第25話:あの方との再会
「フ、フレイヤさん……めっちゃ食べますね……」
『だから覚悟しとけって言ったフェンよ……』
ルーリンさんたちが何か喋っていますが、お食事中の私にはよく聞こえませんね。
秘薬を手に入れた後、私たちはヨーネさんのお家にお邪魔しておりました。
お礼にということでたくさんのご飯をいただいています。
⦅相変わらず、すげえ喰うな⦆
⦅聖女とは思えない食べっぷり⦆
⦅諸々どうなっているのか⦆
ヨーネさんのお母様が次から次へとお料理を出してくださるので、食べるに困りませんでした。
いやぁ、大変にありがたいことです。
お肉の挟まったパンを食べていると、お母様がもう何度目かの感謝のお言葉をくれました。
「ああ、フレイヤ様。聖女様。この度は本当にありがとうございました。おかげさまで、この子の命も救われました」
「いえ、聖女としてあるべき行いをしただけですから。でも、元気になってくれて良かったです」
「聖女ちゃま……ありがとうごじゃいました……」
ヨーネさんの妹さんであるモーさんが、服の裾をキュッと握ってお礼を言ってくれました。
青色の髪に藍色の瞳がヨーネさんにそっくりですね。
最初にお会いした時は手の先が少し歪な形になっていましたが、今ではほとんど元通りです。
“怪変病”という恐ろしい病気は進行が速いものの、秘薬を飲めばすぐに治ってしまうとのことでした。
「良かったですね、モーさん。元気なお姿が見られて私も嬉しいですよ」
「聖女ちゃま大ちゅき」
⦅かわいい……⦆
⦅尊死する⦆
⦅全人類の宝⦆
モーさんの頭を撫でていると、私もお姉さんになったような気分になります。
孤児だった私にも兄弟の尊さが実感できました。
「フレイヤさんはこれからどうされるんですか?」
「明日にはまた別の街に向かおうかと思っています。困っている方々に祈祷を届けなければいけませんので」
「え! もう発ってしまうのですか? もっとゆっくりされていけばいいのに……」
「申し訳ございません。大変ありがたいのですが、聖女たるものいつまでものんびりとすることはできないのです」
今回の旅を経て、私は祈祷の喜びを再認識いたしました。
苦難に立たされている方々を助ける……これ以上喜ばしいことは他にありませんね。
私はこれからも人々のためにお祈りし続けることでしょう。
「ところで、ヨーネさん。どこか困っている街の情報などはご存知ですか?」
「そうですねぇ……。う~ん、ちょっと思いつきません」
「お兄ちゃま。お医者ちゃまが、ぼうけんしゃの人がいなくなっちゃう街のお話ししてたよ」
ヨーネさんが顎に手を当てて考えていると、不意にモーさんが言いました。
みなの視線が集まります。
「モーさん、今のお話を詳しく聞かせてもらえませんか? 冒険者の方々がいなくなるとはどういうことでしょう」
「ちゅよいと有名なぼうけんしゃの人が、何人もだんじょんから戻ってこないらちいです。だんじょんは昔からあるのに不思議だって話でちゅ」
「そんな話が……」
「でも、新ちいもんすたーとか見つかってないみたいでちゅ。だから不思議だって」
「ふむ……」
ダンジョンに行った冒険者が帰ってこないことはそこまで不思議ではないのでしょうが、ちょっと不気味なお話ですね。
「そのダンジョンはどこにあるんですか?」
「アカバーンの街でちゅ。キカイン・ゲンテからちょっと離れてまちゅが、歩いていける距離でちゅ」
「なるほど……」
『フレイヤ、どうするフェンか?』
モーさんのお話をしばしの間考えます。
消えた冒険者のみなさんが心配ですね。
この旅で、残された人々の辛い心境は痛いほど見てきました。
大切な人の安否を気にする時間は、それはそれは辛いものです。
みなさんの不安なお気持ちを少しでも安らかにする手助けができたら……。
決心を固め、すっくと立ちあがります。
「行きましょう、ルーリンさん」
『そう来なくっちゃフェン!』
「フレイヤさんならそう仰ると思いましたよ!」
困っている方がいたら、すぐに行動できるのが良い聖女です。
何より異教徒の暗躍だって考えられます。
「では、お食事もいただきましたので、皆さまの幸せを神様にお祈りしましょう」
「ええ、ぜひお願いします! フレイヤさんに祈っていただけたら、これ以上のことはありません」
「こんな素晴らしい聖女様のお祈りなんて光栄です!」
「わたしもお祈りちゅるー」
ヨーネさんたち(+ルーリンさん)は、静々と床に跪きます。
その姿勢からも、彼らが心から善良な民であることがわかりました。
厳かな気持ちで手を組み、天界にいらっしゃる神様へ祈りを捧げます。
「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。あなた様のおかげで病める少女が救われました。心より深く感謝を申し上げます。この善良なる家庭に慈愛の雨を降らせたもう……ワロタ」
「「ワロタ(わろた)」」
祈祷を捧げるたび、私の心も静かになります。
その日の夜は、いつにも増して安らかな気持ちで眠ることができました。
□□□
翌日、私とルーリンさんはお別れの時間を迎えていました。
ヨーネさんのお家の前で、最後の挨拶を交わしています。
「では、ヨーネさんお元気で。これからも、モーさんを大事にしてくださいね」
「ええ、もちろんです。フレイヤさん……あなたに会えて本当に良かったです。一緒にお過ごしした日々は短いですが、僕は一生忘れることはありません。ルーリンさんもありがとうございました」
『きっと、君は良い男になるフェンよ』
目の前には初めてお会いしたときより、幾分逞しくなったヨーネさんがいました。
互いに硬い握手を交わします。
私がいなくとも、この兄妹は立派に成長していくでしょう。
「フレイヤ様、あなた様へはいくら感謝してもしきれません。せめて、旅の無事を祈らせてくださいませ」
「聖女のフレイヤちゃま、また遊びに来てくだちゃい。ちぇいいっぱい、おもてなしちます」
「ありがとうございます。モーさん、またお会いしましょうね」
お母様とモーさんは、私にギュッと抱き着いてきました。
肩を抱き合っていると、家族の温かさが伝わってくるようでした。
「では、私たちはそろそろ行きますね」
『さよならフェンよ』
「「本当にありがとうございましたー!」」
名残惜しい気持ちを心に押し込み、私たちはキカイン・ゲンテの街を後にします。
ヨーネさんたちは、姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれていました。
街の前に続いている緩やかな丘を歩きながら、ルーリンさんが嬉しそうに言います。
『今度はフレイヤのどんな活躍が見られるか、今から楽しみだフェン』
「私はただ神様にお祈りしているだけですよ」
それにしても、この先どのような神託がいただけるのでしょうね。
私も楽しみになってきます。
二人でしばらく歩いていると、道の横に広がっている草原の方から甲高い女性の声が聞こえてきました。
「あーっ! ようやく見つけた! あのとき助けてくれた聖女さん!」
真っ赤な髪に真っ赤な瞳、お人形さんのように整ったお顔。
いつぞやの美しい女性が立っていました。
そう、るかたんさんです。
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