運命を選ぶもの

「どういうこと?」


「運命はたしかに勝手にやってくるものだけど、それを選んでつかみ取るのは自分自身だろう?」


「何それ……」


「だって、相性が悪い勤め先も、嘘つきで横暴な恋人も、選んだのは君自身だろう?」


「それは……運が悪くて……騙されてただけで……」


「だからさ。全部忘れてしまったら、また同じものを選んでしまうんじゃないかな、君は」


「え?」


「運悪く、騙してくるような相手に巡り合ってしまったのかもしれない。でも、それを見極められなかったのは、君自身だよね。知識か経験か、何が足りなかったかは僕にはわからないけれども、何かが足りなくて判断を誤った」


「……なんですって……っ!?」


 あんまりな言い様に思わずむっとしてにらみつけるが、彼は全く動じない。


「何もかも他人のせいにして、都合の悪い事はなかったことにしても、君自身は何も変わらないよ」


「な……何も知らないくせに……っ!」


 何をわかったようなことを、したり顔で言っているんだろう。


「そうだね、君のことは君にしかわからない。だから、そうやって自分で自分に言い訳して、一人でいじけているだけなら、この先もずっと同じことの繰り返しだよ」


 突き放すような言葉とともに、不意に彼の姿が消えた。


「僕が代償としていただくのは大切な記憶だ。逃げ出したい、忘れたいだけの記憶なんて、差し出されたところで迷惑なだけだ」


 囁く声が夜の空気に消えていく。

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