第16話熱い思い

 俺たちの目の前にはアネモネが立っていた。


「お姉ちゃん、なんでそんな奴について行くの!?そいつ、翼持ってないんだよ!」


 アネモネは俺と初めてあった時と同じことを言っていた。だが、それが彼女の本心ではなく、マサジというやつに刷り込まれたせいだと今ならわかる。


 だから、俺は何も言わなかった。


 俺の代わりにネメシアが彼女の言葉を受け止めた。


「それの何が問題なのですか?」


「何がって、空飛べないんだよ!?」


「アミルさんは空を飛べます。あなたも見たでしょう。」


 ネメシアはアネモネを刺激しないように優しく話しかける。ここでアネモネが癇癪を起してこちらの話を聞かなくなったら終わりだ。


「…っ!!でも、でも!」


 アネモネは反論したいが言葉が見つからないようだった。下を見て拳を握りしめているが、そのやり場のない怒りが空を切る。


「あなたも薄々気付いているんでしょう?そんな偏見は当の昔に破綻していたということに。」


「でも、お姉ちゃんが居なくなったら誰が巫女になるの…?」


「あなたがなるんです。」


「そ、そんないきなり言われても…」


 ネメシアは目を閉じて、独白するように落ち着いた声で話を続ける。


「どうせ私たちの話を最初から聞いていたのでしょう?なら私の考えもわかっている筈です。私は元々巫女に相応しくなかった。あなたみたいに本気で他人のことを思い悩むこともできず、この足のことを気にしてみんなのことを信じることもできなかった。でも、あなたにならできる筈です。私と違って、みんなに愛されながら育ったあなたになら。」


 ネメシアは自分の足で歩き、アネモネの側まで歩いていく。


「それでも、お姉ちゃんが居なくなるのは嫌だよぉ。」


 アネモネはネメシアを抱きしめる。彼女としてもネメシアに対してずっと言いたいことがあったのだろう。それが今日、決壊してしまったのだ。


「大丈夫。あなたには私なんかよりも頼りになるになる人がたくさんいる。」


 ネメシアもアネモネを抱きしめ、頭を撫でる。その光景を見て俺はネメシアはちゃんとお姉ちゃんやっているんだなと、不意に思った。俺は彼女たちの過去を知らない。だが、昨日の様子を見るに、翼を持ってない生物に対する考え方の違いで、あまり仲が良いとは言えないように感じた。それがどうだ?今日一日で抱き合うくらいにその仲を戻したのだ。その背景には俺には想像もできない程の葛藤と怒りと悲しみがあったのだろう。


 それを乗り越えて、今日彼女たちは仲直りを果たしたのだ。


 俺はその姉妹の尊い光景を目に焼き付けた。


─────────────────────────


「────ということで私、エルロンを出ていきますね。」


「ちょっと待ったああああ!」


 俺たちはリュックの中を回復薬と魔力回復薬でいっぱいにした後、四人でイーストン家まで戻ってきていた。


「あらお父さん、どうかしたのですか?」


 ネメシアが何か問題でも?と言いたげな感じで質問する。対してリボルトさんは椅子から立ち上がり、バンッと机に手をつく。


「話が渋滞を起こしているんだよ!まずその足、なんで治ってるの!?それにいつの間にアネモネと仲直りしたの!?エルロンを出ていくってどういうこと!?終いには巫女の地位をアネモネに譲るって、お父さんもう意味がわからないよ!?」


「先ほど説明したとおりですよ。私、アミルさんのことを好きになってしまいました。なので、彼について行くことにします。ちゃんと里帰りはするので大丈夫ですよ。ね、アミルさん。」


「…え?俺エルロンに戻ってこないといけないの!?カリンに帰った後も!?」


 俺はさらっと言われた衝撃的なことを聞かされて驚く。というか何回聞いても出会って二日で人を好きになるってすごいな。


「いいじゃないですか。旅行みたいできっと楽しいですよ。」


「魔境は人類が足を踏み入れたことがない未到達領域なんだぞ…それを旅行って…」


 いや、彼女たちからすればこの化け物だらけの環境が日常だからおかしくはないのか…?もうよくわからん。


「そ、そうか。まあ、帰ってくるならいいか。だが、巫女の継承の儀式は次の満月までできないから、すぐにアミル君について行くことはできないぞ?」


 それはそれとして、リボルトさんも結構順応性高いな。ネメシアが俺に付いていくのはもう突っ込まないんだ。


「俺もまだこの辺りでやることがあるので、ゆっくりで大丈夫ですよ。それにネメシアも一時の気の迷いの可能性もありますし、時間を空けた方がお互いに気持ちを整理できるでしょう。」


