第50話 とんだ女王様じゃの
「ルイスって男がいるだろ? やつをうちの騎士団に寄越せ」
「は?」
アンジュの提案に、バネットは「何を言っておるのじゃ、こやつ」という顔になった。
「お前なんかより、オレ様の方がよっぽどあいつの価値を分かっているからな。冒険者にしておくのは惜しい男だ」
「そもそもなぜ騎士団のお主が、あやつのことを知っておるのじゃ? わらわでもつい先日、初めて直接会ったばかりなのじゃぞ?」
「んなこたぁ、どうでもいいだろ」
疑問をぶつけるバネットだが、アンジュはそれを一蹴する。
「いや、それが人にものを頼む態度かの?」
「ああ? 一応お前の顔を立てて、わざわざこっちから出向いてやったんだぞ?」
「せめてちゃんとアポ取って菓子折り持って、丁寧に頼み込んでくるのじゃ。もっとも、そうされたところで、答えはノーだがの」
「別にお前のイエスとかノーとか関係ねぇ。頼んでるんじゃなくて、こいつは命令だ、命令」
「命令? 騎士団なんぞに、命令される筋合いはないのじゃが?」
横暴なアンジュに、バネットはきっぱりと言い返す。
確かに領主の直属である騎士団に対し、冒険者ギルドが格下というイメージは根強い。
アンジュのように、冒険者ギルドのことを、騎士団の下請け的な位置づけとして認識しているような騎士も少なくなかった。
だが近年、世界的な冒険者ギルドの発展に伴って、次第にその力関係は逆転しつつあるのだ。
かつては珍しかった騎士から冒険者への転職も、当たり前になってきている。
「だいたい当のルイスは何て言っておる?」
「まだ話はしてねぇ。だが他ならぬオレ様が騎士にしてやろうとしてんだ。当然、拒否権などはねぇよ」
「とんだ女王様じゃの……まぁ、今に始まったことではないが」
深々と嘆息するバネット。
実はかつて王宮に仕える宮廷魔導師だったバネットは、その当時、近衛騎士団にいたアンジュのことをよく知っているのだ。
「そんなだから王家と衝突して、近衛騎士を辞めさせられるんじゃよ」
「あ? 昔のことはどうでもいいだろうが、ババア」
「誰がババアじゃゴラアアアアアアアアッ!?」
逆鱗に触れる一言に、バネットがブチ切れた。
周囲に凄まじい魔力の渦が巻き起こる。
「小娘が、あんまりイキってんじゃねぇぞ? 力づくで追い出されたくなけりゃ、とっととここから出ていくんだねぇっ!」
「はっ、どうやらババアになってもまだ衰えちゃいねぇみてぇだな」
「また言いおったなっ!? いいじゃろう! 久しぶりにわらわが直々に、教育的指導をしてやるのじゃ!」
一触即発どころか、もはや激突は免れられないような状態の二人。
「お、抑えてくれえええええっ!? あんたらが本気でやり合ったが、建物ごと壊れてしまう……っ!」
バルクが慌てて止めに入ろうとするが、
「「うるさい」」
「ぎゃああああああああああっ!?」
二人から同時に攻撃を喰らい、あっさりと退場させられてしまう。
「じゃが、ハゲの言う通り、さすがにこの場所でやり合うのは困るのじゃ。仕切り直して、地下の訓練場で相手をしてやろうぞ、小娘」
「はっ、いいだろう。だがそう言っておいて、逃げたりするんじゃねぇぞ、ババア?」
「あ? それはこっちの台詞じゃぞ? 小娘がわらわに勝とうなど、百年早いわ。あといい加減、ババアはやめい!」
それから地下訓練場に場所を移した二人は、壮絶な戦いを繰り広げたという。
冒険者ギルドの建物どころか、周辺の地面まで激しく揺れて、地震が来たのではと錯覚されるほどだった。
なお、結果は相打ち。
そろって瀕死状態でぶっ倒れ、ギルドの治療チームが慌てて治療することになったのだった。
「……きょ、今日のところは、これくらいで勘弁しておいてやらぁ」
捨て台詞を残して去っていくアンジュの後ろ姿に、バネットは思わず呟いた。
「あやつ、マジで何しに来たのじゃ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます