第7通目 婚姻届の「証人」

俺は、陽芽の手によって綺麗にしてもらった居間のテーブルで彼女と向かい合っていた。


その間には、「誕生日プレゼント」の紙が見開きで置かれている。


すぐには、提出することはできないのですぐに記入することはないのだが。


俺は、やっぱり陽芽の想いに応えたい気がする。


だから、婚姻届に署名をすることにした。


「えへへ、これで私たちは夫婦だね」


「えっと、まだだよ」


「そんなことないもん」


涙目になる陽芽。


この顔には、弱い。


「えっとね、ここがまだだからね」


俺は、用紙の右側・・・「証人」の所を指差した。


そこは、まだ未記入だった。


「あ、忘れてた・・・お互いの親がいないからすぐに書いてもらえないね」


そうだった、親に説明しなきゃいけないんだった。


俺は、スマホを取り出す。


「あ、とぉくん。連絡先交換しよ。ね、ね」


「そうだね、交換しよう」


俺は、メッセージアプリを起動してQRコードを出す。


そして、それを陽芽にスマホごと渡した。


「ありがとう、とぉくん。

あのね、普通の連絡先も交換してもいいかな?」


「もちろんだよ」


「じゃあ、そっちは私がしておくね」


「助かるよ、よろしく」


陽芽は、俺のスマホを操り連絡先の交換をしてくれた。


彼女は、笑みを浮かべている。


「やったぁ、これで離れてても繋がれるね」


「離れるの?」


「離れないもん」


頬を膨らませて膨れっ面になる陽芽。


ちょっと可愛いと思ってしまう俺。


「あ、そうだった。

俺さ、お袋たちに連絡入れようと思ったんだ。

いま、連絡してもいいかな?」


「う、うん」


陽芽の百面相を見てると自然と笑顔がこぼれてくる。


いまは、とても緊張しているようだ。


「えっとさ、ひーちゃん。

隣に座ってくれるかな」


俺は、彼女を隣の席に誘う。


折角だから、紹介しておこうと思って。


「うん、お邪魔します」


そういって、座席を移動する陽芽。


そして、横に座った彼女からふわっと優しく甘い匂いが香って来た。


あ、やばい。


なんだか、ドキドキしてきた。


落ち着かなきゃ。


落ち着かなきゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る