輝く泉

歌川ピロシキ

迷子の私

「ここ、どこかしら…」


 迷い込んだ薄暗い森の中、私は途方に暮れて呟いた。日はとうの昔に沈んでしまい、梢の間から見える藍色の空には月が皓々と輝いている。


「私、どうしてこんな目に…」


 鬱蒼とした木々の作る闇の中、こんな事態に至った経緯を思い返すと、自分の軽率さが情けなくて涙が滲んでくる。


 十日前。日頃の上司のイヤミや同僚たちの下らないマウントの応酬、彼氏のモラハラにすっかり疲れてしまった私は何もかもリセットしたくて退職届を出した。

 貯金は充分ある。失業保険も含めれば、半年くらいはなんとか生活できる。せめて一週間はのんびりしようと旅に出たのが今朝のこと。


「精霊?本当にそんなものが…?」


 寂れた村の一軒しかない旅館で、山の泉にまつわる伝説を聞いた。美しい精霊が、記憶と引き換えに一つだけ願いを叶えてくれるらしい。


 ちょっとした探検気分で踏み入れた山は思いのほか深く、私はすっかり道に迷ってしまった。闇雲に歩き回ったせいで、気付いた時には深い森の中。生い茂った木立に遮られて周囲の様子もわからない。疲れきって座り込んだ私の目に、ふわふわ浮遊する小さな光がふいに飛び込んできた。

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