第20話:秘薬を目指して
「さあ、お二人とも。気を付けて進みましょう。私の傍から離れないでくださいね」
「は、はいっ。絶対に離れませんっ」
『後ろの警戒は僕たちに任せるフェン』
私たちはダンジョン“エイティーズ”に踏み入れていました。
目当ての秘薬は最下層の80層にあるそうです。
そして、今私たちがいるのは40層。
あっという間に半分まで来てしまいました。
⦅だから潜るの早いんだってw⦆
⦅異常な上達スピード⦆
⦅レベル1でこの速さはたぶん世界最速や⦆
杖さんと愛用の【すたんがん】のおかげで、滞りなく進めてはいます。
が、やはり……。
「怪物たちがたくさんいますね。すごい数です」
『モンスターの匂いがまったく途切れないフェン』
「ここまで大量発生しているとは、僕も予想できませんでした」
倒しても倒しても怪物たちが現れます。
現に、今もまた新たな敵が出てきました。
大きなオークやゴブリン、人の大きさはあろうかというクモ……。
いったい彼らはどこからやってくるのでしょうか。
⦅40階層でこの数か⦆
⦅ほんと倒しても倒しても湧いてくるな⦆
⦅今回のイベントはキツそうだ⦆
怪物たちはみな、凶暴な顔で私たちを襲ってきます。
傍から見ると恐ろしい光景ではありますが、私は悲しい気持ちでありました。
彼らの辛さが伝わってくるのです。
「あぁ……異教徒に操られているなんて……可哀想に……」
怪物たちは苦しそうな顔で私たちを襲うのです。
まるで、信じるべき神様への想いを忘れたくない、とでも言いたげに。
まだ見習いではありますが、私も聖女の端くれ。
聖女たるもの、彼らの神様に対する信心を呼び戻さなければ!
「異教徒の使い魔たちよ!! 聞きなさい!!」
『『グゲッ……!?』』
フロアにいる怪物たち全員に聞こえるような大きい声で叫びました。
みなの注目が私に集まります。
⦅突然の咆哮w⦆
⦅こんな大声出せるのかい⦆
⦅いきなり叫んでてワロタ⦆
怪物たちも警戒しているのか、ジリジリと間合いをとっています。
『フ、フレイヤ……どうしたフェンか?』
「あの、フレイヤさん?」
「私が彼らの善良な心を取り戻します!」
「『え……?』」
使い魔たちはあくまでも使い魔。
異教徒に支配されてしまった、哀れな怪物たちなのです。
私が彼らを解放してやらなければ……。
そう強く思う旅、どんどんやる気が溢れてきます。
さあ、神様に祈祷を捧げましょう。
「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。不幸にも異教徒に支配されたこの者たちに、慈悲深き愛をお贈りくださいませ。彼らは本心ではないのです。心の底ではあなた様のことを……なっ!」
『ゴガァッ!』
⦅群れの中心で祈ってて草⦆
⦅無防備が過ぎるんだわ⦆
⦅さすがの信心深さ⦆
使い魔たちのためにお祈りしていたのに、先頭にいたオークが棍棒で殴りかかってきました。
さっと避けますが、強いショックを受けてしまいました。
「大丈夫ですか、フレイヤさん! いくらフレイヤさんが強くても無防備過ぎますって!」
『怪我してないかフェン!?』
「ええ……大丈夫です……が……」
私は愕然とした気持ちでした。
せっかく祈って差し上げていましたのに……。
またお祈り中が終わる前に攻撃してきました。
これでは神様に想いを届けたくても、届くはずがありません。
「……仕方がありませんね。杖さん! 使い魔たちに神様の素晴らしさを教えてあげてください!」
【承知いたしました……<エンシェント・プレキサス・ショット>!】
杖の宝玉から白い波動が迸ったと思うと、怪物たちのみぞおちの辺りがベコッ! と凹みました。
どうやら、見えない力でお腹を殴られたようですね。
使い魔たちはお腹を抑えて地面でのたうち回っています。
⦅痛そうw⦆
⦅プレキサスってみぞおちって意味か⦆
⦅またえげつない攻撃を⦆
私の攻撃を見て、ルーリンさんとヨーネさんはなぜか震えていました。
そこまで寒くはないと思いますが。
「フ、フレイヤさんは容赦ないですね」
『お祈りの邪魔だけはしちゃいけないんだフェン』
「ええ、これで改心してくださるといいのですが……」
見たところ、使い魔たちはまだまだ若そうです。
今から改心すれば、これから先神様にお祈りを捧げる時間はたっぷりあります。
