第58話 急に不吉な雲が
村の厚意で一泊させてもらったルイス。
本当は朝起きたらすぐに帰るつもりだったのだが、
「い、池がっ……池がっ……二つに増えてたあああああああああああああああっ!!」
という村を揺るがす大騒動(?)が発生したことで、出発が遅くなってしまったのである。
自分の仕業だと説明してもなかなか納得してもらえず、池を元に戻す作業をしてようやく信じてもらえたのだった。
「よく考えたら勝手に池を増やしてしまって申し訳ない」
「そんなのはめちゃくちゃどうでもよい……おぬし、出鱈目にもほどがあるじゃろ……」
村人たちに驚かれつつ、領都に戻ってきたルイスは、そこで初めて領都の危機を知ったのである。
城壁の上に知り合いを見つけたので、風を操って跳躍して彼らのところへ。
「「ルイス!?」」
「これはどういう状況なんだ?」
「戻ってきたっすか! 見ての通り、大ピンチっす!」
「スタンピードが起こって、樹海の魔物がこの領都に押し寄せてきたんだ。冒険者と騎士たちが協力して、どうにか第一波を防ぎ切れたかと思ったら、予想外の第二波があった。城壁に穴を開けられてしまっているし、このままだと領都が危ない」
「なるほど」
「そんなにのんびりしてる場合じゃないっすよ! 早く地上に加勢に行った方がいいっす! ルイスの強さなら、きっと百人力っすよ!」
リオが訴えるが、ルイスはなぜか視線を空の方に向け、その場から動こうとしない。
「ど、どうしたっすか? 空なんて眺めてる場合じゃないっすよ!」
「っ……空が、急に暗く……?」
ジークがハッとして頭上を見上げると、猛烈な勢いで空に雲が広がりつつあった。
それも真っ黒な雲――雨雲だ。
「なんか急に不吉な雲がっ!? そ、そうっす! 前みたいに要塞を作れば、戦いやすくなるっすよ!」
良いことを思いついたとばかりに手を叩き、叫ぶリオ。
彼が言うのは、試験でダンジョンに挑んだ際、ルイスが畑を利用して作り出した要塞のことだろう。
しかしルイスはそれに応じず、真剣な顔で空の雨雲を睨んでいる。
「な、何をやっもごもご!?」
「……リオ、邪魔しちゃダメだ。ルイスが集中してる」
「っ!?」
「この雨雲……いや、雷雲は……」
ゴロゴロゴロゴロ……と、その真っ黒な雲から重低音が響き始めたかと思うと、次の瞬間。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!!!!!
空を覆い尽くす雨雲から、凄まじい雷が次々と地上に降り注いだのである。
視界が一瞬で真っ白に染まり、轟音という轟音が城壁すらも揺らす。
それはまるで、世界の終わりを示す天変地異のようだった。
「「……は?」」
やがて落雷が収まり、ゆっくりと静寂が戻ってきた頃、リオとジークは思わずそんな声を漏らした。
こちらに迫って来ていた第二波。
恐らく第一波と同じく、千体もの魔物で構成されていたその大群が、今の落雷を浴びて死屍累々の地獄絵図と化していたのである。
丸焦げならまだいい方だろう。
落雷の衝撃で肉片があちこちに四散し、見るも無残な姿と化した魔物も少なくない。
ただし地面はまったく血で汚れてはいなかった。
恐らく沸騰して蒸発してしまったのだろう。
生き残っている第一波の魔物も含め、誰もが呆然自失としてその場に立ち尽くす中、新人冒険者たちが恐る恐る口を開いた。
「い、今の……ま、まさかとは思うっすけど……」
「る、ルイスが、やったのかい……?」
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