第四話 呪詛箱

「箱を運んで欲しいんだ」

 珍しくイスルギから直接連絡が来て事務所に向かうと、開口一番そんなことを言われた。

 今度は何をやらされるのかと警戒しながら応接ソファーで身構えていた僕は面食らう。

 思わず「え? 何をするんですか?」と聞き返すと、彼は一枚の紙をガラステーブルごしに差し出してきた。

 A四サイズのコピー用紙だった。住宅地図が印刷されている。

「その地図に記された道を、箱を持って歩くだけ。それが今回の仕事だ。簡単だろう?」

 僕は警戒を強めた。

 簡単なに言っているだけだとわかっていた。言いたくない、もしくは詳細が言えない部分を省いたゆえの簡潔さなのである。

 僕はコピー用紙を受け取った。地図に赤線で記された道順は、いびつな四角形に見えた。それぞれの角に一から四の番号がふってある。

「五人がかりで箱を運んでもらう。箱の受け渡し場所はこの番号の振ってある地点だ。君はあらかじめこの三番の場所に居て、箱を受け取ったら四番の場所に向かい、次の運び手に箱を渡してそのまま待機してくれたまえ。そうやって箱を受け渡ししながら三番、四番、一番、二番と移動し、最終的に三番の場所で待っている相手に箱を手渡したら君の仕事は終わりだ」

「つまり五人で交代しながら、この赤線上のルートをぐるぐると回って箱を運び、元の場所に戻ったら終了ってことですか?」

 その通りだ、とイスルギはソファーにどっかりと寄りかかった。もう用事は済んだとばかりの態度である。

 それだけで済むはずがない。僕はイスルギを見据えた。

「箱には何が入ってるんですか?」

「君が知る必要はないよ」

 そっけなく言う。――怪しすぎるにもほどがある。

「今回、測定装置はないんですか?」

「箱と一緒に受け取ることになっている。測定装置をつけてから次の地点に向かうようにしてくれたまえ。ああそれと」

 イスルギはジャケットの内ポケットから茶封筒を出してガラステーブルに乗せた。

「三番の場所はアパートの一室だ。これを渡しておく」

 僕は茶封筒を手に取る。傾けると、鍵がすべり出てきた。安っぽいプラスチックのストラップには一〇三号室と記されている。

 以上だ、とイスルギは言った。

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