第1話 覚醒させたらいけない奴の覚醒

 特に何でもない一日、華の金曜日の黄昏時たそがれどき、大体の人はそう認識しているだろう、ただ、彼から見ると【世界が産声をあげた】日だ。


 唐突に、そう、本当に唐突にその男は寵愛を受けた、世界の巨大な、多大な、莫大な、膨大な、そして偉大な寵愛を受けた。


(ユニークスキル魔法創造を取得しました。)


「あはぁ」


 直前まで死んだような顔をして作業用のデスクに向かって、文章を書いていた男は恍惚の表情を浮かべて滂沱の涙を流した。


「あっ、あぁ、ああああぁぁぁあぁぁあ!!?」


 かと思うと彼は自らの頭を目の前の作業用のデスクに物凄い勢いで叩き付けはじめた。


「これ!」(ゴン!)


「程の!」(ガン!)


「寵!」(ガン!)


「愛を!」(ドス!)


「受け!」(ドン!)


「ながら!」(ガン!)


「この!」(ゴン!)


「ように!」(ドッ!)


「矮小な!」(ゴッ!)


「愛しか!」(ゴリッ!)


「返せぬ!」(ガス!)


「下等!」(バキ!)


「生物を!」(グシャ!)


「お許し!」(ドチュ!)


「下さい!!!」(グチャ!)


「ぁぁあ?あぁ!どのように!どのようにこの愛を示せば良いのかも分からぬ愚物に!閃きを!」


 既に血塗れで所々骨折により陥没している頭をガリガリと掻き毟ったかと思えば、抉り取った頭皮と毛髪を爪の隙間に詰まらせたまま、仰け反りながら舞台役者の如く両腕をひろげ天を仰ぎ叫ぶ、純度100%混じりっ気無しのヤベー奴である。


 しかし、いくらヤベー奴であっても、所詮は人間、脳震盪、頭蓋骨骨折、毛細血管の破裂etc…


 当然ながら興奮により半ば椅子から立ち上がっていた彼は当然ながら椅子ごと横倒しにぶっ倒れて、倒れた彼の視界に姿見が入る。


「ああはぁぁ」(ニチャア)


 彼の視界には姿見の中に倒れ伏す血塗れの自身が映り脳裏には血化粧という言葉が過る。

そう、化粧だ、人類の文化だ、世界を自分好みにメイクアップするのだ。


「貴方をもっと輝かせる方法を考え続ける、それが私の愛の表し方!そう言いたいのですね!」


 叫ぶとくらりと視界が揺れ、たたらを踏む。


「ああ、脆弱でいけない、人間のままではいつ死んでしまうことか、貴方への愛を表現しきれずに中途半端にしてしまうことは冒涜に他ならない!まずは人間卒業が最初のお仕事です!その前に【魔法創造:魔法[回復魔法][修復魔法]】からの【回復魔法:完全回復】【修復魔法:クリーン、リペア】……はへ?」


 部屋と自身の体の修復が終わり、さあ次をと気合いを入れ直していると、体の熱が奪われていくような感覚と共に体に力が入らなくなる。


「おのれ人類…」


 この時点での彼は知らないが、急激な体の修復による体力の消耗と魔法の乱用による魔力の枯渇により、彼は自身が人類であることへの呪いを吐きながら意識を暗闇へと落とした。


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