第10話
(それってもしかして僕が原因なのではなかろうか?)
内心冷や汗を流しつつ彼女達の様子を伺ってみるとどうやらはぐらかすことに成功したらしくホッと胸を撫で下ろした。
「あっ!いけない!!そろそろ戻らないと怒られちゃうかしらね」
「そうなのかい?じゃあまた機会があればお話ししようじゃないか」
「そうね。是非とも楽しみにしているわね」
そして彼女と別れた後テントに戻るとそこでは相変わらず賑やかな宴会が行われていたのだが、何故か全員酔いつぶれてしまっていたので仕方ないので毛布をかけてあげてから眠りについたのであった。
翌日になり目を覚ました僕は昨日の事を思い出して頭を抱え込んでいた。というのも現在進行形で僕の膝の上で眠っている少女がいるからだ。
ちなみにその少女というのは言うまでもなくリリアーナのことであり何故このような状況になってしまったのかといえば話は数時間前に遡ることになる。
***
目が醒めると見慣れぬ天井が広がっていたので一瞬自分がどこにいるのか分からなかったのだがある事を思い出した事で納得すると同時に深い溜息が溢れ出てきた。
「あぁ〜やっぱり夢オチとかではなかったんだな」
どうせならこのまま目覚めなければ良かったと思ってしまったがそんな都合の良い事があるはずもないと諦める事にしたその時である。突然扉が開かれそこから入ってきたのはなんと全裸の少女だった為思わず目を奪われてしまったものの慌てて顔を背けた。
するとそんな反応を見て勘違いさせてしまったと思ったのか慌てる様子を見せたのである。
「ごめんなさい私ったらうっかりして着替えを忘れていました。すぐに用意しますので待っていてください!!」
そして数分後に戻ってきた彼女に案内された場所は風呂場でありそこでようやく事情を理解したのである。なんでもここ数日まともに体を洗っていなかったようなので一緒に入ろうと誘われたので仕方なく付き合う事になった。
その後お互い背中を流すという名目で色々触れ合ったりした結果今に至るというわけだ。
それからしばらくした後朝食の準備が出来たという知らせを受けて向かった先で待っていたのは意外にも普通の料理だったので少し拍子抜けしてしまった。だが食べてみるとこれがとても美味しかった為に僕はすっかり気に入ってしまい気がつけば完食していたくらいであった。
「ふぅー満足したな」
(こんなに食事を楽しんだのはいつぶりだろう)
これまではコンビニ弁当ばかりでろくな食事をしていなかった事を思い出していると、不意に声をかけられた。
「あの~すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」
「どうかしましたか?」
声の主の方へと視線を向けるとその人物は先程自己紹介をしてくれたアランチャナさんであった。
「実は折り入ってお願いしたいことがあるのですけども聞いて貰えないかしら?」
「お願いですか?一体どんな内容ですか?」
「それはですね……私達の修行をつけて欲しいんです!!」…………
「はいぃ!?」……というわけで現在に至る。正直なところ断りたかったが、ここで断るよりもいっそこの子達に実力を見せつけて黙らせた方が早いと判断して引き受けることにしたわけなのだが、流石に四天王と呼ばれるだけはあるようで皆かなりの実力者揃いであった。
まず最初に相手をしたのは炎の女王と呼ばれているサラマンダーことフレイア・スカーレットという人物だったのだが、彼女は見た目とは裏腹にかなり好戦的な性格の持ち主みたいだった。しかもそれが戦闘狂と言っても良いレベルだったので終始テンションが上がりっぱなしで中々大変な相手だった。(まぁそれでもなんとか倒す事が出来たんだけどさ)
次に相手の番になったのは氷の女帝とも呼ばれている女性にして魔族四天王の一人でもあるララスナ・ロトネだった。彼女は僕との戦いの前にアランチャナと戦ったらしくその結果を聞いた瞬間彼女の表情から笑みが完全に消え去り怒りに満ちた形相へと変貌したのである。
その理由というのが彼女が最後に放った一撃が原因で勝負が決まったからである。それはなんと魔法によるものではなく素手での攻撃によるものだというのだから驚きを通り越して呆れ果てるしかなかった。
