第33話:対峙
私たちの目の前にいるのは、全身が真っ黒の巨大なドラゴンです。
頭の後ろから生えた二本の白くて長い角、芸術品のように規則正しく並んだ鱗、金色に輝く瞳……。
今までの怪物とは違い、見るものに畏怖を感じさせるほどの美しさでした。
「キレイな竜ですねぇ」
「ウ、ウソ……漆黒竜・シュバルツドラゴンじゃないの……なんでこんなところに……」
「マ……ジかよ……こ、こいつが……ここのボス……?」
『し、死を覚悟しなくちゃいけないフェン……』
私は素直に美しいなぁと思っていましたが、るかたんさんたちはブルブルと震えています。
どうやら、その美しさに感動しているみたいです。
⦅フレイヤたんだけ呑気でワロタ⦆
⦅いや、たしかにキレイだけどさ。この竜ヤバいんだわ⦆
⦅今までこいつが何人の冒険者を葬ってきたことか⦆
ただキレイな竜かと思っていましたが、神様のお言葉を聞く限り違うようでした。
いくら美しくともここはダンジョン。
異教徒の支配が行き届いていると考えて間違いないでしょう。
となると、このドラゴンも使い魔の可能性が……。
『人間は本当に腐るほど湧いてくるな。弱者ほど繁殖力が高いとは良く言ったものよ。さて、食事の時間といこうか』
「お待ちなさい」
なんとなく、シュバルツ・ドラゴンが戦闘態勢に入ろうとしたのがわかりました。
なので、念のため戦いとなる前にお尋ねしておきましょう。
⦅な、なんだ?⦆
⦅フレイヤたんのお待ちなさい、いただきました~⦆
⦅まさかこれは……⦆
これまで幾度も尋ねては期待通りの答えをいただけなかった質問です。
それはもちろん……。
「今日のお祈りはきちんとしましたか?」
『なに……? お祈り……だと?』
「はい、偉大なる神様へのお祈りです」
本当に異教徒の使い魔かどうか判断するのには、これが最もベストな方法でした。
シュバルツ・ドラゴンの答えを緊張して待ちます。
⦅いつもの調子でワロタ⦆
⦅フレイヤたんはいつでもどこでもフレイヤたんだね⦆
⦅聖女の鑑や⦆
神様、お褒めいただきありがとうございます。
私はどんなときもあなた様に忠誠を尽くします。
心の中で感謝していると、シュバルツ・ドラゴンは大きな口を開けて、グワハハハァッ! と大笑いしました。
『神に……祈るだと!? この私が? 天と地がひっくり返ってもあり得ないことだ! 神が私に祈るならばいざ知らず、私が祈ることなどありえん!』
「そ、そんな……ではあなたは……」
残念なことに、この竜も異教徒の使い魔でした。
あの美しい黒色は神様への反逆心の象徴とでも言うのでしょうか。
至極残念極まりないですが仕方ありませんね。
私が改心させなければ……!
「フレイヤちゃん、ここは私に戦わせて!」
「俺も戦います!」
「え……?」
杖さんに魔法を頼もうとしたら、るかたんさんとジークさんが私の前に出てきました。
「ここに来るまでフレイヤちゃんに助けられてばかりだから、最後くらいは私に戦わせて! じゃないと、配信者として恥ずかしいから!」
「るかたんと共闘できるなんて、一生に一度あるかないか! こんなチャンス逃せるわけないっすよ!」
お二人は武器を構えて、キッとシュバルツ・ドラゴンと対峙しています。
彼女らの背中から、本物の冒険者とは何たるかということが伝わってきました。
死をも恐れない毅然とした態度に、自然と心が震えます。
「す、すごい……これが冒険者なのですね……なんと頼りがいのある背中なのでしょう……」
『フレイヤも似たようなもんだと思うフェンが』
「よしっ、行くよっ! 私が弱点の逆鱗を狙うから援護して!」
「はい! 精一杯頑張りますよっ!」
掛け声とともに、お二人は勢い良く駆け出しました。
⦅おおっ! るかたんのマジバトルだ!⦆
⦅これは貴重な映像⦆
⦅期待できますなぁ⦆
走りながら、るかたんさんが右にジークさんが左に分かれます。
左右に分かれることで、シュバルツ・ドラゴンの狙いを混乱させるためでしょう。
「るかたん! 俺の火魔法の後に続いてください! ……<ファイヤー・レイン>!」
「了解っ!」
ジークさんが剣を頭上に構えると、刀身から火の雨が激しく降り注ぎました。
火の雨は矢となってシュバルツ・ドラゴンを襲い、その体をジュウジュウと焼きます。
当たったところは鱗が溶かされ、その下の皮膚が見えていました。
『ぐっ……小賢しい魔法を使いおって……!』
⦅なるほど、一旦火傷状態にさせるのか⦆
⦅あの兄ちゃんも結構やるな⦆
⦅野良の人っぽいけど強いね⦆
シュバルツ・ドラゴンは苦しんでいる様子から、ジークさんの攻撃は効果的なことがよくわかります。
るかたんさんが火の雨の隙間を縫うように飛び上がりました。
彼女の持っている剣が輝きます。
「この一撃で決める! <ウインド・エスパーダ>!」
刀身の周りに風が吹き出し、さらに大きな剣となりました。
るかたんさんは一直線にシュバルツ・ドラゴンの喉元に飛んでいきます。
その光景を見て、私は納得していました。
やっぱり、どんな生き物も喉元が弱点なのですね。
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