 俺は暗にネメシスに付いて来てほしくないとそれとなく伝える。そもそもネメシアがいなくてもリコリスの方の問題も残っているんだ。俺は一体どうしたらいいんだ。


「それもそうですね。私たちはまだ出会って間もないですし、これからは時間をかけてお互いのことを知っていった方がいいですね。」


「ははは…」


 ネメシアは俺の意志を理解していないのか、理解したうえで敢えて無視したのかわからない。だが、なんとなく後者な気がする。


「それで、その足はどうやって治したんだ?」


 リボルトさんにそう聞かれて、俺はリュックの中から回復薬を取り出す。


「これです。昨日宴の時に見つけた木の実を使って作ったものです。」


「ほお、それはすごいな!そんな強力な効果がある薬は聞いたことがないぞ。どうだねアミル君、ネメシアと一緒に本当にここで暮らさないか?君が居てくれればエルロンの未来は明るい。」


「すいません、それは勘弁してください。作り方は後で教えますのから。」


 俺は骸竜からもらったメモの写しをリボルトさんに渡す。なんだかリボルトさんも本気で定住を勧めてきている気がする。


 その後は細かい打ち合わせをして、ネメシアが巫女を辞めることも決まった。


─────────────────────────


「やっと終わった…」


 俺は一人で風に当たっていた。何とかして今日中には一度洞窟に帰らなければいけない。ルインも心配しているだろう。


 俺は一体どうすればいいんだろう。


 何故か命の危険がある魔境で異性に言い寄られている。ここに来た当初はそんなことをしている余裕なんて全くなかった。そもそも、俺はルインと添い遂げると心に決めたのだ。二人のこともルインが許容しないだろう。


「はぁ。」


 俺はため息をついていると、鍛冶場の方からガリウスが飛んでくる。


「アミル、どうかしたのか?」


「ガリウスか。なんか考えることがいっぱいあってキャパオーバーしてるんだよね。ここに来た時は帰ることだけ考えてれば良かったのにさ。」


 ここに来た時は今日を生きるのに全力だった。それがこんなことを考えるくらい余裕ができたと考えれば、事態は好転しているのだろうか?


「よくわからんが大変そうだな。それはそうとして、ブローティアのことで話があるんだ。」


「なにかあったのか?」


「それが、今工房にある金属じゃ、ブローティアの爆発に耐えられないみたいなんだ。何か良い金属は持ってないか?」


 金属と言われて俺は少し悩む。俺のリュックの中には金属なんて入っていない。俺は錬金術を使えないので、希少な鉱石を作ることもできない。


「マジか。うーん、金属はさすがに持ってないなぁ…」


 俺は何か今まで行った場所に鉱石がなかったか思い出す。コーディル…ない。ラクスト…ない。赤い森…ない。どこかにあったはずだが…


 俺が一生懸命思い出していると、俺は昔に見た洞窟の壁一面の鉱石の山を思い出す。


「いや、あるぞ金属!一か所だけ知ってる場所がある!」


 俺はルインの洞窟の中にあった大量の鉱石を思い出す。あそこには見たことがない多種多様な鉱石があった。爆発に耐性がある鉱石もきっとあるだろう。


「そうと決まれば採取しに行こう!アミル、準備してくる!」


「ああ、わかった!」


 ガリウスが出かける準備のために鍛冶場に戻っていく。鉱石採取を兼ねてルインに会いに戻ろうとしていると、横から声をかけられる。


「どこに行くんですか?」


 俺が振り返るとそこにはネメシアがいた。さっきまで家の中に居たはずだが、いつの間に出てきたんだ?


