第40話 何だあのカボチャ

「はぁ……まさか同じCランク冒険者に、こんな馬鹿がいたとは……」


 大きなため息を吐かれてしまう。

 ルイスは心外だなと思いつつ反論する。


「いや、グレートボアなら何度も一人で倒したことがある。別に何の考えもなしにここに来たわけじゃない」

「おいおい、冗談言ってんじゃねぇぞ。どうせお前が倒したのは、下位種のビッグボアとかだろう。それならCランクでもなんとかなる魔物だ。グレートボアってのはな、全長五メートル超えの化け物猪だぞ。ビッグボアの倍以上はある」

「ブオオオオオッ!!」

「ほら、見ろ、あんなにデカいんだぞ……って、グレートボア!?」


 沼地の向こうから姿を現した巨大な猪。

 冒険者たちが慌てて陣形を整えた。


 先頭に大柄な男たち数人が並んで、大きな盾を構える。

 そのすぐ背後に剣や槍を持つ者たちが控え、さらに少し距離を取って遠距離攻撃組だ。


 どうやらあの盾でグレートボアの突進を受け止め、それから一斉に攻撃を見舞うつもりらしい。

 直後、グレートボアが躍りかかってきた。


「(あれ? 俺の知るグレートボアよりも遅いな? なるほど、沼地だからか)」


 グレートボアの突進が鈍いことに気づいて、ルイスはそう分析する。

 実は彼の分析通りで、それがこの沼地がグレートボアの狩場として利用されている最大の理由でもあった。


 そしてグレートボアの巨体と盾が激突する。

 盾役の大男たちは吹き飛ばされそうになったものの、辛うじて耐え抜いた。

 グレートボアの勢いが止まったその隙をついて、残る者たちが集中砲火を浴びせていく。


「ブオオオオオッ!?」


 暴れ回るグレートボアだが、いつの間にか周囲を取り囲むように展開した盾役たちが、懸命に抑え込む。

 と、そのときである。


「ブオオオオオッ!!」


 予想外の方角から響いてきた咆哮。

 もう一体、別のグレートボアが彼らのもとへと突っ込んできたのだ。


「「「なっ!?」」」


 慌てる冒険者たちだが、盾役たちは一体目のグレートボアを抑え込むのに精いっぱいで、新手に対応する余裕などない。

 だがこのままでは、彼らのところへグレートボアが思い切り突っ込んできてしまう。


 息を呑む彼らだったが、二体目のグレートボアの前に立ちはだかる者がいた。


「よし、ここは俺に任せろ」


 ルイスだ。


「お前、まだ逃げてなかったのか!?」

「死ぬぞっ!?」

「だ、ダメだっ……間に合わねぇ……っ!」


 そんな怒号が響いてくる中、ルイスは巨大カボチャを取り出した。

 しかも以前、酒場で盾に使ったものよりさらに大きい、直径二メートルに迫るカボチャだ。


「「「何だあのカボチャ!?」」」


 それをルイスはグレートボア目がけて全力投球。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 カボチャはグレートボアの脳天に直撃した。


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 さすがの突進力で巨大カボチャを跳ね返したものの、脳震盪を起こしたのか、グレートボアはそのまま勢いよく泥の中に倒れ込む。

 よく見るとカボチャと激突した頭部が大きく凹んでいた。


「グレートボアがっ……」

「「「止まったあああああああああっ!」」」


 思わず絶叫する冒険者たち。

 ルイスは倒れたそのグレートボアに近づくと、


「まだ生きてるな。おら」


 頭に拳を叩き込む。

 すると今度こそグレートボアは完全に動けなくなった。


「な、な、な、何なんだ、あの男は……」

「「「ブオオオオオッ!!」」」

「って、また現れた!?」

「しかも一体だけじゃねぇぞ!?」


 そこへさらに複数のグレートボアが姿を現す。


「じょ、冗談じゃねぇぞ!? グレートボアの多い地帯といっても、こんなに頻繁に遭遇するはずがねぇっ!」

「どうなってるんだ!?」


 まだ一体目のグレートボアすら倒せていない冒険者たちが、絶望の悲鳴を上げる。


 ……実はルイスが設置した巨大なサツマイモに誘き寄せられてきているのだが、もちろん彼らはそんな事実など知らなかった。

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