第17話復讐

 俺は今日の夜の為に急いで準備を進める。エルロンは高度高いので、少し離れた場所に設置した方がいいだろう。


「アミル、こっち終わった。」


「こっちも終わったぞ。」


 俺はマジックアイテムを設置する。このアイテムが今回の秘策の一つだ。


「よし、次は見る場所の確認だ。」


 俺はリコリスにその場で飛んでもらい、エルロンからみて最適の枝をガリウスと確認する。人が居なくて告白するのに邪魔が入らない場所を探す。


「よしここだな。」


 俺はその位置にナジル鉱石の欠片を置いておき、夜に来ても位置がわかるようにしておく。


「この場所をちゃんと覚えとくんだぞ。」


「わかった。それにしてもすごい仕掛けだな。」


「人間の街だとお祭りでよくあるから珍しくもないけどね。でも、こいつはバックにして告白するっていうのはよく聞く話だよ。」


 俺は四人で家に戻り、リボルトさんに今日の夕飯を食べたらエルロンの下に集まってもらうようにお触れを出してもらった。


 これで準備は全て終わった。


 慌ただしく動いていた俺たちに、ネメシアが話しかけてくる。


「アミルさん、さっきから忙しそうに何をしていたんですか?」


「後でちゃんと話すよ。それより、今日の夜は良いものが見れるから、楽しみにしておいてくれ。」


「本当ですか?アミルさんがわざわざそう言ってくるなんて…楽しみにしておきますね。」


 そして、家で待っている内に、ルインから俺が居ない間に骸竜から届いたリコリスの情報を見たり、仕掛けがちゃんと動くか確認したりして過ごした。


 そして時間は流れて、夕食を食べたハーピィたちはエルロンの下に集まっていた。


─────────────────────────


 ガリウスとアネモネが居ないことを確認して俺はみんなの前に出る。


「皆さん、本日は集まってくれてありがとうございます。部外者である俺たちを暖かく迎え入れてくれた皆さんにお礼がしたくて、集まってもらいました。今日は俺がいた人間の街でイベントの時に使われている余興の一つを用意しました。それでは、短い間ですが最後までお付き合いください。」


 俺は杖を構えて魔力を込め、マジックアイテムを発動する準備をする。


「それでは俺の掛け声に合わせて一緒にお願いします。十、九、八、七、六、五、四…」


 俺がカウントダウンをしていくとともに掛け声に参加する声も増えていく。


 俺はタイミングを見計らってマジックアイテムを起動する。


「「「三、二、一、零!」」」


 俺はその合図と共に空に大きな花火を打ち上げた。


─────────────────────────


「ガリウス、こんなところに連れてきてどうしたの?みんなもう下に集まってるよ?」


 俺は今、アネモネの手を引きながら所定の位置についていた。


 これから、これから俺は彼女に告白をするんだ。


「大丈夫だよ。アミルから、ここにいた方がいいって聞いたから。」


「そうなの…?」


 俺は何を話したらいいのかわからず、黙り込んでしまう。そういえば、二人っきりになるのはいつぶりだろうか。


「あ、あのさ、ガリウス、そろそろ離してほしいんだけど…」


「あ、ああごめん!」


 俺はずっと手を握ったままだったことき気づき、慌てて手を離す。告白のことしか頭になく、他のことに一切気が回らない。


「なんか今日のガリウスちょっと変。」


「そんなことないと思うけど…」


「変だよ。何かあったの?相談乗るよ?」


 俺はなんて言おうか迷っていると、下の方からカウントダウンの声が聞こえてくる。もうそんな時間なのか。


 心臓がドキドキして、口から飛び出しそうだ。そんな中でも俺は覚悟を決める。


「アネモネ、あっちを見てごらん。」


「何もないけど…?」


 里のみんなのカウントダウンが進んで行く。


 「「「零!」」」


 そして、その合図と共に暗い闇の中に炎の花が咲き誇る。空中で何かが爆発し、大小さまざまな花火が打ちあがる。


「綺麗…」


 アネモネもどうやら喜んでくれたようだ。今日一日かけて準備したかいがあった。


 そしていよいよ大一番。アミルは約束通り最高の状況を作ってくれた。ここからは俺の頑張り次第だ。


「アネモネ、俺からの一生の頼みがある。」


「え、急に改まってどうしたの?」


 アネモネは俺のいきなりの言葉に驚いていた。ここまできたらもう後には引けない。


 俺はアミルから貰った純銀華という花をアネモネに差し出す。


「…俺と、結婚してほしい。」


 俺の言葉を聞いて、アネモネの顔が真っ赤になる。


「ええ、えええええ!?」


 おそらく俺の顔も赤くなっているだろう。さっきから顔が熱くて仕方ない。それに背中に変な汗が流れて気持ち悪い感じだ。早く楽になりたいという思いがこみ上げてくる。


「頼む!この通りだ!俺にはお前しかいないんだ!絶対に幸せにして見せる。」


 俺は頭を下げ続ける。恥ずかしくて死にたくなってくる。だが、ここで終われない。ここで諦めたら俺は一生後悔してしまう。


「わ、私のどこが好きになったの…?」


「全部だ!明るいところも、いつも一緒に遊んでくれたことも、作った武器を褒めてくれるのも、狩りから帰った後に一番に迎えに来てくれるのも全部が好きなんだ!」


 俺は自分の中にある思いを全てアネモネにぶつけた。


 花火の数がだんだんとまばらになってくる。もうすぐ終わりが近い。


 最後のとりは二人で笑って見たい。


 俺は祈るような気持ちで待つと、俺の手にある花をアネモネが受け取る。


 俺はそれがどっちなのか気になり顔を上げる。


 純銀華を手に取ったアネモネはとても綺麗だった。


「綺麗だ。」


「…ありがとう。いいよ。私ずっと待ってたよ。ガリウスがそう言ってくれる日が来るの!私、嬉しいよ!」


 アネモネが俺に抱き着いてくる。そのおかげでおれはようやく現実が脳に染みてくる。


「や、やったぁぁ!!ありがとうアネモネ!愛してる!」


「ちょ、ちょっと声が大きい!」


「花火の音で聞こえないから大丈夫だよ。それよりとりの一発がそろそろ来るぞ。」


 俺はアネモネの肩を抱きとめて、二人きりで花火を眺める。最後には今までの二倍くらいある大輪の花が夜空に咲いた。


「綺麗だね。」


「ああ、綺麗だ。」


 俺はやっと彼女のハートを射止めることができた。


─────────────────────────


「はぁ、はぁ…死ぬ…マジで、死ぬ…」


 花火の打ち上げを終えて、ハーピィたちが解散した後、俺は地面にぶっ倒れていた。花火を打ち上げるマジックアイテムはかなりの魔力が必要なのだ。普段は魔石で肩代わりするそれを、今日は人力でやっていた。