「ちょっと石を取りに行こうかなって。」


「まあ、お出かけですか?それなら私も一緒に行きます!採取なら人手は多い方が良いですからね。準備してくるので待っていてください!」


 ネメシアが付いてくるようだ。昨日も感じたが、彼女は少し強引なところがあるようだった。


 そういうわけで俺、リコリス、ネメシア、ガリウス、の四人でルインの洞窟まで帰ることにした。


─────────────────────────


「ガリウス!そっち行ったぞ!とどめを頼む!」


「わかった。はあああ!」


 俺は洞窟に戻る道中、魔物と戦闘をしていた。流石に四人で行動していると、魔物を隠れてやり過ごすのにも限界がある。なので、見つかった敵は仕方なく戦闘をしていた。


 ガリウスとリコリスが前衛を務め、俺とネメシアが後衛を務める。中々バランスのいいパーティができた。四人での戦闘は久しぶりで、俺は懐かしい感覚がする。走って逃げ回らなくても、前衛が魔物を足止めしてくれる。そのおかげで余裕をもって詠唱をすることができる。


「これでもう三体目か…」


 エルロンに来る前だとこの連戦は魔力的にかなりきつかった。だが、回復薬を補充できた今なら全員余裕を持って対応できる。俺の持っている回復薬は前衛に二本、魔力回復薬をネメシアに二本渡しておいた。この回復薬を人に渡すのも久しぶりだった。


 いつもと同じように魔石と法力器官だけ回収して、先に進む。


 そして、しばらく歩いた後、ようやく洞窟が見えてくる。


「ああ、やっと帰って来れた。ここだよ俺の仲間の竜がいる洞窟。」


「こ、ここに竜が…!」


 ガリウスは少しびびっているようだった。気持ちはよくわかる。俺も初めてルインとあった時は絶対に死ぬと思ったからな。


「行きましょう。」


 対してネメシアは覚悟を決めた顔で洞窟の中に入っていく。


 二日ぶりに帰った洞窟の中でルインは眠っていた。


「ルイン、ただいま。今帰ったよ。」


「ただいま。」


 俺とリコリスがただいまを言うと、ルインが目を覚まして顔を上げる。


「二人ともおかえり。遅いから心配したぞ。それでそこのハーピィは誰だ?」


「お初にお目にかかります。白虹竜(はくこうりゅう)様。エルロンにて巫女の地位についております。ネメシア・イーストンと申します。本日はお話ししたいことがあり、この地に参った次第です。」


「鍛冶見習いのガリウス・ガナです。」


 ルインの迫力に負けることなく、ネメシアは前に出て恭しく礼をする。ガリウスもネメシアの後に続いてルインに名乗る。


「話とはなんだ?」


 ルインは俺に会ったときと違い、二人に対して少し興味を持っているようだった。これが骸竜が言っていたことなのだろうと俺も実感する。ルインも自分以外の存在に対して興味を持つようになったのだ。


