第11話

 しかも治療費などは全て自分が負担すると言っていたのである。流石にそこまでしてもらう義理は無いと思い断ったもののそれでも無理矢理押し付けてきたので仕方なく受け取ることにした。

その後色々考えた結果この機会を逃すべきではないと判断し行動に移すことに決めたのである。

という事で現在に至り現在に至ると言う事らしい。

「成程……事情は分かったけどどうしてあの時僕の前から姿を消したりしたんだ!!」

「そ、それは……お前を巻き込みたくなかったからだ……」

彼女は顔を赤らめてモジモジしながら言った。そんな姿を見せられた僕は胸の奥底から湧き上がる衝動を抑えるので精一杯だったのである。

(うわ~これはヤバいな。何ていうか物凄く抱きしめたいんだけど!)

しかし何とか我慢すると大きく深呼吸してから冷静になるように努めつつ口を開いた。

「ありがとう。だけど今度からは絶対に一人で抱え込まないでくれよ?約束してくれるかい?」

僕が真剣な表情で言うとその意図を理解してくれたようで嬉しそうな顔になりながら何度も首を縦に振っていたのでひとまず安心したのであった。

それからしばらく時間が経ったのでようやく落ち着いたのを見計らい本題を切り出した。

「ところで話は変わるけれどこれから行く場所はどんな所なんだい?」

「ああ、それなら一言で言えば魔王城だ」

「……はい?」

予想外過ぎる言葉を聞き思わず聞き返してしまった。

「だから魔王城だと言っているだろう。何をそんな驚いているんだ?」

「いやだっていきなりすぎて理解出来ないんですけれども!?」

まさか国の名前がそのまま本拠地になっているとは思わなかった為動揺を隠しきれずにいた。それにしてもどうしてそのような名前になったんだろうかと考えていると、彼女は笑い出しその理由を説明し始めたのである。

何でもかつて勇者と呼ばれる者達がいたらしく彼等はその世界において最強の力を持っていたとされているらしい。

その為どの国も彼等を欲しており戦争を仕掛けようとしたのだが全て返り討ちに遭ったのだそうだ。なので人々は恐れを込めてこう呼ぶようになったのだそうである。『無なる者』と。

それ以来どこの国もその名を耳にしただけで戦意を喪失してしまうほどトラウマを植え付けられたらしく、それ以降一切干渉する事を諦めたようだ。

ちなみに現在は平和そのものなのだがその名は未だに残っており今でもその名を聞いた途端震え出す人が多いという事も付け加えていたのだった。

「でもそんな場所に何で行こうとしているんだ?」

そう尋ねると彼女は少し悲しげに俯いていた。どうやら何か理由があるみたいだと感じた僕は敢えて何も聞かずに見守る事にした。やがて決心がついたのかゆっくりと話し始めその内容を聞いて驚いたのだった。

なんでも昔は彼女達一族は人間と共に暮らしていたのだがある時を境に迫害を受けるようになりやむを得ず人間の目から逃れるために森で暮らす事になったのだがその生活に不満を感じておりどうにかしたいと思っていたところ今回の話が舞い込んできたのでこれ幸いとばかりに乗り込んだのだという。

ただその際他の仲間達には一切相談せずに独断で行ったので後で怒られるかもしれないと不安げな様子だったので元気付ける為に背中を叩いてあげた。

「よし!そうと決まれば早く出発しようじゃないか!」

僕が張り切って言うと何故か不思議そうな眼差しを向けられてしまった。

「いや別に急ぐ必要も無いと思うぞ?なんせここは大陸の端っこにある島だし仮にここから出発したとしてもすぐに着くわけじゃない。下手すれば何年もかかるかもしれんのだぞ?」

彼女の言っている事は尤もであり普通ならばここで引き返すべきだと思ったはずだ。だがこの時の僕は何故かすこぶる調子が良くてやる気に満ち溢れていたので問題無いと判断したのである。

「大丈夫だよきっとすぐに着くさ!なんていったって今の僕には最強無敵の力が備わっているのだからね!!ほら見てごらんこの肉体美を!!!」

ポーズを取りながら自慢気に話すと彼女は一瞬ポカンとした表情を浮かべていたが次第に堪え切れなくなったかのようにお腹を抱え大声で笑いだしたのである。そして一頻り笑うとお礼を言いながら抱きついてきた。

