山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』

今回は一迅社文庫アイリスから刊行されている『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』、通称『はめふら』を読んでまいります。


もはや一大ジャンルとして定着した悪役令嬢ものの代表作であり、2020年に放送されたテレビアニメも大ヒット!というところまでは私も事前に知識がありました。ただアニメは未見です。


そして本作で題材となっている乙女ゲームについては、ちょびっとだけかじっている感じです。舞台こそファンタジー世界でなく現代日本ですが『金色のコルダ3』はクリアしましたよ! あとアトリエシリーズで最も乙女ゲー色が濃いと言われている『リリーのアトリエ』はハマりましたね。新人時代の下野紘さんの初々しい声で「姉さん」なんて呼ばれたら、それはもう、それはもう…すいません取り乱しました。

いっぽうで悪役令嬢ものは、小説はまったく未読ですが漫画は上山道郎先生の『悪役令嬢転生おじさん』を愛読しております。こちらは50代オタクおじさんが乙女ゲームの悪役令嬢に転生するお話で、『はめふら』とはまた違った面白さがありオススメですよ。


さあ、はめふら読むぞー。

そもそも本作に限らず『小説家になろう』発の転生もの自体、小説でも漫画でもアニメでもあまり触れてきてないんですよね。出だしはどんな展開なのか…ほうほう、主人公はゲーム好きの女子高生だったのか…って1ページ目でもう死んだ~っ! 潔いな!


公爵家の一人娘として生まれたカタリナが8歳のときに前世の記憶を思い出し、現在自らが生きている世界が前世でプレイしていた乙女ゲームであると自覚するところからお話が始まります。

ゲームではカタリナは悪役であり、どんなルートでも死んだり国外追放されたりと破滅するシナリオばかり。悲惨な結末を回避しようと行動した結果、キャラクターたちにこぞって好意を向けられまくるがカタリナは超鈍感ゆえに気付かない。ゲームのシナリオからは抜け出したように思えるが、はたして…?という流れです。


本当は1巻だけ読んで感想書くつもりでしたが、乙女ゲームの内容本編に入るところで終わってしまったので、否応なく2巻も続けて読みました。(ちなみに2巻で物語は一段落します)

2巻分となるとそれなりの文章量になったのですが、読みやすい! 読み進めるのが苦にならない圧倒的リーダビリティ!


描写が少な目で文章が簡潔ということもあるのでしょうが、素朴で天然で行動力にあふれるカタリナの一人称で進むお話にひっかかりを覚えない、ということも要因でしょう。

気が弱かったり悩みがちだったりする主人公にも良さがあるのですが、カラッとした子を主人公に据えたときの推進力はやっぱり強いな~と感じます。


それにしてもカタリナの鈍感さは、だいじょうぶ!?と心配になるレベル。



「『本当に、どうしたら伝わるのでしょうね。これはもう先に既成事実でも作ってしまった方が早いかもしれませんね』

『?』

ジオルドが一体、何を言いたいのかわからない。

きせいじじつとはなんぞや?」



「あれ? なんかがっちり押さえられていて腕の中から抜け出ることができない。

『あの? ジオルド様?』

なぜか、私にしっかり抱きついた形になっているジオルド。

もしかして……気づかないうちに足を思いっきり踏んでしまったとか! それで痛くて動けないとか! やばい! あんなに気をつけなきゃと思っていたのに……。」



本当にだいじょうぶ!? カタリナ本人が言っているように17歳+15歳で精神年齢32歳では??? 児童文庫だと小学生が主人公でも、もうちょっとドキドキラブラブな展開になりますけど???


カタリナはキャラクターたちを次々と無自覚にたらしこんで行きます。読む前は男性キャラだけだと思っていたのですが、本来の乙女ゲーム主人公であるマリアをはじめ複数の女性キャラもカタリナの虜です。

しかし鈍感なカタリナは自分に向けられる好意に気付きません。ここまで来るとイラっとしてしまう読者さんもいるのでは…と気になってしまいます。私の作品でも、鈍感気味の子が主役なこともありますし。一種のギャグでもあるだろうとは思うんですけども。

ただそこはまあ、ゲームの世界の話だからオッケーなのかな。現代もので、これだけ多くから好意を向けられながら主人公が気付かない、となればさすがにリアリティの面でも厳しそう…。主人公とストーリー展開と舞台設定は一体として考えるべきものなんでしょうね、やっぱり。


本当にカタリナの魅力=作品の魅力であり、登場キャラクターたちのようにカタリナを愛することができればめちゃくちゃ楽しめる作品だと思います。そしてシリーズ累計500万部を超えるヒットということは、カタリナが受け入れられているんですよね。

『赤毛のアン』の次に『はめふら』を持ってきたのは完全にたまたまなんですが、はつらつ愛され系主人公の作品を続けて読むことができて良かったです。主人公の造形って大事ね~と改めて肝に銘じました!


以下、細かいことをいくつか。


・男性キャラの中だと、義弟のキースが一番好きかな~。でも婚約者のジオルドがカタリナに迫るのを必死にキースが止める、という流れが楽しいので、ジオルドがいてこそ…という気もします。


・マリアよりもソフィアよりも、メアリにガチを感じますよ私は。


・脳内カタリナ会議はかわいい。2巻まで読んだ後にアニメのОP映像を見たらたくさんのちびカタリナがいましたので、きっと動く姿がとてもかわいく楽しいものになっているのでしょう。…でも『火ノ丸相撲』を読んでいるせいで、どうしても刃皇会議が頭にちらついてしまうんですよ!!!


・はめふらアニメ、見ようかどうしようか…と思ったら12月には劇場版アニメ公開!? どうしましょうかね。


次は、ウェブスター『あしながおじさん』を読みます! よろしくお願いします。

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