ケストナー『ふたりのロッテ』
いろいろとあって遅くなり、月イチ更新が維持できませんでした! すいません!
今回はケストナー『ふたりのロッテ』です。2006年刊行の岩波少年文庫で読みました。
事前にあった知識は、
・ふたごの女の子の話ということはなんとなく知ってる。
・ミュージカルをテレビCMやポスターで見たことあるような…。
と、知識と言うのもはばかられる曖昧な記憶のみ。
調べると、テレビアニメ版もあったんですね。存在自体知りませんでしたよ…。
予備知識が皆無なおかげで、まっさらな気持ちで読むことができました。
ゼービュール村にある「子どもの家」という宿泊施設で夏休みを過ごしている9歳の女の子、ルイーゼ・パルフィー。彼女はオーストリアのウィーンから来ています。そこへ南ドイツのミュンヘンから新たに20人の少女たちがやってくるのですが、その中のひとりであるロッテ・ケルナーの姿を見てびっくり。自分とまったく瓜二つだったのです。
当初こそ険悪だったルイーゼとロッテですが、同じ部屋で過ごすうちにぐっと仲良くなり、お互いの生まれた場所と誕生日が同じであることを知ります。さらに、ルイーゼは父と暮らしているが母のことを知らず、ロッテは逆に母と暮らしながら父のことを知らない…。
導き出される答えはひとつ。ルイーゼとロッテはふたごで、幼いころに両親が離婚し、それぞれ父と母に引き取られていたのでした。その事実を知らされないままに。
そして、ルイーゼとロッテは決意します。夏休みが終わったとき、ルイーゼは「ロッテ」としてミュンヘンの母のもとへ、ロッテは「ルイーゼ」としてウィーンの父のもとへ帰ることを…。
いや~、面白かった! お手本のような構成だと思います。
「子どもの家」パートでギュッと読者の心をつかんで、そこからドキドキの冒険へルイーゼとロッテがそれぞれ旅立つ。悪戦苦闘しつつも新たな生活になじむ中で、父との結婚を狙うイレーネ・ゲルラッハの悪意の前に倒れてしまうロッテ。しかし「子どもの家」パートで出てきたあるアイテムがめぐりめぐって状況を打開するっていう…。
上手いですねー。さすがの名作です。
訳者あとがきにも書かれていたのですが、もとが映画のシナリオだった関係か、地の文章が現在形で書かれているのも特色ですね。
「ロッテは、びくっとして目をあげ、目の前の女の人の顔を見る。そして、乱暴な身ぶりで、いらない、とつたえる。そのとき、なんたること、ロッテの手が、小箱を手すりからはらい落としてしまう。一階席に、いっせいにチョコレートのにわか雨が降る。人びとが上を見上げる。」
ミュージカルが何度も上演されているのも、そこが関係しているのでしょうか。
それからニヤリとさせられたのは、地の文でケストナーがちょいちょい顔を出すことでした。
「尊敬するちいさな、そして大きな読者のみんな。このへんでそろそろ、ルイーゼとロッテの両親のことを、なによりもなぜふたりが何年かまえにわかれることになったのか、すこしばかり説明しなければならないのではないか、という気になってきた。気が重いんだけどね。」
「大男でもだれでもいいのだが、ときどきパルフィーさんのお尻をひっぱたいてくれる人がいないものだろうか」
今の児童文庫だと主人公の一人称が主流になっていて、こういうの書く機会ないなぁー! 一度はやってみたい気がします。
ルイーゼとロッテが入れ替わることを決意した理由は、それぞれがまだ見ぬ父と母に会いたいからかな…と読みながら当然のように考えていました。
が、それだけの話ではないと、すぐにわかります。
「なにもなかったふりをして、もといたところにもどるなんて、ぜったいにいやだった。あらかじめ自分たちの意見もきかずに、親たちがあてがった半分の世界で、いままでどおり暮らしつづけるなんて。そんなことは、ぜったいにいやだった。」
ふたごを半分こにしてしまった親たちへの怒りにも近い感情が、原動力になっているわけですね。最終的には両親はよりを戻して再度結婚し、みんなでいっしょに暮らすようになるのですが、戦って勝ちとったという印象です。ラスボスはロッテを追い出そうとするイレーネよりもむしろ、両親…どっちかといえば父親のパルフィーさん。生きることは戦いなのね…。
角川つばさ文庫的には、ふたごの入れ替わりとなると『ふたごチャレンジ!』が連想されますし、お互いの存在を知らなかったきょうだいが出会う点では『四つ子ぐらし』が想起されます。きっとそれ以外にも、『ふたりのロッテ』が直接的間接的に影響を与えた作品はたくさんあるのでしょう。
今回読んで、ケストナーの偉大さを思い知らされた気がします。ただ完成度が高すぎて、つっこみどころがないんですよね~! いや、良いことなんですけども。
次回は、花井愛子『山田ババアに花束を』を読みます。こちらも入れ替わりものになりますね。よろしくお願いします!
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