「ふぅ……久しぶりにこんなに笑わせてもらったよ。まさかここまで自信たっぷりだと逆に清々しいものだな」

「うん、自分でいうのもあれだけど僕自身もびっくりしているんだよ」

「まったく……お前がそこまで前向きな性格をしているなんて知らなかったぞ。一体誰に似たんだろうなぁ?」

どこか懐かしむような口調で言う彼女に苦笑いしながらも内心では嬉しかったのである。

「じゃあ準備ができたら出発するか」

「えっもう良いのかい?もっとゆっくりしても良いんじゃないかい?」

「いいや、むしろここに留まる方が危険だと思う。何しろここには私以外の竜族がいるんだからな」

確かにそれもそうだと思い納得したので早速行動に移そうとしたその時、扉の方からノック音が聞こえてきたので警戒しながら見つめているとゆっくりと扉が開かれそこから一人の女性が入ってきたのだった。

「失礼します。あら……お客様がいらっしゃいましたでしょうか?申し訳ありません今すぐ出て行きますのでどうか御容赦くださいませ……」

彼女はこちらの姿を確認するなり慌てて頭を下げ謝罪の言葉を口にしていた。ただその姿を見た瞬間驚きすぎて言葉を失ってしまったのであった。何故ならそこに現れた女性はとても美しくまるで女神のように神々しく感じられたからである。

(な、なんだこれは!?こ、これが噂の女性の魅力と言うものなのか!?)

あまりの衝撃に呆然と立ち尽くしていたが女性は気付く事無く部屋から出て行ってしまった。すると入れ違いになるように彼女が駆け寄ってきたのである。

「おい、いったい何があったんだ?あの人は確か長の妹さんだろ?」

「ああ、実は……」

それから先程の女性の事を話したのだが彼女は特に驚く素振りを見せることも無く平静を保っていた。

「成程そういう事情があってここに来たんだな。しかし本当にそっくりだなお前の母親に」

「やっぱり母さんの知り合いだったのか!?それにしても全然気付かなかったよ……」

まさかさっきまで会っていたとは夢にも思っていなかった為、唖然として固まっていた。そんな僕の様子を見て彼女はおかしそうに大笑いし始めようやく笑い終えたところで改めて自己紹介を始めた。

「私の名はザリス・グア、一応魔王軍幹部の一人にして序列3位を担っている者でもある。宜しく頼むぞ我が主様」

そう言って手を差し出してきたのでこちらも握手をして応えたのである。

「改めまして、僕の名前はアクァィルウと言います。これからよろしくお願い致しますね!」……こうして新たな仲間となった彼女との旅が始まったのだがこの時の僕はまだ知る由もなかった。この後待ち受けているであろう戦いの数々に……

「うーん、それにしてもどこへ向かえばいいんだろう?」

現在森の中で迷子になり途方に暮れていました。というのも突然やってきた彼女に連れられて来たもののその後どうするか全く考えていなかったせいで困った事態に陥っているのだった。

ちなみに今はその彼女とは別行動をしておりどこに居るのかすら分からない状況だったりする。

「そもそもどうしてこうなったのかなぁ……」

そう思い返せば少し前の事を思い出す事になったのだった。------

「それじゃあそろそろ行こうか!」

僕達はお互いの顔を見合わせると目的地に向けて旅立とうとしていた。そしていざ出発しようとした時部屋の外から慌ただしく誰かが走ってくる足音と共に勢いよくドアが開かれたので驚いてそちらを見るとそこには一人の少女が息を切らせながら立っていた。

その姿を見てすぐに分かった。この子はさっき出会ったばかりの彼女の妹なのだと。

「やっと見つけたわ。勝手に抜け出すなんてどういうつもりなのですか?」

妹の方は姉を見つけるなりすぐに詰め寄り説教を始めようとしていた。それに対して姉の方は特に悪びれた様子もなく適当にあしらうだけだったのである。

「まあまあ落ち着けって。それよりも何か用件があるんじゃないのか?」

「はぐらかさないで下さい。お父上が何と言っているか分かっていますよね?」

二人の会話を聞いていて思った事がある。それは目の前にいる彼女の父親つまりはこの集落の長が彼女に対して並々ならぬ執着を持っているのではないかと感じたのだ。

そして案の定というべきか彼女の表情は明らかに不機嫌なものへと変わっていく。

「……あいつの話なんか聞きたくもない。私は自分の意思でここに残る事に決めたんだ。悪いけど帰ってくれないかい」

「駄目です!貴方の気持ちがどうであれお兄様に迷惑をかけているのは事実なのですから大人しく言うことを聞いていただけませんかね?」

「な、なんだよいきなり敬語になって……」

急に態度が変わったのを見て戸惑っていると彼女は溜息をつきながらこちらに向き直り真剣な眼差しを向けてきたのである。

「君には色々と世話になったみたいだし感謝しているよ。もし機会があればまた会いたいものだね」

「そうだね、その時を楽しみにしているよ」

「じゃあ元気での。それと……この子にはあまり近づかないようにしてくれ」

最後に忠告のような言葉を告げられると彼女はそのまま連れていかれてしまった。その際何度も抵抗していたようだがその度に殴られたりしていたらしく最終的には諦めてしまい渋々付いて行くことにしたらしい。

