第2話 兆し

「ンッ!グッ!ふグンん…ハァ…ハァ…」


 荒い息が狭い浴室に響く、麻酔なしで左手の小指を切り落としたのだ、当然であろう。


 絶叫を防ぐ為に丸めた手拭いを咥え、返り血の処理を楽にする為に服を脱ぎ洗い流せる浴室にて行った計画的な凶行だ。


 体力の消耗も激しく、手拭いを吐き出した口の端からは涎も垂れている。


「ハァ…ハァ…次の…段階へ…」


 未だ痛みで痙攣している左手を使うのは無理だと判断して、左脇で挟んだ円筒形の容器の蓋を右手で開ける。


 中の液体が零れるが気にしない、を切り落とした小指の有った位置の断面に正確に当てて唱える。


「【回復魔法:完全回復】」


 断面から光が発せられて綺麗に接合し、痛みが引いていく。


「あぁ、実験は成功だ…魔素…が漲る…」


 この日私は自らの変態の兆しに歓喜した


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 事の始まりは三日前、授かった力を行使した際に意識を失ってしまった事について考察していた時、私は自分が倒れた理由に仮説を立てた。


仮説1:貧血や肉体的および精神的疲労、これが一番現実的だ。

仮説2:ファンタジー御用達の魔力これの急激な減少によるショック症状、立ちくらみやら貧血みたいなものだ、枯渇すれば死亡する場合はこちらだ。

仮説3:こちらも先程と同じく魔力だが、これの完全な枯渇の場合、このパターンは死の危険はなくなる。

仮説4:魔力はなく生命力的な物を使って現象を起こしている場合、これも体の防衛反応の一種で一時的に意識を落とす事で脳の消費エネルギーを低下させ、回復するまで昏睡状態に陥ったのではないかということ。


 実際に試してみなければ分からないことが多いので少しずつ実験することにした。


 まず魔力、これがあるかないかで方針が変わってくるし有れば最低で2個の仮説が潰せる。


 しかしながら魔力の感知だけでは、魔力以外で魔法を使っていた場合1行程分の無駄が出る、結局どちらでも工程数は変わらないが、無駄というものがあまり好きではない彼は【魔力】という括りではなく【魔法を使うのに必要な原動力】の感知、これを視覚情報に落とし込むことを考え新たな魔法を創り出した。


「【魔法創造:魔法[可視化魔法]】【可視化魔法:魔法原動力可視化】おおう、これが魔法のもとですか、うん、何も見えませんね、正確にはしか見えませんね、目を使って観測するんだから目にが集まって視界を塞ぐのなんて考慮して当然でしょうに、しくったわぁ。」


 しかしながら収穫が2つ、魔素は青色の粒子に見えることと、昨日よりは体から何かが抜けていく感覚が明らかに小さかったことだ。


「昨日のように大きい結果を引き起こすと消費が激しいと仮説を立てればあと一つくらい、いやいや仮説は仮説でしかないわけですし、昨日のがキャパオーバーで何かしらの発動が不十分であった場合また気絶の危険性が、しかしさっきより楽になってきているのを考えれば回復は思いの外早いのでは?」


 私は無駄を嫌うが好奇心が強く、反省は後ですればいいと思っている人種だ。


「【可視化魔法:魔法原動力可視化[解除]】【魔法創造:魔法[付与魔法]】


【付与魔法:可視化魔法[魔法原動力可視化]

対象:スマートフォン[カメラレンズ内]】


こいこいこい!よし、いけた!」


 レンズ内に付与することで、レンズの外に粒子が集まらないようにし、通過する際に実像化されるようになった。


 タイマー機能を使いなるべく全身が写るようにスマートフォンのカメラで自分を撮る。


 なかなか全身を写すのが難しく30分くらいかかってしまった。


 その甲斐あって心臓の部分だけに青白い魔法原動力が確認できた、全身にも有るようだがほんの少しだけで目を凝らさねば分からない程だ。


「魔法原動力の存在は確定、後はこれの分類をどう決定するかだ、これはやっぱり生命力だった場合命を奪うことになるから他の生き物より忌避感の少ない虫かなぁ、【魔法創造:魔法[吸収魔法]】ぁっ……」


 お約束のブラックアウトだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ゴブリンは馬鹿だが間抜けではない、だがこの主人公は馬鹿ではないが間抜けだ。


                 by作者

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る