*


 やがてがたがたと引き戸が開けられ、佐々木がお堂に入ってきた。

 寄りそう僕たちを見るなり、心底ほっとしたように表情を緩め、かかえこむように抱きしめてくれた。汗と涙でぐしゃくしゃで、ひどい臭いもしていただろうに。

「よく頑張ったな」

 焚きしめたお香の清浄な香りに、僕は安堵のあまり気を失いそうになった。茜もほうけたように佐々木に身を預けている。

 佐々木の後ろから飯田がそっと顔を覗かせた。

「ついさっき連絡が来てね。君たちの友達――中野くんと国生さん、正気を取り戻したそうだよ。イスルギさんが、君たちに伝えてくれって」

 僕は呆然と飯田を見つめた。たちまち、喉から熱いものが込み上る。

 その時、横で茜が緊張の糸が切れたように声を上げて泣き出した。

 あの鋼メンタルの茜が子供のように泣くさまに、僕は驚きのあまり涙が引っ込んでしまった。

 佐々木はすっと厳しい顔に戻ると、立ち上がった。

「君たちにはもう少し頑張ってもらわなけりゃならん。奴が戻る前にを済ませねばならんからな。その前にご飯を食べて、湯に浸かって身を清めるといい」

 お風呂、沸かしてあるからと飯田が微笑んだ。

 僕と茜は言葉も出ず、頭を下げた。そこでやっと、心の底から安堵したのだった。

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