第20話 死刑です
「どうするんすかタルトっち! ナツキっちが俺の代わりに連れて行かれちゃったっすよ!」
「もちろん助けるよ。絶対に」
ボクとリントはとりあえず安宿に入り、今後の対策を話し合うことにした。もう男と二人きりだとか女の子とバレたらどうしようだとかそんなこと言ってられる状況ではなくなっちゃった。
「俺だって会ったばかりっすけど、ナツキっちは初めて出来た友達だから助けてぇっすよ。俺なんかのために自分が犯人だとか言って……あいつ超いいやつじゃねぇっすか」
リントはぐすぐすとまたもや泣き出してしまった。
ナツキがお人好しなのは知ってたけど、まさかあんな大胆な行動にでるとは思っていなかった。もっとおとなしいタイプだと思ってたんだけど。ああ、そうか。洞窟の魔物が復活したときも飛び出していってたっけ。
普段はおとなしいのにピンチの時は迷いなく行動するのがナツキだったね。
あとは、もしかするとナツキも嬉しかったのかもしれない。自分と同じ境遇の友達が出来たことが。
「リント泣かないでよ。落ち着こう。ナツキはああ見えて簡単にやられたりしないんだ」
「どういうことっすか?」
「ナツキの能力がよくわかってないっていうのは本当のことだよ。だけど今のところナツキはどんな大怪我しても一瞬で傷を治してしまう超回復能力があることだけは間違いないんだ」
「なんすかそれ! やばいっす! つーか、超無敵じゃないっすか! マコっちゃんやばすぎっす!」
「落ち着いて。座って。無敵じゃないよ。普通に傷ついたときの痛みはあるし、回復能力が発動するまでの時間がいつもバラバラなんだよ。すぐ発動したこともあれば数時間発動しなかったりするんだよ」
「マジっすか……。それは……ちょっと微妙っすね」
「うん、だからなるべく早く助けたい。リントは王都で数ヶ月生活してたんだよね。ナツキがどこに連れて行かれたのかわかる?」
「それは多分騎士団の本部じゃないっすかね。この街の治安維持は基本的には騎士団が管轄してるし、街の自治組織も犯罪者は騎士団に引き渡す決まりになってるっすね」
「そうなんだね。ちなみに、犯罪者って王都ではどうなるの? 裁判とかあるの?」
「それはわかんないっすね。最近は治安が悪くなりすぎててほとんど犯罪者も取り締まられてないんすけど、たまに捕まるやつもいたっすね」
「それで?」
「戻ってきたやつは一人もいないっすね……」
最悪。まともな裁判なんかは期待できないってことか。しかもナツキはこの世界の法律なんて知りもしないだろうし……ボクもだけど。
「とにかく準備をしよう。このまま突っ込んだって門前払いか仲間と思わて捕まっちゃうだけだ。作戦を立てよう。ナツキを救出して王都を脱出する準備をするんだ」
「わかったっす! タルトっち。俺、なんでもするから言ってほしいっす!」
なんでも、か。そうだね。ナツキはボクだけじゃなくリントも助けようとして捕まったわけだし、リントにもしっかりと手伝ってもらおう。
最悪の場合はこいつを真犯人として引き取ってもらってナツキを釈放……でもたぶんそれはナツキが許さないんだろなあ。
次の日。ボクたちはまずは見た目を変えるために服を用意した。
やたら目立っていた高級品の黒ずくめの服だったリントは街の人と変わらない安っぽい服に着替えてもらい、鬱陶しい長い髪は頭に布を巻いて隠してもらった。黒い髪は王都では少しばかり目立つ。金髪や赤毛が多い地域だからね。
ボクもライトブルーの髪は目立つので猫耳フード付きのローブを買った。猫耳にしたのは別にかわいいからじゃなくて、王都では人気の商品だって言われたから。店員さんが勧めてきたのだからいいものに違いない。かわいいからとかじゃない。決して。
「で、どうするんすか?」
猫耳の部分をもみながらリントが話しかけてきた。何気安く触ってんのさ。リントの手を払い飛ばした。
「リントにはちょっと危険な役目をやってもらうことになるよ」
「任せちゃってください! ナツキっち助けるためなら俺、なんでもやっちゃうんで」
リントもやる気十分だ。ナツキはリントの代わりに連れて行かれたんだ。そうじゃないと困るけどね。
「わかった。じゃあリントの
「おお! なるほど。さすがタルトっち」
「店でお金を使えば足がつくから、路地裏とか、人目を盗んで王都中にばらまこう」
「任せちゃってください! 俺、裏道とか結構詳しいんで。一人で王都をあちこち歩きまわってたかんで。孤独だったんで……何もやることなかったんで……金はあっても心は全然満たされなかったんで……」
一気にトーンダウン。みるみるうちに元気がなくなっていく。
「ちょっとちょっと! わかったから。その話はあとでしっかり聞くから。今は作戦に集中して。早くしないとナツキが殺されちゃうかもしれないだろ」
「そ、そっすね。じゃあさっそく」
リントは自分の胸元に手を入れた。次に手を出したときには手に札束が握られていた。こんな大金みたことないよ。
