泉の精霊


 頼りなく漂う光を追うと、樹々の合間に斜面を下る階段が見えてきた。光苔でも生えているのだろうか?うっすらと光る階段は足を踏み外す心配もない。恐る恐る降りていくと、輝く水面みなもが見えてきた。

「すごい…」

 思わず一気に駆け降りて、光る泉にたどり着く。

「やあ、お客様とは珍しい」

 いきなり耳元で声がした。高すぎず低すぎず、柔らかでとても心地よい男の声。飛び上がらんばかりに驚いて振り向くと、輝くような姿の「彼」がいた。

 いや、実際に光輝いているのだ。身体全体が微かに光を帯び、手足や髪の先などはうっすらと透けている。その身にまとった白い衣服は風もないのにひらひらとはためいて、夢のように美しい。

「あなたが泉の精霊……」

「そんな呼び方をする人もいるようだね。それで、君は僕に逢うためにこんなところまで?」

「え、ええ。記憶と引き換えに願いをかなえてくれると聞いたから……」

「なるほど。君にはどうしても叶えたい願い事があるの?それとも忘れたい記憶?」

「……」

 柔らかく微笑みながら紡がれる言葉はあまりに核心をついていて思わず言葉につまる。図星をさされて黙り込んだ私を、彼は何も言わずに待ってくれた。

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