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「・・・あ、麻美さま。」




フロアに私のピンヒールの音を少し響かせながら、そのヒソヒソと聞こえる声を無視していく。




昨日残業をして作成した資料が岸部長のチェックを通り、私が直接副社長に提出することとなった。




階段で1階上の副社長室に向かい、大きな扉をノックする。




少し経ってから扉が開き、顔見知りになっている秘書の男性が現れた。




「花崎(はなさき)さん、お疲れ様です。」




「お疲れ様です。藤岡副社長に資料をお持ち致しました。」




「ありがとうございます。

副社長ですが、少し席を外しておりますので、私から渡しておきます。」




お礼を伝え、副社長室を後にする。




少しだけピンヒールを履く足に違和感を覚えながらも、私は階段を降りていく。




数段だけ降りた時、9階と10階の踊り場から人が現れたことに気付き・・・





あ、と思った時にはもう手遅れで・・・





私の身体が・・・





ゆっくりと・・・






落ちた・・・。





強い衝撃の代わりに、少しだけ香るタバコの匂いがした。





そして・・・





私の下には・・・






「結城(ゆうき)・・・部長・・・」






第2営業部の結城部長を下敷きにし、私は結城部長の上に跨がっていた・・・。






結城部長が、少しだけズレた眼鏡を直す。






「大丈夫ですか?」






虫1匹も殺せないような顔で笑う結城部長が、優しく私に聞いてきた。






その後に・・・少しだけ、視線を移していくのに気付き、私も結城部長の視線を追う・・・





結城部長の上に跨がる、私の高級なスーツのスカートは捲れ上がり・・・





足を全て晒し・・・





黒のガーターベルト、そして、黒の下着・・・






それが、結城部長の・・・ソコの上に・・・






「・・・っっ・・・」






結城部長の固くなったソコに、出てしまいそうになった声を耐えた・・・。






私はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりとスカートを直していく。






「大変失礼致しました。」





深くお辞儀をしてそれだけ言い、上半身だけ起こしている結城部長を置き去りにし、歩き始める。



フロアの床に、少しだけピンヒールの音が響く。



規則正しいその音が、わたしを冷静にしていく。



少しだけ、何度か深呼吸をする。



満たされないはずの私の何かが、少しだけ満たされてしまったことに気付きながら・・・。

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