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思ったよりも悪い気がしなかった飲み会は、さっきまで私の隣に座っていた第2営業部の男性によって締められた。
ガヤガヤと全員が帰る支度をする中、私は小さな溜め息を吐き、鞄を持ちゆっくりと立ち上がる。
「花崎さん、帰りどっちですか?
俺、送ります!」
隣に座っていた男性が締めの挨拶から戻ってきて、私に声を掛けた。
その時・・・
少しだけ香るタバコの匂いがした・・・。
「花崎さん、この資料・・・少し説明してもらえますか?」
虫1匹も殺せないような顔で、結城部長は私に話し掛けた。
資料の説明を少ししている間に、他の人達は次々と個室を出ていった。
最後になり、結城部長の後をついて私も個室を出る。
先に革靴を履いた結城部長が、少しひざまずき・・・
私の足元に、ピンヒールを置く・・・
「どうぞ。」
そう言って、私を見上げた。
私は、結城部長に見られながら、ゆっくりと、ピンヒールを履いていく・・・。
「僕が、家まで送りましょうか?」
ひざまずきながら私に聞いてくる。
ピンヒールを両足に履き、私は無理矢理深呼吸をする。
「失礼致します。」
深くお辞儀をし、ひざまずいたまま動かない結城部長を置き去りにし、居酒屋を出た。
夜の道をピンヒールで歩き、一人暮らしの部屋に帰る。
私の満たされない何かが、煩いくらいに主張してくるのを、ピンヒールの音で聞こえないようにする・・・。
早く、帰りたかった。
私の城へ・・・。
とても、とても、疲れたから・・・。
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