花井愛子『山田ババアに花束を』
いろいろありまして、半年以上ぶりの更新です!!
今回は花井愛子『山田ババアに花束を』です。1987年に講談社X文庫より刊行されています。
女子高校生と教師の人格が入れ替わる話、という程度の知識はありました。それから、山田邦子主演で映画があったような…というおぼろげな記憶も。実際に映画は観ていないんですけど。山田邦子が天下を取っていた時代の記憶自体がもはや曖昧です。
1990年の映画について調べると、瑠奈役が西田ひかる、マサト役が高嶋政伸!?とちょっとびっくり。そして原作を読んだ今、42歳で見た目はもっと上という山田役を、当時30歳の山田邦子が演じたのか…でも適役だしそもそも苗字が同じだし、不思議な縁みたいのものがあったのかな~などと思います。
清花女学院高等部1年の神崎瑠奈は快活で奔放な今どきの女子高校生。いっぽう、担任の古典教師・山田正子は教育に人生を捧げてきたお堅い独身女性。瑠奈たちからはうっとうしがられ、山田ババアと陰で呼ばれています。
そんな天敵とも言えるふたりが、校内で衝突したことから心が入れ替わってしまいます。そこから生まれる騒動をユーモラスに描くお話。
私自身が人格入れ替わりものを書いた経験があり、賞でそこそこのところまで進んだので思い入れもあります。
※『アイドルの中の人』読んでね! https://kakuyomu.jp/works/1177354054881245231
そのおかげか、比較しながら楽しく読むことができました。
結論から書くと、展開がスピーディーですごく面白かったです!
入れ替わった後、瑠奈はすぐに事態を把握し、山田をぐいぐい引っ張っていきます。結局24時間も経過せずに問題が解決しちゃうっていう速さ! 拙作では入れ替わり状態が数か月続いたというのにね…。この辺は文量の都合もあったのでしょうし、さすがに瑠奈が山田の代わりに授業を行うのは無理という設定上の問題もあったのでしょう。
それでいて、入れ替わり&解決方法の理屈はしっかりしているし、そこも含めた伏線バッチリなのが流石です。拙作では入れ替わり解決の理屈はだいぶ強引だったので、詰めが甘かったのかもな~と今さらながら感じました。
入れ替わりもので大切なのはメインふたりの対比だと思うのですが、
「だから、ね。
生徒は、全員、なあなあの仲なワケ。
きどったって、イミないモン。
カッコE、男子が、いるんじゃなし。
パンツの色から、オヘソの形から、生理の日まで、知り合っちゃってるカンケーだし(あ、やらしー意味と、チガウよ。体育のときの、着替えとか、あるじゃないか!!)。
ひたすら、あけっぴろげ。
と言っても、清花は、いちおー、家柄のヨイ子が、多いから。不良ってんじゃなくて、やたらに明るく元気に、あけっぴろげ、なんでアリマス。
かわいーもんよ♥」
という奔放な瑠奈と、
「あたくしは、母校清花女学院で高校古典の教鞭をとる傍ら、三十路の春より、生徒指導の仕事にも、情熱を捧げてまいりました。
清花女学院創設者であらせられます、故清原花太郎先生の理想でございました『高貴かつ聡明なる婦女子の育成』を、ふつつかながら継承し、具現化のための邁進を続けてまいりまして、早いもので13年めでございます。」
という山田とのコントラストは今読んでもすごい。
いや少女小説の準主人公によく42歳教師を持ってきたもんだな!?と素直に感嘆します。生真面目な山田をキュートに描ける技術があってこそ、なのでしょうか。
そして主人公の瑠奈も、なんやかんやでいい子です。欲望に忠実でわがまま放題ですが、人を貶めようという悪意なんかはないタイプ。入れ替わりを面白がりつつ、山田の境遇を知るとその心に寄り添い、純愛の成就に奔走します。読んでいてストレスがほぼない。
この辺、最近の作品でいう「オタクに優しいギャル」的なキャラに通じるものがあるかも…と思ったりもしました。
本当に、女性同士の人格入れ替わりものにおけるマスターピースでしたね、これは…。なんでこの作品を読んでから書かなかったのだろう、と10年越しでちょっと後悔しています。もうどうしようもないんですけども!!!
その他、気になった点をいろいろメモ。
・入れ替わりが起きる前の序盤は、リアル寄り女子校ものとしての側面が強いです。作者が女子校育ちだから書けるんでしょうね~。そのうえで入れ替わり後は学校を飛び出してもう舞台にならないの、潔さを感じます。
・フォントやサイズの大胆な変更とカタカナ表記の多用には、現在の一部の児童文庫っぽさがあります。やっぱりこのあたりの少女小説からの流れがあるんだなぁ。
・
次回はバーネット『秘密の花園』になります。
なんとか今年中にリストアップした作品全部読みたいですが…どうなるでしょうか。
がんばります、よろしくお願いします!!
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