「私はアミルさんに恋をしてしまいました。彼を愛する許可をいただきたいのです。」


 ネメシアはいきなりヤバい話を持ち込んできた。


「別に私は構わん。その許可は私じゃなくアミルに聞け。」


 そして、ルインも別に拒否する気はないようだった。一夫多妻が魔境での常識らしい。俺はそう確信した。


「かしこまりました。答えていただきありがとうございました。私からの話は以上です。」


 ネメシアは再度礼をして後ろに下がる。そして、今度はガリウスが前に出る。


「つ、次は私の話をお願いします。」


 ガリウスはまだルインに怯えているようで、足が震えていた。


「なんだ?」


「リコリスの剣を完成させるために、あなた様が住む洞窟の中にある鉱石をいただきたいのです。お願いします!」


「構わん。私は別に鉱石に興味はない。好きなだけ持って行くがいい。」


「ありがとうございます!」


 話が終わったようで、俺はルインに魔石を渡す。これは今日帰ってくる途中で倒した魔物の分だ。


「ルインこれ魔石。回復薬も手に入ったよ。」


「それはよかった。それにしても、随分と仲間が増えたんだな。」


 仲間…そうか。彼らは俺の仲間なんだ。俺はルインに言われたことで、彼らが俺の仲間であると思いいたる。


「うん。みんな頼もしい仲間だよ。」


「それはよかったな。」


 俺は増えた自分の仲間に喜びながら、エルロンで何があったのかをルインに話した。


─────────────────────────


 ルインと合流した俺たちは、洞窟の下まで来て、鉱石を採取を開始する。


「う、うおおおお!すげえええ!マジでなんでもある!これだけあれば良い剣ができるぞ!」


 ガリウスは鉱石の山にえらく興奮していた。鍛冶師からすれば、ここは宝の山らしい。


「俺たちは何を取ればいい?」


「とりあえずこの赤い金属が含まれてる岩を集めてくれ。」


 ガリウスから赤い光沢を放っている鉱石を受け取り、それに似ているものをエルロンから持ってきたつるはしで採掘していく。


「大地の大いなる精霊よ。大地が生み出し輝かしい結晶を我が眼前に表出させたまえ────ディバイド。」


 ネメシアが聞いたことがない魔法を使うと、一定の範囲の壁の中の赤い鉱石が集まっていく。


「何その魔法!?」


「鉱石を集めるのに便利な魔法です。そんなに難しくないのできっとアミルさんにも使えますよ。」


 そうして、俺はネメシアからディバイドの魔法を教えてもらった。使うのは少し難しかったが、ドレイク・ヘルブラッドに比べれば全然簡単だ。


 その魔法を活用しながら、俺たちは必要な分だけ洞窟から金属を採取する。


「これだけあれば十分だ。良いものができるぞ!」


「それはよかった。そうだ。ルインもエルロンに来ないか?リコリスの剣を作ってもらう約束なんだ。」


「そうだな…ここにいる理由ももうないな。わかった。私もエルロンに行くとしよう。」


 ルインが人化の魔法を使って人間の姿になる。さっき魔石を食べたことで完全に人間と同じ姿になっていた。


 そして、採取した赤い金属────ガリウス曰くアースメタルというらしい────をそれぞれの鞄の中にしまって、エルロンに帰る準備をする。


「それじゃあ、エルロンに向けて出発するか。」


「出発。」


 俺たち四人はルインを加えた5人パーティになり、洞窟を後にした。


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 エルロンに向かう間も二回、魔物と戦闘を行った。だが、どれも余裕で勝利できるレベルの相手だった。ルインはまだ攻撃に参加はできないが、敵の意識を割くように戦闘に参加してくれている。これのおかげで、敵の攻撃が分散し、パーティ全体の負担が軽くなっていた。前と違って、魔物の攻撃をくらうこともほとんどなかった。


「エルロンか…」


「そういえばルインは来たことあるの?」


「いや、実際に来るのは初めてだ。あまり興味がなかったからな。」


 そんな会話をしていると、上から一人の男が話しかけてくる。


「おいこのクソ野郎!俺の仲間をそそのかしただけじゃなく、俺の女にまで手を出すなんて!もう許さんぞ!」


 そこにいたのは昨日も絡んできたマサジとかいうやつだった。顔を真っ赤にしながら怒っている。


「誰だあいつは?」


 よこのルインが興味なさそうな顔をしながら聞いてくる。俺の返答は当然決まっている。


「知らない人だよ。さあ、みんなで鍛冶場まで飛んでいこう。ルインは俺が抱えてリコリスに引っ張ってもらうか。」


 ああいうのは真面目に相手をすると馬鹿を見ると相場が決まっている。


「おい無視するな!この僕が話しかけてやってるんだぞ!その女は僕のものだ!将来僕と結婚して僕が里長を継ぐんだ!さっさとこっちに返せ!」


 こいつナチュラルにネメシアを物扱いしたな。


 そりゃこんなのが常日頃から言い寄って来るとかストレスが半端ないだろう。それに自分自身を見てくれるのならともかく、こいつはネメシアの背後にある権力しか見ていないようだ。エルロンの権力の仕組みは知らないが、あいつの口ぶりからするに、巫女と結婚した者が次の里長になるとかそんな感じだろう。


「私はあなたの物では無いです。そんなことを言った覚えもありません。」


「嘘だ!だって僕が五歳の時に「僕のことどう思う?」って聞いたら「いい人だと思ってますよ。」って言ってくれたじゃないか?」


 うわぁ。


 こいつやっぱりやべえ。昔の女子との会話を一言一句覚えてるのはもちろん、それが五歳の時という派火力もヤバい。


 そして、たったそれだけの言葉を頼りに自分のことを好きと確信できるのは、ある意味才能かもしれない。


 俺は夢を見ているマサジくんに現実を突きつけてやることにした。


「お前馬鹿だろ。女子のいい人は十中八九どうでもいい人なんだよ。」


「そんなわけない!お前なんかに騙されるか!」


 俺はその言葉にカチンときた。


「じゃあ、もう言わせてもらうが、自分から告白もしないで好きな人を取られただと?馬鹿な事いってるんじゃねぇぞクソガキ!お前は好きな人取られたっていうがそれは正しくない。好きな人がいるのに何も行動を起こさなかったてめえのせいだ。現実見ろ馬鹿野郎!」


