第34話 悲鳴が聞こえてきたような
よく村の畑の作物を狙って現れたので、グレートボアは何度も倒したことがあった。
「『エンヤル沼地』ってどこだ? あ、ここに地図があるな。ふむふむ、街を出て西の方か。途中で森を抜けないといけなさそうだし、結構な距離があるな」
『エンヤル沼地』と領都の間には、『バルセール西の森』という小さな森がある。
どうやらゴブリンが多数、棲息している森のようで、幾つかこの森に関する依頼も掲示されていた。
「ゴブリンは一体倒しても五千ゴールドだし、500万ゴールド稼ごうと思ったら、千体も倒さないといけない。そんなことやってたら期日までに稼げないだろうし、やっぱりグレートボアだな」
ルイスは街を出ると、ひたすら西に向かった。
森を迂回するという手もあるが、真っ直ぐ突っ切った方が近道なのは明白なので、そのまま森の中へと足を踏み入れる。
「「「グギャギャギャ!!」」」
「ゴブリンは無視無視」
「「「グギャッ!?」」」
途中で何度かゴブリンに遭遇したが、近づいてきたら風を操って吹き飛ばすだけで、まったく相手はしない。
「それにしてもめちゃくちゃ多いな? ゴブリンってこんなに大量発生するものだったか?」
首を傾げつつも、最初の方針通り無視して前進。
そうして森の奥深くまで来たときだった。
「ん? あれは……」
ちょっと開けた場所に、大量に屯するゴブリンたち。
彼らの背後には洞窟らしきものがあった。
「やつらの巣穴か。まぁ気にせず真っ直ぐ突っ切ろう」
ルイスはそのまま開けた場所を通っていく。
ちょうど洞窟の前を横切るような形だ。
「ゴギャ?」
「グギギ?」
「ギャグ?」
あまりにも自然に歩いていたからか、ゴブリンたちは最初、不思議そうに首を傾げていたが、すぐにハッとし、慌てて武器を構えだした。
「ゴギャギャギャッ!」
「「「グギェエエエエエッ!!」」」
指揮官クラスなのか、一体のゴブリンの合図を受け、ゴブリンたちが一斉にルイスに襲いかかっていく。
直後、彼らはまとめて空へと舞い上がった。
「「「~~~~~~~~~~~~ッ!?」」」
ルイスが起こした猛烈な竜巻に巻き込まれてしまったのだ。
凄まじい渦の中で身体が捻じ曲がり、あっという間にただの肉片と化していくゴブリンたち。
やがて竜巻が収まった後には、ゴブリンの雨が降り注いだ。
「……今ので五十体くらいは倒せたよな。意外と千体いけるのかも?」
わざわざ森を抜けて沼地まで進まなくとも、ゴブリンだけで稼げるのではないかと思い始めるルイス。
そもそもここまで大量にゴブリンがいるとは思っていなかったのだ。
と、そのときである。
――いやあああああっ!
「ん? なんか今、巣穴の中から人の悲鳴が聞こえてきたような?」
気のせいかもしれないが、もし本当に誰かがゴブリンの巣に捕らえられているのだとしたら放っておくわけにはいかない。
ゴブリンは高い繁殖力を持つ魔物だが、ゴブリン同士で子を成すだけではない。
人間の女性を苗床にして繁殖することもあるのだ。
そのため若い女性がゴブリンに捕まり、犠牲になるケースが少なくない。
ゴブリンが蛇蝎のごとく嫌われるのは、その醜悪な見た目だけではなかった。
なお、人間の女性の腹から生まれてくるゴブリンは、なぜか通常のゴブリンはもちろん、人間よりも体格がよくなる傾向があって、彼らはホブゴブリンと呼ばれている。
ゴブリンの巣穴の中は、湿度が高くてジメジメとした空気が漂っていた。
匂いもかなりキツイ。
「にしても、本当に数が多いな」
巣穴なのだから当然かもしれないが、中にはゴブリンがわんさかいた。
人間から奪ったのか、さび付いた剣や槍などを手に躍りかかってくる個体も少なくない。
鍬だと素材の角を回収できなくなる恐れがあるため、ルイスは大根を振り回してゴブリンを撲殺していった。
「っ、矢か」
咄嗟に大根で防いだが、どうやら弓を扱えるような個体もいるようだ。
「……おかしいな。特殊個体もこれほどいるとは……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます