*


 住宅地を抜けると、車窓から見える風景は緑が多くなっていった。

 やがてビニールハウスの並ぶ畑が見えてきて、それも通り過ぎると、ミニバンは山に向かって進んでいった。

 草茫々の砂利道に入り、しばし走ったところでようやく車は止まった。

 傾きかけた掘っ立て小屋の前に黒のワンボックスカーが停まっていて、近くに女の子が二人立っている。

 彼女らが□□女子大のアルバイトなのだろう。なんだか対照的な二人だった。

 一人は髪を明るい栗色に染め、服も派手――というか華やかだった。レトロな小花柄のワンピースにデニムジャケット、足元は真っ赤なローヒールパンプス。鬱蒼とした周囲の風景からものすごく浮いている。

 もう一人は対照的に陰気な雰囲気を醸しだしていた。顎下でばっさりと切り揃えた真っ黒なおかっぱに、重たげな前髪が眼鏡の上半分を隠している。服装はグレーのパーカーにベージュのコットンパンツ、スニーカーという実用重視の恰好だった。隣に立つ派手な女子と並ぶと野暮ったさが際立った。――Tシャツにスニーカー姿の自分に言われたくはないだろうだが。

 ちなみに中野もTシャツにジーンズという僕と似たり寄ったりのいでだちだった。まあ奴の恰好などどうでもいいのだが。

 ミニバンを降りた僕たちに、派手なほうの子が愛想よく声を掛けてきた。

国生こくしょう瑠菜るなでーす」

 にこっと笑いながらゆるく巻いた髪を揺らし、「はじめましてぇ」と舌ったらずな口調で言った。

 ――眩しい。今までの人生の中であまりに縁遠いタイプの女子で、僕はそっと目をそらす。

 一方で中野は、「瑠菜ちゃんかぁ」とだらしなく顔を弛緩させた。

 中野と僕も自己紹介をし、最後に眼鏡の女子が「日下部くさかべあかねです」と伏し目がちにぼつりと名乗った。

「この子、愛想悪くてごめんねぇ」

 瑠奈が小首を傾げて両手を合わせてみせた。

 仕草のいちいちが可愛らしい。自分が相手にどう見えるかよくわかっているのだ。実際、中野は鼻の下を伸ばしっぱなしである。

 一方で――茜は下を向いたままだった。

「自己紹介は済んだかな」

 イスルギは僕たち四人を興味深そうに眺めながら言った。

「では仕事内容の説明をしようか。今から君たちにやってもらうのは、だ」

 中野はぽかんとする。

 女子二人は特に動じた様子もなく、イスルギの話を聞いていた。事前に内容を聞かされていたようだった。

「この道を行った先にもう使われていない古い別荘がある。肝試しと言うくらいだから予測がつくと思うが、そこは心霊スポットだ。その別荘に入り、二階まで行って戻ってくる。以上が君たちの仕事だ」

「……それだけですか?」

 中野が呆気にとられたように尋ねた。

「ああそうだ。ただ条件があって――これをつけてもらう」

 出たよ――イスルギが内ポケットから取り出した測定装置に、僕はたちまち警戒する。

「まあ、アップルウォッチみたいなものだ。君たちの位置情報を正確に記録する。だからごまかしは効かないよ。しっかりやってくれたまえ」

 記録するのは位置情報だけじゃないだろう――僕はイスルギを見据えた。

 イスルギはチラと僕を見返すと、薄く笑った。

「――では行きたまえ」

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