とはいえそんな事をされてしまえばいくら魔王の娘でも無事では済まないはずだと思っていたのだがどういう訳なのか彼女には傷一つなく平然と立っていたのでこれには本当に驚かされてしまった。
しかもそれだけに留まらずその後も攻撃を繰り出してくるものだから堪ったものじゃないと思いつつもどうにか対処し続けているうちに体力の限界を迎えたのかとうとう倒れ込んでしまった為慌てて駆け寄ろうとしたら彼女によって止められてしまいそのまま気絶させられてしまう事となったのである。
こうして二人目の相手が決まってしまうと次はいよいよ三人目との対決となるはずだったのだけれども肝心の人物がまだ現れていないようであったのでひと休憩入れる事にした。
ちなみにここまでの戦いでわかった事があったのでそれを確認していると背後からの気配を感じて振り返るとそこには予想通りの人物がいたのだが、どうやら向こうはまだ戦うつもりは無いらしく大人しく隣に座ってきた。
その為こちらからも話しかけてみることにする。
「ねぇガリリアーナちゃん?」
すると名前を呼ばれた事で驚いたのかビクッとして恐る恐るという感じではあったが返事をしてきたのでそれに安堵しつつ質問を投げかけてみた。
「どうして君はここにいるのかな?確か君のお父さんってこの国の王様なんだよね?それなのになんでお城から抜け出したりなんかしたの?」
そう尋ねるとガリリアーナはその問いかけに対して俯きながら答えてきたのである。
「だって……寂しかったんだもん……」
その言葉を聞いて思わず戸惑ってしまった。まさかそんな理由だと思わなかったからだ。だがすぐに思い直すと優しく語りかけた。
「そっか……じゃあこれからはこのおじさんと一緒に遊ぼうか?」
「えっ本当!!やったぁ!!」
どうやら喜んでくれたみたいなのでホッとしているとようやく最後の対戦相手が現れたようだ。
「待たせたわね!!」……うん何かもう凄く嫌な予感しかしないんだよな そんな風に考えつつ覚悟を決めるとその人物が口を開いたのである。
「よくぞ我が前に姿を現したな勇者よ。だが貴様の命運もこれにて尽きたというわけだ!!」…………はい?何言ってんのこいつ あまりの衝撃的な発言に思わず唖然となってしまったもののすぐに正気に戻ると慌ててツッコミを入れた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!誰が勇者だよ!!」
だが僕の言葉を全く気にせず話を続けたのである。
「ふふふ良いだろう教えてくれようではないか。何故ならば我こそが世界を救う希望の光そのものなのだからな!!!」……駄目だ完全に話が通じないしそもそも会話する気がないらしい。
(仕方が無いこうなった以上は実力行使しかないな)
そして僕は武器を構えるとその人物に向かって走り出したのであった。
だが次の瞬間信じられないことが起こったのである。
なんと目の前にいたはずの人物は突然消えたと思うとその数秒後にいつの間にか後ろに回り込んでいたのだ。更にその直後腹部に強烈な痛みを感じたと思ったら今度は背中にも同じような激痛に襲われた為に堪らず膝をついてしまった。
「ぐぅう……一体何を……?」
「ふむ、まだ意識があるとは大したものじゃないか」
感心しながら喋っている姿を見て一瞬だけ違和感を覚えたが今はそれよりもこの状況を打破することの方が先決だと思い直し立ち上がった。
「へぇ~なかなかやるじゃん。ならこれはどうかな?」
不敵な笑みを浮かべたかと思うと両手を前に突き出すとそこから激しい業火が放たれたのである。
咄嵯に防御しようとしたがその時には既に遅くまともに受けてしまい全身に炎を浴びてしまっていた。
それにより皮膚の表面が激しく焼け焦げていく感覚に襲われながらも必死に耐えていたのだがそれも長く続かず遂に限界が訪れてしまいその場に倒れ伏してしまったのだった。
それからどれくらい経っただろうか?誰かの声を聞き目を覚ますと見覚えのある天井が広がっていた。
「ここは……医務室か」
