第36話 お陰で貞操が守られた

「人質か。ゴブリンのくせに賢いな」


 いつでも刺し殺せるぞとばかりに、ゴブリンキングが捕らわれた娘の一人の首にナイフを突きつけている。


「無事死亡確定……また来世で会いましょう……」


 その娘は絶望の顔で呻く。

 しかし次の瞬間、ゴブリンキングの足元から、鋭い突起が伸びてきたかと思うと、その腹をあっさりと貫いた。


 ルイスが地面を操り、遠距離からゴブリンキングを攻撃したのである。


「~~~~~~ッ!?」


 ナイフを地面に落とし、大量の血を噴き出しながら悶絶するゴブリンキング。

 杖を手にした雌ゴブリンが慌てて駆け寄っていく。


「ヒーラーもいるのか。だがそんな暇は与えない」


 ルイスは再び大根を投擲。

 一直線にゴブリンキングに迫ると、負傷したゴブリンの王には、今度こそ回避することはできなかった。


 ズシャッ!!


 大根に持っていかれた上半身が、後ろの壁にめり込みながら潰れた。

 残った下半身は少し遅れて地面に倒れ込む。


「ひえええええっ」

「と、とんでもない威力ね……大根なのに……」

「……予想外のスプラッタ」


 三人娘も顔色を青くしているが、それ以上に大混乱に陥ったのは、まだ生き残っているゴブリンたちだ。

 統率者を失い、どうすればいいか分からず右往左往する者もいれば、横道などから慌てて逃げ出す者もいる。


 何体かは怒りを露わにルイスに襲いかかったが、当然のように瞬殺された。


「逃がしはしないぞ」


 ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 横道に逃げ込んだゴブリンたちが、土砂に流される形でルイスのいる空間へと舞い戻ってくる。

 もちろんこれもルイスの仕業だ。


「ねぇ、一体何が起こってるのっ!? ……はっ、もしかして夢!?」

「その可能性はあるわね……」

「でもほっぺは痛い」


 次から次へと起こる理解不可能な現象に三人娘たちが困惑する中、ニンジン槍を手にしたルイスはゴブリンを串刺しにして仕留めていく。


「……あの槍もどこから出てきたし」

「見た感じ、ニンジンに似てるけど……ま、まさかね」

「私の知ってるニンジンじゃない件」


 やがて十分ほどで、ルイスはすべてのゴブリンを片づけてしまった。


「ふう。めちゃくちゃ多かったな。ここだけで二百体くらいはいたんじゃないか? 問題はどうやって角を回収して持ち帰るかだが……っと、その前に助けるか」


 ルイスは鎖で拘束されたままの三人娘に近づいていく。

 ……かなり目のやり場に困る格好だが、致し方がない。


 ニンジン槍で拘束具を破壊し、三人を解放してやった。


「お、お陰で助かったよ……っ! あたしはリゼ!」

「……マーナよ。色々ツッコミどころはあるけれど、ひとまずお礼を言うわ。助けてくれてありがとう」

「私はロロ。お陰で貞操が守られた。感謝しかない」


 聞けば、三人はそろってDランク冒険者らしい。

 年齢はそろって十八前後で、つい最近、昇格してDランクになったばかりのまだ経験の浅いパーティだという。


 ゴブリンを狙ってこの森に来たというが、想定より遥かに多いゴブリンと遭遇し、ついには捕まってこの巣穴に連れ込まれてしまったそうだ。


「俺はルイス、さっきも言ったがCランク冒険者だ」

「その強さでCランクって絶対おかしいと思う!」

「冒険者になったばかりで、実は今日が初めての活動なんだ」

「騎士からの転職ってことかしらね。天職を聞いてもいいかしら?」

「いや、そもそも戦士としても未経験だ。天職は【農民】」

「「「【農民】???」」」


 首を傾げる三人娘。


「……それより、まずはその服をどうにかした方がいい」


 一応腕で大事な場所は隠してくれているが、街を歩くのも憚られるような状態である。


「うぅ、そう指摘されると、なんかすごく恥ずかしくなってきたっ!」

「かといって、替えの服もないのよね」

「じゃあ、これを羽織るといい」


 そう言ってルイスが取り出したのは、巨大な白菜だ。

 その葉を剥がすと、ちょうど人が包まれる毛布ほどのサイズだった。


「おっきい白菜!?」

「一体どこから取り出しているの……?」

「私の知ってる白菜じゃない件」

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