「わお……。本当にお金が出し放題なんだ……」
こんなの魔法でもできやしない。なにもないところから物質を生み出してるなんて。
異世界人はやっぱりめちゃくちゃだ。
リントはさらに手を胸元やポケットに入れる度に札束を生み出していく。す、すごい。目の前であっさりと奇跡が起きている。少しドキドキしてしまう。
「すごいよリント! 本当にすごいよ!」
「そ、そっすかね? 今となっちゃこんなの、なんの役にもたたない紙切れっすよ?」
「だけど他の誰にもこんなコトできやしないよ! リントはすごいよ」
「俺の能力が役に立つんならいくらでも出しますよ! 久しぶりの能力全開放っす!」
札束が舞う。夢のような光景。
ああ、このお金が使えたら一生遊んで暮らせるのにな、なんて思ってしまったのは内緒。お金ってなにか魔力を秘めた魔道具なんじゃないだろうか。
うん、これからはリントを責めるのはやめてあげよう。
ボクたちは王都のあちこちにエンをばらまいて回った。裏路地なんかにバラ撒いたので見つけてもらえるか不安だったけどすぐに、王都中で騒動が発生していった。
いくら使える場所が少ないと言っても政府が公認しているお金があちこちにばらまかれているのだ。みんな気になって拾ってしまうみたいだった。やっぱりお金には人を惹きつける力があるのかもしれない。これなら思っていたよりも早くいけそう。
「これなら騎士団本部にも通報が入っているはずだね」
「すげぇっすタルトっち。作戦ばっちりハマってるよ!」
「ボクは何もしてないよ。リントの能力のおかげさ。よし、じゃあそろそろ騎士団本部の様子を見に行こう。案内お願い!」
「任ちゃってください!」
騎士団本部は宮殿のある丘の麓にある大きな白い建物で、あちこちに赤い大きな軍旗が掲げられていて、かなり威圧感がある。
騒ぎはしっかり騎士団本部にも伝わっているらしく、慌ただしく兵士や大金を持った王都市民が出入りしていた。
「ねえ。あの中は一般人は入れるの?」
「入ったことないからわからねぇな。俺ちょっと見てこよっか?」
「バカ、捕まっちゃったらどうするんだよ。リントはここで待ってて」
「タルトっち、行くつもりかよ!」
「不本意だけどボクはパッと見子どもに見えるからね……。いざとなれば子どものフリしてごまかすから大丈夫」
「え。タルトっちは子どもじゃん」
ボクはリントの脛を蹴飛ばしてやった。
「ボクはこう見えても十七歳だよ!」
足を抑えて転げ回るリントを無視してボクは騎士団本部の入り口へ向かった。後ろの方で「マジで」「ありえねえ」「嘘だろ」とかいう声が聞こえたのであとでもう二、三発蹴ってやろう。
慌ただしく人が出入りを繰り返していたので割りと簡単に中に入れた。
少なくとも入口付近は兵士以外もたくさんの人がいる。子どもは見当たらないけれど。
「これならリントを連れてきても大丈夫かな。ボク一人だと迷子扱いされても厄介だし」
建物の影に隠れていたリントを呼んで騎士団本部の中へ二人で入る。
「こりゃすげぇ……まるで日本の警察署だ」
「あまりキョロキョロしちゃだめだよ。怪しまれちゃうし。ナツキはどこに連れて行かれたのかな」
「ここはなんていうか受付って感じだな。あの受付のお姉さんに聞いたら良いんじゃねぇか?」
「……やってみる」
建物の中央には大きなカウンターがあり、複数の受付が用意されていて、今は王都にバラまかれたエンを届けに来た人や、なにか揉め事の解決をお願いに来た人なんかでかなり混み合っている。ボクたちはそこに並んで順番が来るのを待った。
そしてようやくボクたちの番が回ってきた。
「本日はどうされましたか?」
受付のきれいなお姉さんはとても可愛らしい笑顔でボクに対応してくれた。
「あの、昨日の夜に捕まった人のことを聞きたいんですけど」
「なぜでしょうか?」
「実は、昨日の夜に怪しい男に大切な物をとられたんですけど、その男が衛兵さんに連れて行かれちゃって。大切なものなので返してもらえると嬉しいんですけど」
「あら、それは大変ですね。少々お待ちください……昨日の夜は18名ほど逮捕されてますね。どのあたりで取り締まられたのかおわかりになりますか?」
わからない。リントわかる?
リントのほうを見る。
「たしか、喫茶店の前っすね。あの大通りの角の」
「ああ! ケーキが美味しいお店ですよね。私もたまに行くんですよ。少々お待ちください…………ああ、大変。その事件の犯人はすでに刑が決まって本日執行されることになっているみたいです」
そんなバカな! 昨日捕まったばかりじゃないか。取り調べは? 裁判は? 王都なのにそういう仕組みはないの!? しかも今日執行されるっていくらなんでも早すぎるでしょ!
「刑って! なんの刑なんですか?」
お姉さんは笑顔を崩さないまま答えた。
「死刑です」
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