上半身を起こすと体のあちこちを見て回ったのだが特に異常はなく寧ろ前よりも調子が良いように感じるほどだった。
そこで改めて自分の体の変化について考えてみることにしたのである。まず間違いなくあの時受けたダメージは完全に回復してしまっているのは間違いなかった。
そうなってくると考えられる事はただ一つだった。つまり今の僕には以前のような力は残っていないという事になる。
その事実に気付き愕然としながらも同時に納得もしていた。
恐らくではあるが今の状態で四天王達と戦っていたとしても結果は変わらなかったであろう事を理解出来てしまうからである。だからこそ悔しかったのだ。こんな所で終わってしまう事が……。
だけどいつまでも落ち込んでいる訳にはいかないと考え直して気持ちを持ち直すとベッドから降りようとしたその時扉が開かれ中に入ってきた人物を見ると慌てて姿勢を整え挨拶をした。
「おはようございます魔王様!」
それに対して彼女は微笑んでくれると優しい声で返してくれたのである。
「お主もよく頑張ってくれたのう。礼を言うぞ」
「いえ勿体無いです!私なんてまだまだ未熟者なので……」
「謙遜する事はないさ。現にこうして立派になって戻ってきたんじゃからな」
「はい、これも全て魔王様のお陰で御座います!!」……あれ?何かおかしいような気がするがまあいいか。
その後少し話をした後その場を離れるとお風呂場に向かい汚れを落とすことにした。
脱衣場で服を脱ぎ浴室に入るとそのまま中に入り湯船に浸かる。すると自然とため息が出てしまうのを自覚した。
「本当に強くなってるんだろうなぁ……このままじゃ皆の足手まといになりそうだし何とかしないとな」
そう呟きながら今後の事を考えていたら不意に声をかけられたのだ。
「ほう?それは困りましたねぇ。それでは我々としては貴方の力を是非とも有効活用させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
その声を聞いた途端一気に血の気が引いて行きそれと同時に嫌な汗が流れ出してきたのである。
「だ……誰だ!?」
動揺しつつもどうにか平静を保ちつつ振り返るとそこには見知った顔があったのである。
「おや、そんな怖い顔をしないでくださいよ。私は別に怪しいものではありませんのでご安心下さい」
「ふざけないでくれ!そんな格好をしている奴の言葉なんか信用できるわけないだろう!!」
何故ならばそいつの見た目は明らかに人間ではなかったからだ。簡単に言えば頭に角があり背が高くて筋骨隆々のまさに魔族といった感じの姿でありそれを認識すると恐怖を感じながら後退ったのである。
「ふふ、そう警戒なさらないでも大丈夫ですよ。今日はお願いがあって来ただけですので危害を加えるつもりはありませんよ?」
「本当なのか?」
「ええ本当だとも!なんならここで裸踊りをしても良いぐらいだよ?」
「………………嘘じゃないみたいだな。それで頼みって何なんだ?内容次第では協力出来るかもしれないけど……」
「おおっ!!君みたいな人が来てくれるとは助かります!!実はですね私の国に来て欲しいんですよ。もちろん報酬はたっぷり用意しますから!!」
「…………はっ?ちょっと待ってくれ意味がわからないんだけどどういうことかな?」
あまりにも突拍子のない話に頭がついていけず困惑していると男は苦笑いを浮かべた。
「あ~やっぱりわかりませんよね。うんわかっていたよ最初からね。だからもう一度説明するね。君の力を貸して欲しいんだよ。その為に我が国に招待したいわけ」
「いやその前に名前を教えてくれないか?流石に初対面のままっていうのは失礼だと思うしさ」
「ああ~これは申し訳ありませんでした。私とした事がうっかりしておりました。改めまして私の名前はフォルガトラスと言います以後よろしく」
「僕はロン・ミッチェルですこちらこそ宜しく」
お互いに自己紹介を終えるとその男・・ではなく女だったらしく彼女について行く事に決めた。
正直不安はあったが他に選択肢が無い以上どうしようもないと言う結論に達したからである。
(それにしてもこの人なんの為に僕を誘ってきたんだろうか?)
