第43話 後でオシオキじゃな
「うむ、ルイスよ! よく来たのじゃ!」
「……子供?」
ルイスを待っていたのは、大きな椅子にちょこんと腰かけた推定年齢十歳ほどの女の子だった。
「いいや、わらわこそがギルドマスターのバネットじゃ!」
「え、ギルドマスターって、こんな子供なのか……?」
子供にしては随分と態度が大きく、喋り方も古風な感じではあるが、とてもこの冒険者ギルドのトップに君臨しているギルマスには見えない。
「そう思うのも無理はないの。なにせわらわは実年齢よりも若く見えるからのう!」
うんうん、となぜか嬉しそうに頷くバネット。
「若くっていうか、幼いっていうレベルだが」
しかしどうやらこの子供が、ギルマスで間違いないらしい。
同席しているサブマスのバルクが、豪快に笑う。
「がっはっは! ギルマスはこう見えて還暦を超えている! オレよりも年上だ!」
するとバネットの空気が急に変わった。
「……バルク? 年齢は言わぬ約束じゃが?」
「っ!? ももも、申し訳ありません……っ!」
「後でオシオキじゃな?」
「ひいいいいいいいいいいっ!? そ、それだけはご勘弁をおおおおおおっ!?」
そんなに恐ろしいお仕置きなのか、床で平伏し、涙目で必死に許しを請うバルク。
「と、言いたいところじゃが、今日は気分がよい。勘弁してやろう。じゃが二度とわらわの歳のことに触れるでないぞ?」
「ははっ」
「なにせ、面白い新人を連れてきてくれたからの。無論、それはルイスよ、お主のことじゃぞ?」
バネットの視線がルイスの方を向く。
見た目こそ確かに子供にしか見えないが、その瞳からはこちらを見透かすような老獪さが感じられた。
「二十七歳じゃったか。よくもまぁ、これほどの人材が、戦士として何の実績もないままで眠っておったわい」
ルイスの怒涛の活躍を聞きつけた彼女は、ぜひ一度会って話をしてみたいと、ルイスを呼び出したようだった。
「我が冒険者ギルドは、これから全面的にお主の活躍をサポートしていくのじゃ。ぜひその実力を、遺憾なく発揮してもらいたいからのう。というわけで、手始めに――」
勿体ぶるように少しの間を置いてから、バネットは告げた。
「ギルマス権限で、お主の冒険者ランクをBランクに昇格させてやるのじゃ!」
おおっ、と感嘆の声をあげてから、バルクが解説してくれた。
「通常、Bランク冒険者に昇格するには、試験に合格する必要がある! だがギルマス権限で、それをパスさせてくれるというのだ! これは本当に珍しいことだぞ!」
さらに同席していたフィネも、
「ギルマス権限っ! 先輩から聞いていた何年かに一度あるかないかのことが、まさかこんなに早くっ……しかもその瞬間を目の前で見ることができるなんて……っ!」
なぜか感動している。
「Bランク冒険者ともなれば、上級冒険者の仲間入りじゃ。ランク制限で紹介できなかった依頼も、受けることができるようになるはず。ルイスよ、これから更なる活躍を期待しておるぞ」
「うーん、Bランクと言われても、いまいちピンとこないな」
Bランクの新しい冒険者証を受け取ったルイス。
普通の冒険者であれば昇格を大いに喜んだのだろうが、冒険者を始めて一週間かそこらで、しかもギルマス権限であっさり昇格してしまったため、正直何の感慨も湧いてこなかった。
「いやでも、俺もちゃんとこれから戦士としてやっていけるって証明されたってことだよな? うん、そう考えると、ちょっと嬉しくなってきたぞ」
一度は諦めた戦士の道。
代官ミハイルのお陰でその道を歩み始めたが、通用するのかという不安も大きかったのだ。
「お金も稼げるようになったし。……よし、昇格祝いに軽く一杯やっていくか」
すでに必要な鍬代は稼ぎ切り、支払いも済ませてある。
その上でさらにお金が貯まってきているので、少しくらい贅沢してもいいだろうと、ルイスは冒険者ギルド近くの例の酒場、『竜殺し亭』へ向かう。
「そういや、約束していた食材も渡さないとな。ちょうど今朝、収穫ができたんだった。……ん?」
そのときルイスの行く道に、複数の人影が立ち塞がった。
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