彼らが神様の良い使者になることを願うばかりですね。
「さあ、まだ半分です。気を抜かずに行きましょう」
「は、はい、僕も精一杯ついていきます」
『フレイヤがいなかったらとっくにダウンしていたフェン』
慎重な姿勢は崩さずに進みます。
下層への階段はこの先にあるようです。
通路の曲がり角を曲がったら、床の一部が四角く盛り上がっていました。
いかにも踏みたくなりそうに、ぼや~と薄紫色に光っています。
ん? 何でしょうか、これは。
踏みたくなりますね。
えいやっ! と力強く踏もうとしたとき、神様の声が聞こえてきました。
⦅フレイヤたん、それトラップ!⦆
⦅ダンジョンの罠魔法⦆
⦅避けて避けて。絶対踏むなよ⦆
寸でのところで足を横に逸らします。
ふむ、トラップですか。
なんと卑劣な。
神様がいらっしゃなければ、危うく騙されるところでした。
あっ、後ろのお二人にもお知らせしなければ。
「ルーリンさん、ヨーネさん。その四角いのは踏まないでくださいね。ダンジョンの罠のようです」
『このでっぱりはなんだろうフェンねぇ。踏んでくれと言っているみたいだフェン』
「いやぁ、奇遇ですね。僕も踏みたくなっていたんです」
振り返ったとき、お二人はもう足を乗せかけていました。
「ダ、ダメです、お二人とも……!」
『「ちょっとくらいなら大丈夫(フェン)でしょう」』
必死に止めるのも間に合わず、お二人は嬉々として四角いでっぱりを踏んでしまいました。
すかさず、ガコッ! と開く床。
もしや、これは……。
「『きゃあああっ!』」
一瞬空中に停滞したのち、私たちは勢い良く落下していきました。
ど、どこまで落ちてしまうのでしょう。
すぐに体勢を整えなければ。
しかし、地面が見えたかと思うと、受け身を取る暇もなく真正面から激突してしまいました。
私の上にルーリンさんたちが、どかどかと落ちてきます。
「い……!」
『「フレイヤ(さん)!」』
体に走る激痛……!
「『大丈夫(フェン)ですか!』」
「たくありません」
は特にありませんでした。
⦅痛くないんかーいw⦆
⦅聖女ギャグ⦆
⦅たしかに、あの防御力なら納得だわな⦆
「フレイヤさん、大丈夫ですか!? ごめんなさいっ!」
『体は平気フェンか!? 思いっきり乗っかってしまったフェン』
「私は大丈夫ですよ。守ってくださった神様に感謝ですね」
かなりの高さから落ちたので痛いと思いましたが、思いの外何ともありません。
これも、神様のお恵みでいただいたアイテムのおかげなのでしょう。
『ご、ごめんだフェン。まさか罠だとは気づかなかったんだフェン……』
「すみません、フレイヤさん……踏みたい欲求を我慢できませんでした……」
⦅まぁ、気持ちはわかるw⦆
⦅正直で草⦆
⦅踏みたい欲求w⦆
お二人は下を向いてしょんぼりしています。
過ちはしないにこしたことはありませんが、一度過ぎてしまったことは消せないこともまた事実。
「仕方がないことです。過去はやり直せませんので、今後気を付けることとしましょう」
「『フレイヤ(さん)……』」
⦅二人とも恍惚な表情しててワロタ⦆
⦅完全に心奪われてるね、これ⦆
⦅フレイヤたんならしょうがない⦆
しかし、ここはどこでしょうか。
下に落ちたので、幸か不幸かダンジョン自体は下層に進んでいるはず。
一度地図を見てみましょうか、というところで、不気味な声が聞こえてきました。
『グッゲゲエ』
『ケケケアッカ』
『ガアオッアッァ』
ズラリと私たちを囲む怪物たち。
「そ、そんな……またモンスターの群れ……!」
『今までで一番多いフェン!』
「いいえ、これもまた神のお導きというもの……ふむ……」
今にも襲ってきそうな怪物の群れを見ていると、私のとある仮説が確信めいてきました。
もしかして……異教徒の使い魔は全てのダンジョンにいるのでは?
そうなのです。
しかし、肝心の異教徒の姿が見えません。
これほどまでに巧妙に存在を消せるとは。
私が戦うべき相手は、思っていたより強大な敵かもしれません。
「覚悟しなさい。私が必ず神様の元へ送ります(神様に直接ご指導いただきましょう)」
『「か……カッコいい(フェン)!」』
そう思いながら、杖さんを強めに握りしめるのでした。
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