第42話 ちゃんと公私は分けるタイプですので

「こ、これっ、まさかルイスさん一人で倒したんですか!?」

「ああ」

「グレートボアっていったら、Bランク冒険者が複数人で倒すような魔物ですよ!? それにこんな大量にっ……」


 解体場を埋め尽くしそうな数のグレートボアに、フィネはよろめく。


「ああ……昨日のゴブリンキングに引き続き、今日はグレートボア……新人には荷が重すぎるんですけど……」


 作業服姿の男が、グレートボアを観察しながら唸った。


「おいおい、兄ちゃん、こいつ一体どうやって倒したんだ? 今まで何度か持ち込まれたグレートボアを見ているが、これほど傷の少ないのは始めてたぜ?」


 どうやら彼はこの解体場のリーダーを務める解体師らしい。


「そうなのか?」

「ああ。複数人で滅多打ちにして倒すのがセオリーだからな。どうしてもあちこちに傷が付いちまうんだ」


 一方ルイスは、グレートボアの頭部をピンポイントで撲殺して倒している。

 そのため身体にはほとんど傷がついていなかった。


「グレートボアの身体は素材の宝庫だ。肉はマズくて大した価値にはならねぇが、骨や皮が丈夫だからな。だからゴブリンと違って、丸ごと納品ってスタイルなんだ」

「なるほど」

「しかしまぁ、普通は持って帰ってくるだけでも一苦労で、あんまり狩りの対象としては人気がねぇんだがな。労力を考えたら、50万ゴールドは安すぎる。もっとも、この状態のよさだ。もう少し高い報酬になるだろうぜ」

「本当かっ?」


 綺麗に倒してよかったと思うルイスだった。


 その後、しばらく待合室で時間を潰していると、無事に査定が終わったようで、フィネに呼び出された。


「こ、こちらが報酬となります!」


 確認すると、グレートボア六体で420万ゴールド、そこから税金が引かれて294万ゴールドだった。

 どうやら一体につき70万ゴールドの報酬で、通常より20万も上乗せされたらしい。


「ということは……よし、これで500万ゴールド貯まったってことだな」


 つまりミスリル製の鍬に支払うお金を、たった二日で稼いでしまったということになる。


「(冒険者ってすごいんだな……農業やってたときは、一年でもこんなに稼げなかったのに)」


 ……それは村長に搾取されていたからなのだが。


「ルイスさん、凄い勢いで稼いでいますねっ……この調子でいくと、あっという間に億いっちゃいますよ! やっぱり冒険者には夢がありますね!(だから将来性のある冒険者には、玉の輿を狙うギルド職員が猛アプローチをするんですね……。も、もちろん、私はそんな公私混同はしませんよっ!? ……まぁ、ルイスさんの方から来てくださるなら、拒んだりはしませんけど……って、何を考えてるんですか、私っ!?)」

「……?」


 なぜか慌てている様子のフィネに、ルイスは首を傾げた。







 無事に目標の金額を稼いだルイス。

 もちろんそれは、お金そのものが目的ではない。


 あくまで丈夫な鍬を手に入れるためだ。

 そしてそれは、冒険者として生きていくためである。


 そんなわけでルイスは翌日以降も、どんどん仕事をしていった。


 オークの群れが住みついた廃墟要塞に単身で乗り込み、殲滅したり。

 街道沿いの湿地に集落を築き、討伐を試みた冒険者たちを何度も返り討ちにしていたリザードマンの集団を全滅させたり。

 山に巣を作り、麓の村々から牛を丸ごと攫っていくワイバーンを討伐したり。


「ルイスさん!? どれもこれも、Cランク冒険者が達成する内容じゃないですよ!?」

「そうか?」

「お陰で毎日のように、同僚たちからルイスさんの今日の〝やらかし〟を聞かれるんですけど!」

「やらかし?」


 別に自分は何もおかしなことはしていないのだが……と思うルイスだった。


「ところでルイスさん、これから少しお時間ありますか? い、いえっ、別に一緒にお食事にとか、そういうんじゃないですよっ? ちゃんと公私は分けるタイプですので!」

「何の話だ?」

「じ、実はそんなルイスさんに、ぜひ会いたいと言ってる者がいるんですよ!」

「俺に? それは誰なんだ?」

「この冒険者ギルドのトップ、ギルドマスターです!」



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