第4話 GWってなんですか?
「うぉ、ファックス山もりじゃん! GWって感じだな~」
翌日。入室早々、テンションを上げているのは主任だ。ファックスからにょろにょろと、死ぬほど感熱紙が出ている。
「秋山、ファックス整理しろ! あとお茶!」
だからなんで、どっちも俺? 即座に
「了解しました」
すくと立ち上がる刹那崎。嬉しそうだ。
今のは「こいつぅ」みたいなアレとは違うからね? 苛立ちを込めてつついたんだから!
(こいつと関わるだけで疲れるんだけど……)
引き続きの疲労感。これがふいに、ドッと来る。
でも、あと少しの辛抱だ。昨日から、蹴るのが机の脚だろうと刹那崎だろうと、誰にも何も言われなかった。こいつを追い出したところで、お咎めはないに違いない。
ただひとつ、気になることがあるとすれば。
(刹那崎の入社を押したの、牧野さんって話なんだよなぁ)
主任と二人の時に出た話だが、今年はこの事務所にも配属があると聞き、主任もそれなりに喜んだそうだ。
しかし実際刹那崎が来た時点で、主任は断りを入れようとしたらしい。
『でも牧野さんが入れろっていうからよぉ』
そう主任がぼやいたところで、お局が帰還。会話は中断となったままだ。
お局の真意がわからないからには、後押しがほしい。
俺は彼女が電話に出ているのを確認すると、椅子ごと移動し、主任の席にぴったり付いた。
「主任はなんで、刹那崎を断ろうと思ったんすか?」
こそりと聞いてみる。唐突だったが、主任は乗ってきた。
「だってよー、あいつ自己紹介しろっつったら、”刹那崎です……”つっただけで、永遠に黙ったんだぜ~?」
主任が突っ込むと、人と話したのは十二日ぶりだと言ったらしい。
十二日ってナニ? どっか漂流してたの?
「この事務所にはおしゃべりしかいらないだろ? それに、身長が俺より高くて生意気」
完全に自分の好み。とはいえ、牧野さんだって口も聞かないんだ。見込み違いだったのかもしれないが、本人に聞ける空気ではない。
「FAXです」
「うわあっ」
そこで突然の声。耳元を風が過ぎ、飛び上がった。
いつの間にやら、背後に刹那崎。反射でヤツの
けれどヤツは足元を見ただけで、平気な顔をしていた。いや違う、またもや笑っている……?
(怖い)
俺がひきつっていると、刹那崎は次に、お茶の棚でごそごそし始めた。手元のメモには、俺たち三人のお茶の好みが書かれているようだ。
「主任、あいつってなんか変ですよね? ね?」
「まぁ有名大学を出て、来たのがココっつーんじゃなぁ」
そうなんだ。刹那崎は、小学校から大学までがエスカレーター式の、坊っちゃん大学卒業らしい。
それでも金で入れる学校だと主任に聞かされ、マウントを取る気満々ではいたんだが。
そこでお局が電話を切ったため、俺は自分のデスクに戻った。けれどすぐに、次の電話が鳴る。
「あぁ、
(げげっ)
しかも聞こえたのは、じんましんの出る名前だ。それでも今日は、白目でガッツポーズする。
(金戸のオッサン、久しぶりじゃねぇか~!)
こいつらGWとかないんだろうな~。まぁうちもないけど。休めるのは土曜の半分と、日曜のみ!
「秋山くん」
お局が笑顔で俺を見た。回してくると思ったよ。でも、俺も笑顔だ。
「刹那崎、お得意様だぞ」
俺は後ろの給湯スペースに、椅子ごと向いた。
「あいつなら水くみにいったぞ」
しかし、答えたのは主任だった。今日も
手にした受話器からは、もはやオッサンの怒鳴り声が漏れ聞こえていた。
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