ただ去り際に見せた寂しげな顔を見た僕は胸騒ぎを覚えながらも見送る事しか出来なかったのだった。----

というわけで現在絶賛迷子中になってしまったと言う訳だ。正直こんな事になるならちゃんとした道を教えてもらえば良かったと思ったのだけど今更後悔しても遅いので仕方なく歩き続けている。

「それにしても本当に広い森だねぇ……」

辺り一面に広がる木々を見ながら思わず呟いてしまう。するとその時茂みの中から物音が聞こえてきたのである。まさか魔物でも出たのではないかと警戒しながら剣を抜き身構えるとそこから現れたのは大きな熊であった。

しかも何故か体中傷だらけであり血を流したままフラついている状態であった。明らかに普通ではないと思い観察を続けているとその視線に気付いたのかこちらにゆっくりと近づいてきたので慌てて逃げようとしたが間に合わずあっさり捕まってしまった。

「ちょっ!?放せぇ!!」

必死に抵抗するも虚しい結果に終わりあっけなく持ち上げられてしまう。それから地面に叩きつけられるように降ろされると今度は押し倒され完全に動けなくなってしまった。

(やばいこのままだと殺される!!)

恐怖心を抱き何とか逃れようと暴れたが意味は無くついに鋭い爪を振りかざしてきた。もうだめだと思っていた次の瞬間、横からの衝撃により吹き飛ばされた事で難を逃れる事ができたのだった。

一体何が起こったんだろうと思っていると先程まで自分がいた場所に先程の少女が立っていたのである。

「大丈夫ですか?怪我とかありませんか?」

心配そうな顔をして駆け寄ってきた彼女に呆気に取られていたがすぐに立ち上がり礼を言う。だが同時に疑問もあったため質問をした。

「助けてくれた事は本当にありがたかったんだけど、なんで此処に居る事が分かったの?」

そう聞くと少し申し訳なさげにして答えたのである。なんでも僕達が出て行った後、こっそりあとをつけていたみたいなのだが途中で見失ってしまい探し回っていたところ偶然にも襲われている所を発見したので急いで駆けつけて来たのだった。

「ごめんなさい、私がついていながら危険な目に遭わせてしまって……それにしてもあの程度の相手に手こずるとは情けないですね」

「うぐぅ……」

彼女の言葉が胸に刺さる感じがした。確かに相手が普通の動物ならば問題はなかっただろう。しかし相手は魔物だった為油断してしまったのだ。

いくら弱いといっても野生の獣と人を襲うために訓練された者では強さが全然違うのだから気を付けなければならないと改めて実感させられた。

そんな事を考えているうちにいつの間にか傷が癒えており服についた汚れなども綺麗になっていたので驚いていると彼女が魔法を使ったと説明してきた。

「私の治癒術で治療しましたから安心してください。それよりもこれからどうします?」

「とりあえず一度戻らないかい?流石にこれ以上迷惑かけるわけにはいかないしさ」

「そう……ですよね。分かりました、戻りましょう」

こうして僕達は集落へ戻る事になった。ただ戻る前に彼女から一つ頼みごとを頼まれた。それは自分と一緒に居てほしいというものだった。その理由を聞くとそれが一番安全だという理由を聞かされたので断ることも出来ず一緒に行動することになったのである。

------

私の名前はアランチャリー・ラティフィと言います。年齢は15歳で性別は女です。ちなみに髪の色は金色で長さは肩にかかる程度の長さです。そして瞳の色も同じ色をしており、顔立ちに関してはあまり自覚は無いのですが周りの人からはよく可愛いと言われています。

さっきから話に出てくるお姉様ことセルシアさんの妹でもあり、家族からはお姉さまと呼ばれ慕われていました。

さっきからお姉さまと呼んでいる理由は単純に姉妹仲が良いというだけですがそれだけではありません。私は昔から体が弱くいつもベッドの上で寝込んでいる状態で、外で遊ぶような事も出来ない状態だったんです。

