず難儀だね、それ……」
悠真「いやだってさぁ…」
蒼「でも、そんな中でも、怜たちや、僕の姉妹には全然普通に話してるよね」
悠真「そりゃあの3人は特別だし、お前のとこの姉妹はお前がいるからさ」
蒼「またうちに来てよ、色んなゲームとか買ってあるし」
悠真「そだなぁ、また明日くらいに行こうかな」
蒼「澪姉さんも喜ぶよ」
ちなみに、僕たちは二人とも部活をしていない、悠真はピンチヒッターとして色々な部活に参加しているし、僕に至っては完全な帰宅部だ
悠真「でもさ、蒼も大変だよな、両親が仕事で忙しいからって、代わりに澪さんと一緒にご飯とか洗濯とか掃除とかしてんだろ?」
蒼「慣れれば大したことないよ、当番制だし、みんなが喜んでくれるのは嬉しいし……それに、僕は長男だからね」
悠真「ふーん……やっぱすげぇよ、お前」
蒼「え?」
悠真「俺だったらそんなこと絶対できないし、もっと遊んでたいって思っちまうからさ、それを我慢して、家族のためにって頑張れるお前が、すごいと思う」
蒼「……そう?ありがと、悠真」
正直にいえば、怜たちの気持ちがわからないでもない、悠真はとても誠実で優しい男だ、性格も良いし、顔も良い、誰に対しても優しく、やると決めたことには一生懸命になって取り組むし、褒め上手ときた、そりゃみんな彼のことを好きになるだろう、だからこそ、彼は男子生徒からも人気で、女子生徒からはモテにモテまくっているカーストNo.1の男だ、だけど悠真はモテようとしてモテてるわけじゃない、ストイックに色々なことに取り組むのは悠真の性格だし、女生徒の手助けをしようとするのは、悠真は悠真なりに女性恐怖症を直そうとしている事の表れだ、だから僕は、そんな悠真の手助けをしたいと思う、悠真の親友として
蒼「悠真」
悠真「?どした?」
蒼「僕、悠真がどんな選択をしても、悠真の味方でいるよ」
悠真「え、どした急に」
そう、たとえ怜でも、由紀さんでも、紅音さんでも、他の女子生徒でも、誰かを選ぶことがなくても
蒼「だからさ……」
そうして僕は告げる、天才的な頭脳と強い運動神経を持つ彼に告げるべき、その言葉を
蒼「まずはその鈍感さ、直すところから始めようか」
悠真「えなんで俺急に貶されてんの?」
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