ウェブスター『あしながおじさん』
今回は『あしながおじさん』です。
様々な出版社から刊行されていますが、講談社青い鳥文庫版を読みました。
私が『あしながおじさん』に関して知っていたことは、
・孤児の女の子が、「あしながおじさん」の援助を受けて大学に通う。
・最終的に「あしながおじさん」と結婚する。
・世界名作劇場で『私のあしながおじさん』としてテレビアニメ化されている。アニメは未見なのですが、オープニングテーマ曲である堀江美都子さんの『グローイング・アップ』はなぜか聴いたことがあります。名曲です!
この程度でした。
やっぱり、援助する男性と援助される女性が最後に結婚という流れは、現在の感覚ではどうなのかしら?と思わざるを得ません。実際に読んでみたら、その印象が変わるのかな~…と考えながら、手に取りました。
物語の主人公は、孤児院で育った18歳のジェル―シャ・アボット。
成績優秀であったため、退所年齢である16歳を過ぎても特例として孤児院で働きながら高校へ通うことを許されています。
しかし、これ以上孤児院にいるわけにもいかず将来に不安を抱いていたところ、評議員のひとり「ジョン・スミス氏」の援助で大学へ進学させてもらえることに。彼女の作文を読んで才能を感じ、作家になるための教育を施したいと言うのです。
寮費と学費に加え、毎月のお小遣いまで出してもらえるという破格の条件。そのかわり、毎月必ずスミス氏へ学業や日常について手紙を書かなければいけない。しかもスミス氏のほうは返事を一切書かない。そもそも「ジョン・スミス」は偽名で、ジェル―シャは彼の顔も本名も知らない…。
奇妙に感じつつも、ウキウキの大学生活が始まるのでした。
と、ここまでが序章「ゆううつな水曜日」。この章だけが三人称で書かれています。
このあとは、すべてジェル―シャからスミス氏への手紙で構成されています。いわゆる書簡体小説なんですね、『あしながおじさん』は。しかも往復書簡ではなくすべて一方通行の手紙という…。
拙作『泣き虫スマッシュ!』で手紙を挿入したことはあるものの、書簡体小説を読んだのは初めてで、新鮮な体験でした。予想以上に面白かった! 感覚としては一人称小説にかなり近いように思うのですが、やっぱり独特の味わいはありますよ。
ジュディ(ジェル―シャが大学入学後、自らそう名乗るようになるので以下ジュディとします)の書く文章が面白い、ひいてはジュディ自身が魅力的だからこそ面白いのでしょう。主人公って大切ですね、本当に…。
「おじさまは、とてもお年寄りですか、それとも少しだけ年を取っていらっしゃるのですか。それから、頭はすっかりはげていらっしゃるのでしょうか、それとも少しだけですか。」
「おじさまは、はげ頭ですか。」
なぜそこにこだわる!?
「スチーブンソンはこの本でたった30ポンドしかもらわなかったのだそうです。大作家になってもあまりお金がとれないんですね。わたくし、たぶん学校の先生になると思います。」
ハハハ(乾いた笑い)。
読む前は、なんとなくジュディはスミス氏に心酔しているようなイメージがありました。
ですが、けっこう反発したりお説教したりしていて、そこも微笑ましいです。援助されているからといって卑屈にならず、ユーモアも交えてチクチク攻めるところ、いいよね…。
いっぽうで、ジュディは特に序盤、孤児院育ちであることに大きな引け目を感じています。
「大学でつらいのは、勉強のときでなく、遊ぶ時間なのです。おじさま、わたくしはみんなの話していることはなんなのか、半分もわかりません。」
「自分のうちや、お友だちや、本にめぐまれている少女たちがしぜんに知っていることがらを、わたくしはぜんぜん知らないんです。」
「『若草物語』を知らないのは、学校じゅうでわたくしだけでした。」
う~ん、つらい。別に孤児院育ちではないけれど、周りとぜんぜんノリが合わない苦しさは、ほんのちょっとわかるような…。
とはいえジュディは本を読み勉強し文章を書き友人を作り、それまでの人生を取り戻すかのように青春を謳歌します。それでも最後の最後で孤児院育ちであることのコンプレックスが顔を出すことになりますが…それはお読みいただければ。
このように、不遇な人生にめげず明るい努力家でユーモアがあり文章が上手いジュディは、とても魅力的です。
正直、スミス氏が手紙だけでジュディを好きになる気持ちはわかります。先に書いてしまいますが、ジュディとスミス氏は14歳差。14歳差か~微妙~…。
まあ大学卒業時のジュディは大人だし、ロリコンではないか~…別にええんちゃうかな~という気にもなります。
そこまではいいとして、スミス氏の行動が…ちょっと…。
大学に入って八か月後、ジュディはジャービス・ペンデルトンという男性と知り合います。クラスメートである名家のお嬢様・ジュリアの叔父にあたる人物で、変わり者のお坊ちゃんといった雰囲気の持ち主。ジュディは少しずつジャービスにひかれていきます。
思いっきりネタバレしますと、このジャービスが、スミス氏です。
自分がスミス氏であることを隠したままで、姪にかこつけてジュディの様子を見に来るわけですね~。その後も、なんやかんやと財力をフル活用しジュディとの距離を詰めていきます。
そしてジュディが同じくクラスメートであるサリーの兄・ジミーと接近しそうになると、「スミス氏」の立場でも「ジャービス」の立場でも必死に妨害したり…。
そもそも姪のジュリアと同じ大学へジュディを進学させたことも、自然に「ジャービス」としてジュディへ近付くことができるようにするためですよね。
ええ~…率直に言って気持ち悪いし、ずるい…。
『からくりサーカス』の白金っぽさすら感じるというか…。決して悪い人間ではないということは、わかるのですが。
援助なら卒業までは援助だけに徹する、好意を抑えられないならもっと早い段階で全部ジュディに打ち明ける、という人間のほうが私は好きかな~。
お話としてはすごく面白いことも、ふたりが結ばれる結末をロマンチック!と感じるのもわかるのですけれど、な~んかもやもやする~!
ジュディがとてもいいキャラクターなだけに、その相手がこいつか…そりゃ恩人ではあるけどさ~という思いが、どうしてもありますね…。
あ、こいつって言っちゃった。
私がこうして少女小説を読むきっかけとなった斎藤美奈子『挑発する少女小説』では、
「ジャーヴィスの側から見ると、これは金持ちの道楽息子が小娘に翻弄される物語です。」
「ああ、そうですか。孤児であろうが女子大を出ようが、女の幸せは結局、結婚ってことですか。」
「物語はここで終わります。バカ丸出しです。恋する乙女は平常心を欠いているので、こういうパッパラパーな手紙になるわけですが」
と、『あしながおじさん』をすごい勢いでぶった切っていて笑ってしまうので、そちらもお読みいただくことをオススメいたします。
そして、アニメ『私のあしながおじさん』を見たくなってきましたよ。
書簡体の小説をよくもまあ、全40話のアニメにしたな~と感心します。脚本の方、相当苦労したのではないでしょうか。
ウィキペディアを見ると、視聴者層の年齢と合わせるためにジュディの年齢を引き下げ、舞台を大学から高校に変更したそうです。…ジャービスだいじょうぶ!? 余計にまずいことになってない!?
次回は氷室冴子『クララ白書』を読む予定です。よろしくお願いします!
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