「僕は馬鹿じゃない!おいしい木の実だってたくさんあげてきたんだ!お前なんかに何がわかる!」


「わかりたくもねえよクソが!お前は女を物としてしか見ていないクソ野郎なんだよ!お前は自分が好きな子が何を望んでいるのか少しでも考えたことがあるのか?ああ、言い方が悪かった。金とか物じゃなく、その子の気持ちを推し量って行動したことがあるのかって聞いたんだ。お前がやってるのは思いやりでも何でもない。「こうすれば女は喜ぶだろ」っていう押しつけなんだよ。そこに気付けないようじゃ一生クソガキのままだろうよ!」


 おれがそう言うと、マサジは泣きじゃくりながら癇癪を起す。


「うるさいうるさい!お前の話なんて聞かない!ねえネメシア?君なら僕のことわかってくれるよね?」


 そして、その後に来るのは自分を肯定してほしいという浅ましい願望だった。


「…ごめんなさい。私、元々あなたのこと苦手なんです。なんというか、ニヤニヤしてる顔から自尊心が漏れ出ているのがきつくって…あ、ご、ごめんなさい…いい人だとは思ってますよ。」


 ネメシアはドストレートにどこが嫌いなのか懇切丁寧に説明してくれた。こいつのキモさを言語化できるとか流石の教養だ。


「あ、ああ、あああああ!」


 マサジは叫びながらどこかに飛んで行ってしまった。泣いて帰るぐらいなら最初から突っかかって来なければよかったのに。


─────────────────────────


 俺はアミルたちと別れた後自室で彼が言ったことを考えていた。


「好きな人に告白もしないで、か…」


 俺にも好きな人がいる。小さい頃から一緒に遊んでいて、幼馴染として育った存在。最近は彼女を女性として意識することも増えていた。だが、あと一歩を踏み出すことができず、俺は思い悩んでいた。


 こんな悩みを抱えた状態では良い剣なんて打つことはできないだろう。


 俺は意を決して彼に相談することにした。


─────────────────────────


「なにかあったのか?」


「すまない。ちょっと、相談があるんだ。工房に来て欲しい。」


 俺は採取に行った翌日にアミルを工房に誘った。彼以外はイーストン家で待ってもらうことにした。


「それで、どうしたんだ?まだ必要なものでもあったか?」


 アミルは工房の中に運び込んだアースメタルの塊を手で撫でる。俺が工房に呼んだのはブローティアについてのことだと思っているんだろう。


 俺は彼の前に頭を下げて頼み込む。


「その、恥を忍んで頼みがある。俺に、好きな人と付き合うアドバイスをくれないか?」


「は…?」


 俺は恥ずかしい気持ちでいっぱいになるが、なんとかその思いを我慢する。


「頼む!この通りだ!」


「…顔を上げてくれ。わざわざ頼んでくるって言うことは何か理由があるんだろ?聞かせてくれ。何か力になれるかもしれない。」


 俺が顔を上げると笑顔で頷いてくれるアミルが居た。


「すまん。恩に着る!」


「まだなにもやってないんだからやめてくれ。」


 俺は自分の好きな人、アネモネについて彼に相談することにした。


─────────────────────────


「────っていう感じだ。ずっと側にいたからこれ以上踏み込むのが怖くてさ。もし告白に失敗したら、これまでの関係が崩れてしまいそうで…あと一歩を踏み出す勇気が欲しいんだ。なんとかできないか?」


 俺はガリウスの思いを聞いて困っていた。まさかここまで本気の恋の相談をされるとは思っていなかった。俺もマサジに対して偉そうなことを言ったが、付き合ったのはルインが初めてだ。


 だが、こんなに頼み込んでいるんだから何か力になってあげたい。


 俺が何かいい方法はないかと考えていると、一つの案を思いつく。


「ガリウス、俺から二つのアイテムをお前に託す。この二つがあればきっと大成功間違いなしだ!」


「ほ、本当か?ありがとうアミル!」


 俺はガリウスの肩に手を置いて笑いかける。


「ああ任せろ!」

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