第24話:念願のお薬をゲットしました
が、しかし。
「『うぅぅ~ん!』」
三人で力を合わせても、全然開きそうにありません。
まさしく、うんともすんとも言わないのです。
しばらく四苦八苦したものの、何の効果もありませんでした。
ヨーネさんが汗だくになりながら言います。
「……はぁっ……はぁっ! な、なんて硬い箱でしょう」
『こ、これは大変フェンよ』
う~む、世の中の宝箱はどれもこんな感じなのでしょうか。
にしては、少々開き辛すぎますね。
「宝箱さん、開いてください!」
必死にお願いしてもみましたが、宝箱さんはまったくの無反応なのです。
となれば……。
「神様にお祈りしましょう。……この世を造りたもう全知全能の神々よ。この不動なる宝の箱を開けるにはどうすればよろしいでしょうか。この箱の中にはキカイン・ゲンテの街に住んでいるヨーネさんという心優しい少年の妹さんの病気を治す“クリエーサの秘薬”というお薬が……」
⦅主語が大きくてワロタ⦆
⦅さすがのフレイヤたん⦆
⦅なんか暗号が必要みたいですよ。でも、調べても出てきませんね⦆
⦅まだみんなクリアしてないのかも⦆
なんと……お祈りしていたら神託がいただけました。
やはり、神様は素晴らしい存在でいらっしゃいます。
「どうやら、神様がおっしゃるには暗号を見つけないと開かないらしいです」
「え! 暗号ですか」
『困ったフェンね……いったいどんな暗号なんだフェン』
「それが、神様にもわからないらしく……」
ここに来て難題が立ちはだかってしまいました。
このままでは秘薬が手に入らないどころか、ヨーネさんの妹さんの具合が悪化してしまうかもしれません。
となれば、やることは一つです。
「【神の剣“シンギツル”】ー」
ポーチから剣さんを抜き出しました。
神様から頂いた大変に貴重な剣です。
「な、何ですか、その剣は……って、SSランク!? そんな高ランクのアイテム初めて見ました! しかも効果がすごいですっ」
『フレイヤは何でも持っているフェン』
「その剣で宝箱を壊してしまうんですねっ」
「いえ、そんな野蛮なことはいたしません」
興奮した様子のヨーネさんを丁寧に制しました。
私は見習いではありますが、れっきとした聖女。
剣で箱を叩いて壊すなど、そのような恐ろしいことはできません。
「うまく使えば開けられるかもしれません。え~っと、ここをこうすれば……」
剣さんの先っぽを鍵穴に差し込みます。
そのまま、どうにかして開けられないか奮闘します。
「あ、あの~、フレイヤさん? 何をやっているんですか?」
『剣を刺し込んでどうしたフェン?』
「なかなかうまくいきませんねぇ……」
尖っているので、ガチャガチャやれば開きそうな感じがしました。
しばらくいじってみましたが、宝箱さんは開いてくれそうにありません。
⦅絶対使い方違うだろw⦆
⦅剣で鍵開けようとしててワロタ⦆
⦅うん、開かないと思うな⦆
神様も無理なのでは? とおっしゃっています。
ふむ、ダメなようですね。
となると……。
「では、やり方を変えてみましょう」
今度は宝箱さんの隙間に剣さんを刺し込みます。
そして、えいやっ! と、てこの原理で思いっきり体重をかけてみました。
「ちょっ! ちょっと、フレイヤさん! 剣が折れちゃいますよ! それは貴重な剣なんですからっ」
『や、やめるフェン、フレイヤ! 剣が……! 世界の宝が……!』
「いえ……! 神様のお恵みでいただいたアイテムです……! これしきの力で折れるはずは……!」
うーん! と力を込めに込めましたが、宝箱さんが開く気配はありません。
なるほど、これでも開きませんか。
どうやら相当頑丈な箱のようですね。
「こうなったら仕方がありません。力ずくで開けましょう」
「え? ち、力ずくで……?」
『もう十分すぎるほど力ずくだと思うフェンが……』
なるべく宝箱さんを傷つけたくはありませんが、これ以上の良い方法がないことなのも事実。
静かに剣さんを構え……。
「えーーーーーい!」
「『うわぁっ!』」
慈愛の心を持って宝箱さんを滅多打ちにしました。
ズババババッ! と斬撃が迸り、あれほどまでに頑丈だった宝箱さんはあっけなく壊れてしまいます。
さすがは神様から頂いた剣さんですね。
途方もない強さでした。
⦅なぜ壊れる⦆
⦅相変わらず、すごい光景⦆
⦅無機物にも容赦なしw⦆
宝箱さんの残骸をどけると、丸っこい小ビンが出てきました。
中には光り輝く橙色の液体が入っています。
これが“クリエーサの秘薬”で間違いないでしょう。
「さあ、ヨーネさん。探されていたお薬ですよ。どうぞお受け取りください」
「あ、ありがとうございます、フレイヤさん。まさか、本当に手に入るなんて思いませんでした……」
『良かったフェンね。きっと、これで妹さんの病気も治るフェンよ』
ヨーネさんは震える手で小ビンを受け取りますが、どうしたわけか心から喜べていないようでした。
何やら、顔がこわばっているのです。
「どうしましたか、ヨーネさん?」
「あ、す、すみません。その……本当にいただいてもいいのかなと思ってしまいまして……フレイヤさんがいなければ、絶対にこの秘薬は手に入りませんでした」
「ん? それはどういうことでしょうか?」
思ってもいなかったことを言われ、ちょっとビックリしてしまいました。
ヨーネさんは受け取ったお薬を私に返します。
「“クリエーサの秘薬は”売るだけで、それこそ一生遊んで暮らせるほどのお金が手に入ります。こんなに価値のある物は、怖いモンスターたちと必死に戦ってくださったフレイヤさんが貰うべきじゃないかと……」
「ヨーネさん」
私は妹を大事に想う、心優しい少年の肩に手を乗せます。
「……そんなことを考えないでください。お薬は必要な方が使うべき物です。それに、私はヨーネさんの妹さんに元気になっていただきたいです。だから、遠慮なんかせずに受け取ってくださいませんか?」
「フレイヤさん……」
「大切な人の笑顔はどんな大金よりも価値がある……。ヨーネさんなら言わずともわかると思いますよ」
この世にはお金や宝石では比べ物にならないほど、大切な存在がいっぱいあるのです。
祈祷の旅を通じて、私はより強く思うようになっていました。
「そ……そうですね。僕も妹に早く元気になってほしいです。もう一度楽しそうに笑ってほしいです。……ありがとうございます、フレイヤさん! ありがたくいただきます!」
改めて秘薬をお渡しすると、ヨーネさんは眩しいくらいの明るい笑顔になってくれました。
「では、そろそろダンジョンから出ましょうか。また使い魔たちに襲われても大変なので」
「フレイヤさん、ぜひ我が家でお食事でもどうぞ。精一杯のお礼を差し上げたいです。何でもお出ししますよ」
「それは楽しみですね。お腹がペコペコになってしまいました」
『フレイヤはめっちゃ食べるから、覚悟しといた方がいいフェンよ』
「見かけによらず大食いなんですねぇ。まぁ、家にはたくさんの食材があるので安心してください。ははははは」
楽しそうに笑うヨーネさんを連れて、私たちは帰路に就きました。
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