 そのおかげで俺は今魔力枯渇で死にそうになっていた。いや、実際には死なないが死にそうなくらいきついのだ。ルインと魔法の練習をしていた日々を思い出すきつさだった。


「アミルさん、回復薬ですよ。」


 ネメシアが魔力回復薬をゆっくり飲ませてくれる。すると、だんだん手足の感覚が戻ってくる。


「ありがとう。もう大丈夫。」


「アミルー!」


 俺が起き上がるとガリウスとアネモネが上から降りてくる。その手はしっかり握られており、彼の口から結果を聞かなくても理解できた。


「成功したみたいだな。」


「ああ、アミルのおかげだ。本当にありがとう!」


 俺とガリウスとのやり取りをみてネメシスは大体のことを把握する。


「なるほど、そういうことでしたか。アネモネ、よかったですね。ガリウスが一緒なら巫女になった後も頼もしい味方ができましたね。」


「うん!お姉ちゃん、ありがとう!」


 ネメシアとアネモネが喜んでいると、ガリウスが質問をしてくる。


「ちょっと待ってくれ、巫女になるって何の話だ?」


「言ってなかったっけ?私、お姉ちゃんの代わりに巫女になるんだよ。だから、ガリウスはお父さんの次の里長だね。」


 どうやらガリウスは一人だけ言われてなかったようで、驚愕していた。


「マジか…いや、もうどうにでもなれだ。里長でもなんでもやってやるよ!」


 ガリウスはやけくそ気味にそう宣言した。


─────────────────────────


 俺はエルロンから北に飛び続ける。


 クソクソクソ!なんでこんなことになったんだ!アネモネもネメシアも僕のことを良い人だって言ってくれたのに!あの噓つきのクソ女共!もうあんなやつら大っ嫌いだ。


 俺のことを好きになってくれない女なんてこの世に必要ない。あいつらのところに強い魔物をぶつけて全員ぶっ殺してやる。


「お前、いいな。」


 俺は憎悪を燃やしながら飛んでいると上から声をかけられる。そこには青い肌の女がいた。


「誰だお前…?」


「私はお前のことが大好きな人さ。」


 そう言いながら女は上から降りてきて、胸を俺の腕に押し当ててくる。俺はそれのおかげで気分がよくなる。巨乳で顔もエルロンの奴らより良くて、触ってもいいなんて最高だ。


「それより、何かあったのかい?」


「俺の考えが正しいはずなのにみんな俺のことを理解してくれないんだ。本当にどいつもこいつも無能な馬鹿ばっかり。俺以外を好きになる女も全部クソだ。全部滅んでしまえばいいんだ!」


 俺は女の尻を撫でまわしながら溜まっていた鬱憤を吐き出す。


 俺はあの里一番の有能だ。空を飛べない奴は飛べる奴より圧倒的に弱いという、誰も思いつかなかった画期的な考えを俺は言った。なのに大人たちは誰も相手にしようとしない。最初は俺に媚を売ってきていたあの姉妹も、最後には俺を裏切った。


「ああ~いいねえ。なら私と契約してみないかい?あんたを馬鹿にした奴らを全て滅ぼす力をあげるよ?」


「ほ、本当か?頼む!俺にできる事ならなんでもやる!あいつらを殺す力をくれ!」


 俺はなんて運が良いんだ。こんなにも不幸な俺に力が与えられるのは当たり前だが、これであいつらをぶっ殺すことができる。


 女も可愛くニヤっと笑っていて、俺の考えを肯定してくれているようだ。


「それで、どうしたら力をくれるんだ?」

 

「簡単だよ。私とキスするだけさ。」


「ふ、ひひひひ。そ、それじゃあ、仕方がないな。」


 俺は嬉しくてつい笑みがこぼれる。こんな美人とキスできるなんてやはり俺は選ばれた存在なんだ。


「それじゃあ、い、行くぞ?」


「おいで…」


 俺は舌を突き出しながら女の口の中を舐め回す。


 こ、これがキス。俺は下半身が大きくなるのを感じ、女に押し当てる。だが、なんだか感覚がおかしいような気がする。


「どうしたんだい?もっと楽しもう。」


 そう言って美人がキスを再開する。ま、気持ちいしなんでもいいか。後でこの女を抱いてやる。その後でエルロンの奴らをぶっ殺してやる。


 そして俺が正しいと殺される直前になってあいつらはりかいするんだ…


 あれ…なんだか意識が遠くなって…


─────────────────────────


 私は腕の中で気を失っているゴミを見る。


「これで必要なものはすべて揃った。」


 不意打ちだったとはいえ、私を一度消滅させた男、アミル。あいつを消すために、あいつに憎悪を持っている存在が必要だった。それが向こうから飛んできてくれるなんて本当についている。


 私はラクストの地下にある魔法陣の中心にゴミを投げ捨てる。


「待っていろよアミル!必ず私が殺してやる!」

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