第33話 パーティに入りたいんだ
「え? 550万ゴールド……?」
「そりゃ、ミスリルは希少金属だからな。そのくらいの値段にはなる。それでも鍬の刃は加工がシンプルだからよ、他の武器に比べりゃ安い方だぜ」
ミスリル製の鍬を作ってもらえることになったルイス。
だが、その値段は思っていた以上に高価だった。
「ちなみに鋼の武具でも、アタシが打つものは100万は下らねぇぞ」
「(マジか……。村の爺さんは、俺の農作物との物々交換だったからな……まさかオーダーメイドの武器がこれほど高いとは……)」
残念ながら今のルイスにそれほどの大金はない。
「ちなみに前払いで50万。後払いで500万だ」
仕方なくなけなしの50万ゴールドを支払ったルイスは、ゼタの鍛冶工房を後にすると、その足で冒険者ギルドに向かう。
「頑張って稼がなければ……」
ほとんど無一文になってしまったルイスである。
鍬が完成するまでおよそ二週間らしいので、それまでに依頼をたくさん成功し、お金を準備しなければならなかった。
「幸い食べ物はストックがあるし、宿は冒険者ギルドに格安で泊まれる部屋がある。生活費はほとんどかからないはずだ」
そして冒険者ギルドにやってきたルイスが真っ先に訪れたのが、新メンバー募集の合同説明会だった。
冒険者の多くはパーティを組んでいる。
ギルドに寄せられる依頼の多くは、ソロで挑戦するが危険なものばかりで、そのため複数人で力を合わせる必要があるためだ。
フィネが最初にしてくれた講習でも、最初にどこかのパーティに加えてもらうべきだと言っていた。
そして冒険者ギルドでは、新メンバーを募集しているパーティによる合同説明会が、定期的に開催されているのだ。
この日は、全部で七つのパーティが説明会を行っていた。
「お、パーティ加入希望者か。え? 天職は【農民】? ぶはっ、おいおい、そんなのうちは募集してねぇよ!」
「あら、加入希望者ですの? 天職を教えてくださいます? ……【農民】? うふふ、初対面で人を揶揄うのはやめた方がいいですわ?」
「いや【農民】なんて要らねぇよ! うちが募集してるのは回復ができる天職だ! え? 果物を使えばいける? 意味不明なこと言ってんじゃねぇよ!」
……残念ながらルイスは天職を告げた時点で、ことごとく門前払いされてしまった。
鍛冶屋のときとまったく同じである。
ただし一部で、違う反応もあった。
「お、お前はっ!? 昨日の酒場のっ……」
どうやら偶然にも昨晩、『竜殺し亭』にいた冒険者らしい。
「パーティに入りたいんだ」
「いやいや、お前なんかをパーティに入れたら、ボーマンに目を付けられちまうだろうがっ」
「昨日のデカい男か?」
「そうだっ。……あいつのことだ、お前のことを絶対に許さねぇぞ? マジで気を付けた方がいい」
忠告はくれたものの、パーティ加入は全力で拒否されてしまった。
そして結局、説明会に参加していたすべてのパーティに断られてしまったルイス。
「どうしたものか……次の説明会を待ってる余裕なんてないし……とりあえず一人で活動するしかなさそうだな」
冒険者ギルドの依頼には、大きく二種類あった。
一つはその依頼を受理した者しか、その依頼に取り組むことができないタイプの依頼。
その大半が公開されておらず、冒険者ランクや過去の実績などが考慮されたうえで、職員の方から提案される。
もう一つは常に掲示板などで公開され、特に受理などの手続きを踏まずに、誰でも挑戦ができるタイプの依頼。
一応、推奨ランクが記載されているものの、実際の成果に応じて報酬が支払われるため、低ランクの冒険者が難易度の高い依頼に挑むことも可能だ。
パーティに入れなかったルイスに、一つ目のタイプの依頼を受けるのは難しい。
そのため二つ目のタイプの依頼をこなしていくことにした。
「薬草の採取とか、特定の魔物を倒して素材を持ち帰るとか、ほとんどそういう依頼みたいだな」
その中でまずルイスが目を付けたのは、
「『エンヤル沼地』のグレートボア。一体討伐につき50万ゴールド。ただし、丸ごと持ち帰ること。……これだ。一体で50万ゴールドってことは、十体倒せば一気500万ゴールドだもんな」
……なお、この依頼の推奨ランクはB×3。
すなわちBランク冒険者が三人がかりで挑むべき依頼だった。
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『生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます』の第4巻、本日7月14日(金)に発売されました!
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