第2話 ひとり

「こちらです。すぐ大女将がいらっしゃいますのでご自身の札のある席でお待ちくださいませ」


大広間と聞いた通り、宴会で使うような空間に通された。派手さは無いが意匠は整っている。

建物を見た時も思ったが、かなりの年季を感じる。


さて、部屋には既に十数名の客が集まっており、各々が会話に花を咲かせているところだった。見たところ老若男女を問わず集まっているらしいのだが、一つだけ共通していることがあった。

誰も彼も良い身なりをしている。


「場違い感が半端ないな。ドレスコードなんて書いてあったっけか」


そんな愚痴をこぼす。

自分の札の他には空席が無いことからして、恐らく自分が最後の到着だ。それも相まって、ひたすらに居心地が悪い。

そんな時だった。


「キミが羽場君?随分若いんだなァ」


正面に座っていた男が話しかけてきた。

見た感じ40代半ばといったところか。笑顔ではあるものの張り付けたようなソレで、なおかつ品定めするような目で気味が悪い。


「……えぇ。そうですけど、何でしょうか」

「ン~?何って、だってほら、見た感じキミこういうところ来るの初めてだろう?どういう人間が来てるのか、とか気になるんじゃないの?当然、こっちだって気になるワケ」


何だろう。

初対面でここまでバカにされることがあるだろうか。

ムッとする自分を見て、彼はさらに首を傾げた。


「分からないなァ。最近の子ってみんなこうなのかしら。変に尖って無口で」

「いや、だから何──」

「……まァ、あんまりエラそうにせんことだ」


そう言ってつまらなさそうに他所を向いてしまった。

彼は何か知っている風に話していたが、自分からしてみればどうやら機嫌を害したらしいこと以外何も分からない。

初っ端からバカにされたと思ったら今度は向こうが腹を立てだして、訳が分からない。普通こんな時に怒りたいのはこっちだろうに。


(待て待て冷静になれよ、俺。初めから辿って考えろ)


ただの招待ではないのだろうと思ってここへ来た。何かがあるだろうと。

そしてついさっきの件。バカにする意図が無いとしたら?


(もしかして──)


そんな時だ。

かなり高齢と見える老婆が前に立って話しだした。


「さて、皆様お揃いのようで。この度はどうも、閉館となりましたここ紫草のご招待お受けいただき感謝申し上げる。……ふむ。……あー、固っ苦しい挨拶はこの辺にしときましょか。見知らぬ仲っつぅわけでもありゃせん。儂もいい歳だ。ここは当代で潰すよって、最後の客になってもらえて喜ばしい限り。存分に楽しんでってくださいな」


見た目に反して男勝りな口調の老婆だった。

そんなアンバランスさなど気にも留めず、挨拶が終わると広間には再びざわめきが広がる。話にもあったように、ここに居る誰ひとりも知らないのは自分だけだ。

ある者は広間を後にし、ある者は給仕を呼びつけていた。

自然なやり取りで。


先ほどとはまた違った意味で居心地が悪い。

何処に何があるのかも分からない旅館だが、早々にこの場から立ち去りたかった。

そうして広間を出ようとした時、入口にはここまで案内してくれた女……確か草鹿と名乗っていた彼女が控えていた。


「それでは参りましょうか」


行く先も、何をするのかも話さなかったが、何故か彼女だけが自分の味方のように思えて黙ってついて行くのだった。

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