第19話 犯人
「王都を出ます」
先程の喫茶店でボクは二人に今後の方針を重大発表風に言った。
「な、なんだってー!」
二人して大げさに同じ反応で返してきた。なにそれ。ニホン人の共通リアクションなわけ?
歳の近い友達ができて少し嬉しそうなナツキとこの世界で初めて友達ができてめちゃくちゃ嬉しそうなリント。こっちは若干の疎外感を感じて正直うっとうしい。やっぱ拾わなきゃよかった。
「もう出るのか? まだここに来て一日もたってないじゃないか。こんな広い都市なのにいいのか?」
「そうっすよタルトっち、俺もまだこの都市は行ったことない場所がいくらでもあるくらいっすよ」
タルトっち? とりあえず無視しよう。なにか不快だけど。
「理由は簡単です。リントの能力がバレたら大変なことになるからです」
「なるほど…」
ナツキは理解。
「? なんでっすか?」
リントは不理解。
こ、これは大変だ。お守りをする人間が二人に増えると苦労が倍になる!
「わかってると思うけど、リントの能力はもう使わない方がいいと思う。すでに王都は混乱状態で治安もめちゃくちゃ悪くなってる。もしその原因がリントだってことがバレたら下手すれば捕まえられるかもしれない」
「なーるほど。さすがっすね。じゃ、俺はもうこの能力は使わないようにしちゃいますね」
ずいぶんと軽い返事。ほんとにわかってんのかなこいつ。
「うん、あとね、リントはこれまでめちゃくちゃお金使いまくってたわけでしょ? もしかしたら犯人として既にマークされている可能性だってあるわけだよ。まだ逮捕されてないだけで」
「た、確かにそれはありえる……やばいっすね」
ようやくリントもちゃんと理解してくれた。ナツキは感心してるってことはさっきの時点では理解してなかったな。
たとえそうだとしても証拠をつかめないだろうし、まさかお金を生み出せる能力なんてものがあるとは考えてもいないだろうから大丈夫だとは思うけど。
とにかく。すでにこの王都でのイベントは終了している。イベントの結果はお荷物異世界人が一人増えただけだったとは言え、このままここでダラダラしているわけにも行かない。王都ほどの都市ではないにせよ、他にも大都市はあるし、他の国へ行くという手だってある。
ここに留まるのはリスクのほうが大きいとボクは判断したのだ。
「じゃあ今日はもう遅いから出発は明日。もちろん徒歩だよ。もうお金ないからね。リントが能力を使わなければそのうちこの物価の騒ぎも収まると思うしね」
「わかったっすタルトっち。さすが俺たちのリーダーっすね!」
「ねえ……その、ち、ってなんなの? っていうかリーダー?」
とうとう我慢できなくなって突っ込んでしまった。
「違うんすか? 俺はてっきりタルトっちがリーダーだと思ってたんすけど」
「そんなの決まってないよ。むしろナツキがリーダーだよ。ねえ? ナツキ」
「いや、俺もリーダーはタルトが適任だと思う。この世界について一番詳しいし、なにより頭もいいし」
いやいや。ボクがこの世界に詳しいんじゃなくて君たちがこの世界について何も知らないだけじゃないか。それにリーダーだって? とんでもないよ。ボクはお手伝いをしているだけなんだから。
「そういうことでこれからもよろしくっす! タルトっち」
「ち」という謎の呼び方については説明がないまま、なし崩し的にボクがこのへっぽこパーティのリーダーになってしまった。
……今だけだからな。
「ま、まあいいや。じゃあ今日はボクはどこかに宿を取るけど王都ではリントが先輩だから、ナツキはリントに色々教えてもらうといいよ。ナツキのことはリントにまかせてもいいかな?」
「なんでっすか? 三人で一緒に泊まればいいじゃないっすか。なんでバラバラ?」
そうだった。
ナツキは割りとボクの決めたことに無条件で賛成してくれるものだから今まで当たり前のように別々に寝泊まりしてきたんだけど、リントはそうはいかないようだ。
今ボクは「美少年」なわけだからボクだけ別に部屋を取るというのは不自然なんだ。まずい。そういうのちゃんと考えてなかった。安請け合いしちゃったなほんと。
「俺の
リントのくせにまともなことを……。能力使うなとか余計なこと言ったばかりに……。
とは言えここで意地を張るのも不自然だ。受け入れるしかないか。
「そ、そうだね。じゃあそうしようか……」
大丈夫かな。男の子二人と一晩過ごしてバレずにいられるかな。
まあいいや。もしボクが女の子だって二人のどちらかにでもバレたらボクは、逃げる。これは最初に決めてたことだからね。異世界人と関わってしまっているんだ。これでボクが美少女だったりしたら絶対に物語のキーキャラとして巻き込まてしまう。
「じゃいこっか。そろそろ日も暮れるし、早めに安い宿を探さないとね」
ボクたちが喫茶店を出ると、そこには珍しく衛兵がいた。城の入口にいたあのアポイントがどうとか言っていた兵士と同じ甲冑を着た男たちが十人ばかり。
あちこちで騒ぎが起きていたのにも関わらず一切でてこなかった衛兵がこんなところに集まっている。もう嫌な予感しかしない。
「ご、ご苦労さまです。さあ、行くよ二人とも」
二人を連れて衛兵の脇を通り過ぎていこうとしたけど速やかに囲まれた。
やっぱり駄目だったか。
嫌な予想はしっかり当たる。
「お前たちが王都を混乱させている犯人だと通報があった。一緒に来てもらう」
違います……って言ってもダメなんだろうな。違いませんしね。
ここで下手に逆らっても多分余計に疑われるだけだろうし。ここは大人しくいうことを聞くべきかな。そもそも証拠はないんだから捕まったとしてもなんとか乗り切れるはず。
本当に?
このいい加減な王政下でボクたちのような平民で、しかも身元もはっきりしていない怪しい人間が公平に取り調べてもらえるのだろうか。
「何のことでしょーか」
「とぼけても無駄だ。抵抗すれば痛い目に遭うことになるぞ」
その時、ナツキが一人の衛兵を突き飛ばしていきなり走り出した。
あまりに急だったせいでボクは動けなかった。リントも同じくだ。
もしかして強行突破しようとしてるのか!? それは悪手だよナツキ!
「逃げたぞ! 捕まえろ!」
ナツキは残念ながら身体能力はそこまで高くはない。甲冑を着ている分足が遅いはずの衛兵にあっさりと追いつかれて捕まってしまった。
まずい。なんてことしてくれたんだよナツキ。これじゃあまるで、ナツキが、自分が犯人だと言っているようなものじゃないか。
「俺が犯人だ。そいつらは関係ない。ただの俺の客だ」
ナツキは衛兵に捕まえられながら言った。
「通報通りだったか。黒い髪の若い男という情報とも一致しているな。こいつを本部へ連れて行け!」
「ナ、ナツキ!?」
ナツキが目でボクを牽制した。今まで見たことがない、強い意志を持った目で。
悔しいけどボクはナツキが何を言いたいのかがわかってしまう。
「ナツキっち! 何言っちゃってるんすか! 犯人は……」
ボクはとっさにリントの口をふさいだ。
それを見たナツキは満足そうに少しだけ笑ってみせた。
「タルトっち。何すんすか。これじゃあナツキっちが!」
「リント! ナツキはボクたちを逃がそうとしてるんだ……!」
ナツキはいざとなれば不死身に近い超回復能力もある。この中で捕まって無事でいられる可能性が一番高いのはナツキだ。
「そんな……」
「今は大人しくしてて。ナツキの行為を無駄にしちゃダメ。今はボクを信じて……お願い!」
リントはボクの顔を見てボクの気持ちを少しは察してくれたらしい。ボクが手を離してもリントはもう何も話さなかった。
衛兵たちは暴れるナツキを押さえつけながら夜の闇に消えていき、ボクたちはそこにしばらく立ち尽くしていた。
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