氷室冴子『クララ白書』

今回は『クララ白書』です。

集英社より1980年に発売されましたが、私が今回読んだのは2001年に加筆修正されて出版されたコバルト文庫新装版。1980年には書かれていなかった携帯電話やネットの描写が増えており、『聖子ちゃん』『マッチ』といったワードは削られているそうです。


氷室冴子の名前はもちろん知っていました。『なんて素敵にジャパネスク』『海がきこえる』の存在も知っていましたが未読、漫画やアニメでも触れていないという状態。

とはいえ少女小説の読書記録と銘打つからには、なにか氷室作品からひとつ読もうと思いました。その中で『クララ白書』を選んだのは、『大人だって読みたい!少女小説ガイド』の紹介文を読んで面白そう!と感じたからです。

女子校の寄宿舎が舞台というだけでも惹かれるのに、「少女小説にコメディを持ち込み、その後のコバルト文庫の路線を決定づけた意味でも歴史を変えた一作である」とまで書かれるとね。


そして、この作品を選んだ判断は正しかった。

本当に楽しく読めたからです! まったくと言っていいほど古さを感じませんでした。全2巻を夢中で読み終えてしまいましたよ。


札幌にある女子校の中等科3年・桂木しのぶ(通称しーの)は転勤する家族と離れ、ひとりで中等科の寄宿舎「クララ舎」に入ることになります。同じく3年から入舎した紺野蒔子&佐倉菊花としーのの三人に、伝統行事としてへんてこな課題が課されることになり…というのがお話の始まり。

そこから親友となった三人を中心に、濃いキャラをした上級生のお姉さま方やツンデレ下級生、ときに学外も巻き込んだ学園生活がにぎやかに描かれています。

しーのがけっこうひどい目に遭って泣いたり悩んだりもしますが、決してシリアスになりすぎず、徹頭徹尾コメディでしたね。意外性のあるエピソードもあって、日常系ミステリのように読むこともできると思います。


主人公が女子大の寮で生活する『あしながおじさん』の次に持ってきたのは、比較しやすいかな~と思ったからなのですが、それも大正解でした。



「私、今、怯えてます。便秘がたたって顔色が悪いの。で、看護係のシスター・マリアにどうやら目をつけられているみたいで、シスター・マリアの得意技は『快楽のいちじく浣腸』と『戦慄の直角注射』なの。どっちもおっかないけど、いちじく浣腸なんて死んでも嫌! 浣腸なんてものがこの世にあるなんて、おぞましい限りだわ。」



書簡体だった『あしながおじさん』が前フリとなって、『クララ白書』冒頭のしーのから姉への手紙でゲラゲラ笑ってしまいましたよ。


『クララ白書』は出だしこそ手紙で始まるものの、ほぼ全編しーのの一人称で話が進みます。

このしーのが、まさに主人公!と言うべきよくできたキャラクターだと思います。

謎のこだわりを多数持つ変な美人・蒔子(マッキー)、漫画家を目指す社長令嬢・菊花と比べると、そんなに取り柄が無い…

と思わせておいて、生徒会書記を務める優等生で、決して美少女ではないが童顔で上級生にかわいがられ、面倒見がいい性格から下級生には慕われ、大学生・光太郎とはときどきデートに出かける仲っていう…。

いっぽうで自己評価は高くなく、まっすぐすぎずひねくれすぎてもいない、友達思いという絶妙な塩梅だから、そりゃ読者も自己投影しちゃいますよ。理想的主人公だな~!


個人的に好きなのは、園田三巻みまきですね。しーのをこき使うし、きついことも言うけれど、公平な性格の生徒会長。寄宿舎以外のところでも、しーのの友人がしっかりと存在しているのが、いいんですよね~。


児童文庫の主流は女の子主人公の一人称で、私の『泣き虫スマッシュ!』もそうですが、『クララ白書』の頃からの少女小説の流れを引き継いでいるのだろう…と思いますね。

泣きスマは女の子ダブル主人公なので、『クララ白書』を参考にして女の子トリオをメインにしたお話もいつか書いてみたいです。

あ、でも中学生が大学生とデートしたり、お姉さま方がふつうに飲酒喫煙していたりするのは、今の児童文庫ではアレですわな…などと、時代性や読者層の違いも考えてしまうのでした。

高等科に進級したしーのたちを描いた続編『アグネス白書』も、いずれ読もうと思っています!


その他、細かいことをいろいろ。


・基本的に描写はそんなに細かくないのに、女子校の行事やしきたりのディティールはすごくて、こりゃ出身者じゃないと書けないな~と思いました。たぶん、取材してもこのレベルは無理でしょう。参考にしたいと書きつつ、お嬢様系の女子校を舞台にした話は厳しそう…と感じました。


・菊花はうどん屋のチェーン店「讃岐屋」の社長令嬢という設定。モデルになるようなうどん屋のチェーン店なんて1980年当時にあったんでしょうかね。うどん県民としては気になる!


・ツンデレ後輩(一応名前は伏せます)のしーのへの愛が重くないか…。wikiだと「崇拝者」とまで書いてます。ただ、本編はしーのの一人称であっさりと書かれており、しーのの方はそんなに意識してないのがわかります。そこは、もっとドロドロねっとりしたやつが欲しかったかも。


・『聖子ちゃん』『マッチ』などが出てくる1980年版も読んでみたい! 探してみましょうかね。



次回は、ケストナー『ふたりのロッテ』を読みます。よろしくお願いします!

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