そんなある日のことです、お父上がある日を境に外出が多くなり、夜遅くに帰ってくるようになりました。最初は何処かに遊びに行っていて帰りが遅れたりしているのかと思っていましたがしばらくすると一人の男の子を連れて来るようになったのである。

その子の名は『シン』といい名前以外何も分からない不思議な子でした。見た目は黒目黒髪をしていて年齢はまだ5歳くらいの子だったのですがまるで大人のような雰囲気を醸し出していた印象を受けましたね。

ただある日の事です。その子が部屋から出て行ってしまったらしくそれを探しに行ったまま戻ってきませんでした。

それを切っ掛けとして今まで我慢をしていたものが一気に爆発してしまい感情のまま泣き叫んでしまったのを覚えています。それから数日の間ずっと泣いてばかりいたせいか体調が悪くなり熱を出してしまいました。

それが理由で外に出ることもできなくなりますます塞ぎ込んでしまい部屋に閉じ籠るようになりやがて部屋の外に出ることが出来なくなってしまっていたのである。

その頃になるとすっかり体力が落ちていき自力で歩くことすら難しくなっていた。なので食事すらまともに取ることが出来ず日に日に弱っていく一方であった。

その為この屋敷にいる人達はほとんどが自分のことを腫れ物を扱うかのように接しており誰も近づこうとしなくなっていたのである。そんな中ただ一人だけ自分の側にいてくれる人が居てくれていた。

彼女は優しく微笑みかけながら頭を撫でたりして元気づけようとしてくれたりと親身になってくれていたのでとても嬉しかった。だけどそれと同時に申し訳ない気持ちになってしまい罪悪感を感じてしまっていた。

(このままじゃいけないって分かっているのに……)

そう思いながらも結局は何もできずにいた時、ある事件が起きた。自分が病気で倒れてしまった時に誤って食事をこぼしてしまった事があった。

その時運悪くも近くにあった花瓶を落とし割ってしまった事で大きな音が響き渡り慌ててメイド達がやってきたのである。

この時ほど自分を呪ったことはない。だって折角彼女が自分に構っていてくれていたというのに台無しにしちゃったんだもの……。

当然怒られると思ったのだが意外にも叱られることはなかった。むしろ謝られたことに驚いたのである。何故なら本来であれば自分は罰せられてもおかしくなかったはずなのに何故か許されたからだ。

その後さらに驚く出来事が起きたのだった。なんとあの子がその場に現れたのである。しかも怪我をした腕を押さえて痛々しい姿で……きっと無理をして抜け出して来たに違いないと思いすぐに駆け寄り抱きしめた。

「もうっ!何でこんな無茶するのよ!」

「ごめんなさい……でもアランチャが心配だったから……」

申し訳なさそうな顔をしていたがそれ以上に自分が無事だったことへの安堵した表情を浮かべており本気で私の身を案じてくれた事が分かって胸が締め付けられるように苦しくなったのだった。

その後は急いで医者を呼び診てもらった結果幸いにも命に別状はなく軽い打撲と擦過傷だけだったようで一安心しました。ただ念のため安静にして様子を見るようにと言われたため大事を取って休むことになった。

------

あの後無事に回復した私は改めて謝罪とお礼を言うことにした。本当はもっと早く言わなければならなかったのだが怖くてなかなか言い出すことが出来なかったからである。もし嫌われたらと思うと恐ろしくて仕方がなかったのだ。だがそれでも勇気を振り絞ることが出来たのは彼が私の事を本当に想っていることが伝わってきたからだと思う。そして意を決して伝えたことでようやく心の底からの笑顔を見せることが出来るようになったのだった。

「あ、そういえばまだちゃんとした自己紹介していなかったよね?僕はセルシア・ロウレットだよ、よろしくね」

その名前を聞いた瞬間思わず息を飲むと同時に全身の血が沸騰するかの如く体が火照ってきたのを感じた。まさか憧れの存在であり目標でもある彼女の妹君だとは思わなかったからです。それにしても近くで見るとやはり綺麗だなぁ~っと見惚れているとその視線に気付いたのか不思議そうに見つめ返してきた。

「どうかした?」

首を傾げ尋ねてくる姿はとても可愛らしかったけど同時に恥ずかしくなり頬を赤らめ俯くことしか出来なかった。

------集落に戻った僕達は長老達から盛大に迎え入れられた。どうやら相当深刻な事態になっていたらしい。まぁ確かにあれだけの数を相手にするのはいくらなんでも厳しいだろうし仮に倒せたとしても被害が出る可能性もあったわけだし妥当と言えば妥当かもしれない。

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