疑問を抱きつつもそれを尋ねることは出来ず黙々と歩いていくとやがて大きな門の前に辿り着いた。
そしてその前には二人の兵士が立っていたのであった。
二人共その外見的特徴から見て明らかに悪魔だったのだが片方は特に大きくそしてもう片方はやや小さめであったのだ。
その二人が近付いてくると彼女は笑顔を浮かべたまま話しかけてきた。
「よくぞ参られました。歓迎致しましょう」
それに対して兵士は直立不動の姿勢を取り敬礼をしながら返事をする。
「はっ、お待ちして居りました。それとそちらの方は初めてお目にかかりますがもしや新しい四天王候補ですかな?」
そう言いながら僕の方に視線を向けた。
「いいえ違いますわ。彼は勇者として迎え入れようと思っている方なので」
「ほう……貴様が噂の人間の小僧か。成程確かに脆弱そうな面構えだな」
「おい止めろよ。可哀想だろう。いくら事実とはいえもう少しオブラートに包んで言おうぜ」
「お前が一番酷いこと言ってるからな!」
「冗談だって。まあその通りだけど」
「フォローする気皆無じゃないか!」
「当たり前じゃん。事実だし」
「くぅ!こいつは腹立つな!!」
「はいそこまで!喧嘩はダメですからね。それよりも早く中に入りなさい。貴方達も案内ご苦労様です」
「いえいえ、これも仕事のうちですから気にしないで下さい」
「そういう事なのでさあさあお入りください」
「……はい、分かりました。お邪魔させていただきます……」
それから中に入ると応接室のような場所に通されそこでしばらく待つように言われたので大人しく座っているとすぐに彼女は戻ってきたのだ。
「待たせて悪かったのう。少し準備に手惑ってしまってな」
「そうなんですね。ところで一体何処の国に連れて行ってくれるのでしょうか?」
「まあまあ慌てるでない。今から説明してやるからの」
そう言って彼女が言うにはこうらしい。まず初めにこれから向かうのは魔王軍の本拠地である城でありそこに向かう為に転移魔法陣を使うのだと教えてくれたのである。
しかし魔王の魔力を使って発動させている為かなり強力な結界を張っているらしく並大抵の者では侵入出来ないようになっているそうだ。
それを聞いてある疑問を抱いたので質問する事にした。
「あの、どうしてそんな事をする必要があるのか聞いてもいいですか?」
すると彼女はあっさりと答えを返してくれたのである。
「簡単な事じゃよ。万一にも他の国に情報が漏れぬようにするのと、仮に攻め込んできたとしても容易に対処出来るようにしておるためじゃ」
その言葉を聞き納得したのだ。つまりそれほどまでに厳重にしておかなければならないほど危険な場所だと言えるからだ。
「なるほど、だからあんな格好をしていたんだね。でもそれなら何でわざわざこんなところまで連れて来たの?」
「それはここなら誰も来ないと思っての事だよ。何せここには限られた一部のものしか出入り出来なくなっていますからねぇ」
「え?それってどういう意味なの?」
彼女の言っている意味がわからずに困惑していると不意に声をかけられた。
「ふむ、やはりまだ理解していなかったようだな。ならば仕方がない。わしが直接教えてやろうではないか!!」
そう叫ぶと同時に膨大な力が吹き荒れたと思ったら次の瞬間目の前に一人の女性が立っていた。
その姿を見た僕は驚き固まってしまった。何故ならばそこにいた女性は僕が知っている人物だったからである。
「……嘘だ……まさか……そんな……ありえない!!君は死んだはずだ!!なのに何故ここに居るんだよ!?」
「……久しいのうロンよ。元気そうで安心したが少々見ないうちに随分老け込んだのではないか?昔はもっと威勢が良かった気がするが何かあったのか?」
「うるさい!君にだけは言われたくないね!それより答えてくれ!何があったのかをさぁ!」
必死になって詰め寄ると彼女は苦笑しながら語り始めた。
「相変わらず短気な奴め。だがまあいい話してやる。あれは何年前だったかな確か五年ぐらい前だったと思うぞ」
「もういいから黙ってくれないか!」
「はいはいわかっとるわい。それで話を続けていくぞ。当時私達はとある国を攻め落とすべく出陣していたのだが途中で運悪く敵に遭遇してしまい戦闘になってしまったんじゃ。その時私は油断してしまい敵の術中に嵌ってしまったのじゃよ。そしてそのまま死んでしまったというわけじゃ」
「……えっ?それだけなのかい?」
あまりにも呆気なさ過ぎて拍子抜けしていると彼女は更に詳しく語っていく。
それによるとその国はどうやら召喚士の一族らしく、それにより様々な生物を呼び出し使役することが出来るのだという。
そしてその生き物の中には当然魔物も含まれるため必然的に僕達が戦う事になったのだそうだ。
最初は苦戦したものの徐々に形勢が逆転していき最終的には僕達の勝利に終わったが、戦いが終わった直後に突然地面が大きく揺れ動き始め慌てて外に出るとその光景を目の当たりにしたのである。
そこには巨大な竜が居りこちらに向かってブレスを放ってきた。咄嵯の判断で皆を守ろうとしたが間に合わず全員焼かれてしまう寸前で何者かによって助け出されたがそこで意識を失ってしまい目が覚めた時にはベッドの上で寝ていたそうだ。
それからしばらく安静にしているようにと言われたのでおとなしくしていたがある日部屋の扉を開けると見慣れないものが置かれていた。
不思議に思いながらも恐る恐る近づいてみるとそれが手紙だという事に気が付いたので早速読んでみることにした。
内容は簡単にまとめれば謝罪の言葉であった。本来であれば自分達の不手際のせいで巻き込んでしまうことになり申し訳ないと書かれていたのだ。
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