第34話:不意打ち
『調子に乗るな、蝿どもが! ……<カタストロフィ>!』
「きゃあああっ!」
「ぐあああっ!」
あと一歩でるかたんさんの剣が刺さると思った瞬間、シュバルツ・ドラゴンの全身から漆黒の光線が放たれました。
『うわぁっ! なんだフェン!』
「危ない、ルーリンさん!」
慌ててルーリンさんを抱えて横に飛んで避けましたが、るかたんさんたちは光線に当たってしまいました。
「し、しまっ……!」
「当たっちまった……!」
お二人は地面に崩れ落ちてぐったりとしています。
ルーリンさんとともに駆け寄りますが、彼女らの目は虚ろで何も見えていないようでした。
⦅たった一撃でHPが1に……⦆
⦅しかも混乱状態にさせるという隙の無さ⦆
⦅これがシュバルツ・ドラゴンの恐ろしさなんだよなぁ⦆
間髪入れず、シュバルツ・ドラゴンはブレスを溜め始めます。
いえ、わずか数秒溜めただけで黒い火球を吐き出しました。
『死ねっ! ゴミどもが!』
「いけません! 杖さん、私たちを守ってください!」
【承知いたしました。……<ガーディアン・ネオバリア>!】
赤い宝石から光が放たれ、私たちの前に白い精霊が現れました。
両手を前に構え、シュバルツ・ドラゴンの攻撃を真正面から受け止めます。
一瞬の後、精霊が手を横に振ると火球がパンッと弾けて消えてしまいました。
『な、なんだ、その魔法は!? 私の火球が!』
「これぞ神様のお力なのです」
⦅すげえw⦆
⦅当然のように見たことない魔法を使うな⦆
⦅そりゃシュバルツ・ドラゴンも驚くわ⦆
悲しいことに、この竜も異教徒の使い魔なので倒さなければなりません。
ですが、まずはお二人の回復を優先しましょう。
もしかしたら他にも敵が隠れているかもしれませんし。
「【アーティファクトの粉】ー!」
『じ、地面からゴーレムが出てきたフェン!』
神様にいただいた粉をドバっと地面に落とすと、わらわらとゴーレムさんたちが出てきました。
我先にと、シュバルツ・ドラゴンに立ち向かっていきます。
たくさんいますねぇ。
『こ、こいつらはなんだ! どこから湧いてきた!』
思った通り、シュバルツ・ドラゴンはゴーレムさんの対応で手一杯のようです。
一部を、と言っても次から次へと出てくるので大丈夫そうですが、護衛として私たちの周りにも少し残ってもらいました。
『こんな大量のゴーレム見たことないフェン……』
「適量が書いていなかったので全部使ってみました。さて、この隙にるかたんさんたちを回復させましょう。そろそろお薬が復活しているはずです」
鞄から【万能秘薬“パナシー”】を取り出してみると、もう満タンになっていました。
ふむ……予想通りでございます。
10分経つと再利用できるって説明でしたからね。
私は意外とそういうところを見ているのです。
「るかたんさん、ジークさん、今助けますからね。さぁ、お薬ですよ」
お二人のお口に秘薬を流し入れます。
こくこくっと飲ませると、彼女たちの身体が橙色の温かい光に包まれ、ぱんっ! と光が弾けてお二人は復活しました。
「うっ……! わ、私は生きているの……? フ、フレイヤちゃん、そのアイテムはいったい……」
「す、すげぇ……一瞬で体力が全快しちまった……な、何をしたんすか」
「神様のお恵みにより、お二人は回復したのですよ」
そう、私は何もしていません。
これも全て神様のお恵みがあったからこそ。
お祈りしましょうか、と思ったとき、シュバルツ・ドラゴンの怒号が響き渡りました。
『おのれええっ、小娘が! こんなザコども、私の敵ではない!』
その巨大な身体から黒い閃光が迸り、ゴーレムさんたちを弾き飛ばしました。
ゴーレムさんたちは慌てて私の下に帰ってきては、粉が入っていた袋に駆け込んでいきます。
中身を見ると、みんな粉に戻っていました。
きっとドラゴンが怖かったのでしょう。
かわいそうなので、袋をよしよしと撫でてあげます。
⦅フレイヤたん、粉にも優しくて草だね⦆
⦅俺もなでなでされたい⦆
⦅日々聖女らしさに磨きがかかっているな⦆
ついでに神様にお祈りしたくなりましたが、グッと堪えて立ち上がりました。
これほど強力な怪物を野放しにしてはいられません。
「さて、いい加減にあの使い魔を改心させてあげなければ……。るかたんさんとジークさんは後ろに控えていてください。私が戦いますので」
「フ、フレイヤちゃん……ごめん、お願い……」
「すみません……俺が不甲斐ないばっかりに……」
『二人とも僕の背中に隠れているといいフェン』
私が進み出ると、シュバルツ・ドラゴンは全身に魔力を込め始めました。
叫ぶと同時に、漆黒のような黒い光が襲い掛かってきます。
『小娘ごときが私に勝てると思うな! <ギガ・カタストロフィ>!』
「杖さん! あのドラゴンを改心させてください!」
【承知いたしました……<エンシェント・バックチャイルド>!】
杖さんの宝石から放たれた光は漆黒の攻撃をかき消し、無数の小さな天使となってシュバルツ・ドラゴンを覆います。
やがて、天使が舞った軌道は白いベールとなり、黒くて恐ろしい竜の姿は見えなくなっていきました。
私は魔法に疎いですが、フライトラップをハエトリグサにしたときと同じ……いえ、それよりももっと強力な魔法だとわかります。
『貴様ぁ、何をした! この魔法はいったいなんだ!?』
「大丈夫、私にはわかっています。あなたも本心では神様に忠誠を誓っているということを……異教徒に操られて辛かったですね」
『い、意味のわからないことを言うな!? すぐにこの魔法を解け……うあぁああぁ!』
パーンッ! と白い光が弾け、細かい粒子がキラキラと辺りに舞い降りました。
異教徒の巣窟にはとても似合わない幻想的で美しい光景です。
⦅だから何をしたんや⦆
⦅当たり前のように謎の魔法を使うなw⦆
⦅これはバグ技なんだろうか⦆
粒子が空中に溶けるように消えると、そこには小さな生き物がポツンと飛んでいました。
シュバルツ・ドラゴンがそれこそ赤ちゃんになったような姿です。
私の後ろからは、るかたんさんたちの唖然とした声が聞こえてきます。
「こ、こんなことが……あるの……?」
「あ、ありえねえ……こんなアプデは設定していないはずだ……」
『これがフレイヤの御業なのだフェンよ』
ルーリンさんが得意気なのはなぜでしょうか。
不思議ですね。
“ミニ”シュバルツ・ドラゴンは自分の身体を見ては、しきりにかわいい声で驚いていました。
『な、なんで子どもの姿になっているんだっ。小娘、私に何をしたっつ』
「私は何もしていません。異教徒からの解放を願っただけなのです」
『嘘つけぇっ』
⦅何もしてないは無理があるだろw⦆
⦅このメンタルは見習いたい⦆
⦅相変わらず、すごい精神力だ⦆
神様も褒めてくださっているようで、私も心底嬉しかったです。
『ク、クソッ……このままで済むと思うなっ。覚えてろっ』
そう言うと、“ミニ”シュバルツ・ドラゴンはぴゅーッとどこかへ飛んで行ってしまいました。
いやはや、今回もどうにか異教徒の侵略を未然に防げて良かったです。
同志を守れて安心していたら、誰かにガバッと抱き着かれました。
るかたんさんとジークさんです。
「フレイヤちゃん、ありがとう助けてくれて! 前よりずっと強くなっていたんだね!」
「あんためっちゃ強いんだな! ありがとう、おかげで救われたよ!」
お二人とも無事で何よりでした。
しかし、シュバルツ・ドラゴンは撃退できたものの、行方不明となった冒険者たちは見当たりません。
「でも、ここに冒険者みたいな人はいないねぇ」
「そうっすね。何か痕跡でもあればいいんすけど」
「肝心の異教徒はどこにいるんでしょうか……」
ここのフロアはがらんどうで、辺りを探索しましたが何もありませんでした。
「こんなことなら、さっきのドラゴンに聞いてみれば良かったですね」
「まぁ、しょうがないよ。手分けして探してみよう」
「もしかしたら、手がかりがあるかもしれないっすよ。あっ……るかたん、ちょっとこっち来てくれます?」
「はーい」
さっそく、ジークさんが何か見つけたようです。
呼ばれたるかたんさんは、タタタッと駆け寄りました。
何が見つかったんでしょう。
「ほら、死ねや」
「えっ……?」
いきなり、ドスッという重くて鈍い音がしました。
るかたんの体がぐらりと傾きます。
「る、るかたんさん……? どうしたんですか……?」
ゆっくりと倒れていく彼女の後ろから……ジークさんの不気味な笑顔が現れました。
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