第14話:改心しなさいませ
「クソッ、熱いんだよ! ……いってー!」
51層にたどり着くと、女性の声はさっきよりさらにハッキリと聞こえます。
いえ、それだけではありません。
激しい熱気が顔を焼くように撫でてきます。
「うっ……こ、これはいったい……」
『フレイヤ、あそこに何かいるフェン!』
奥には燃え盛る巨大なトカゲがいて、一人の女性を襲っていました。
緊張した様子に、神様たちも慌てた様子でお話されています。
⦅マジか、レイドボスのブレイズ・リザードじゃん⦆
⦅ああ~、そういえばそんな情報出てたなぁ⦆
⦅って、異常種じゃねえか。ほんとランダム要素強いんよ⦆
「ブレイズ・リザード……」
「あんなモンスターが出るなんて情報はなかったはずなのに……どうして……」
『か、体が焼けるように熱いフェンよ』
熱気に気圧されそうになりますが、ここで逃げたらいけません。
まずは私たちの存在に気づいていただきましょう。
「ソロルさん、大丈夫ですか! 私はフレイヤと言います! 助けに来ました!」
「お姉ちゃん! こっちに来てー!」
『ミン・ナクルの街から助けに来たフェンよー!』
ソロルさんは私たちを見ると、ブレイズ・リザードの攻撃を躱し、急いでこちらへ走ってきました。
もう体はボロボロでしょうに、かなりの速さで敵を置き去りにしてしまいました。
エルマーナさんを見るや否や、猛スピードで抱き着きます。
ブレイズ・リザードも人数が増えたのを警戒してか、すぐに襲ってくる様子はありません。
「エルマーナ! どうしてここにいるんだい!」
「お姉ちゃんを助けに来たの! もう何日も帰って来ないから心配で心配で……!」
互いに抱きしめ合う二人を見て、姉妹愛というものをひしひしと感じますね。
⦅感動の対面だな⦆
⦅良かったねぇ、エルマーナちゃん……⦆
⦅オジサン泣きそう⦆
「そ、それで、こっちのお嬢さんたちは誰なんだい?」
「聖女のフレイヤさんと、フェンリルのルーリンさん。二人ともお姉ちゃんを探しに力を貸してくれたの」
「聖女にフェンリル!? それはまた大層な……ありがとうよ」
緊張の糸が切れたのでしょう、ソロルさんはへなへなと地面に座り込みます。
そんなやり取りの中でも、ルーリンさんはきつく奥の方を見ていました。
『でも、まだ安心できないフェン』
そうです。
まだあの使い魔をやっつけたわけではないのです。
ブレイズ・リザードは生け贄を奪われたとでも思っているのか、先ほどより鬼気迫る表情で私たちを睨んでいました。
威嚇するように身体から炎を出したかと思うと、ズシズシ! とこちらに突っ込んできます。
「あんたは聖女って言っていたけど、名の知れた冒険者なのかい!?」
「いいえ、私は通りすがりの聖女です。まだ見習いですがね」
「み、見習い!? だったら、すぐに逃げないと! ここはアタシがどうにか……ぐっ!」
「お姉ちゃん、無理しないで!」
「ソロルさん、これを使ってください。ブレイズ・リザードは私にお任せを」
ソロルさんに【応急薬】の残りを渡し、ルーリンさんたちに手当てを頼みました。
これでひとまず安心なはずです。
さて、後はあの使い魔の対処が残っていますね。
『グルルッアアァ!』
ブレイズ・リザードは怖い顔をしながら私たちに迫ってきます。
「フレイヤさん、あいつが走ってきますよ!」
『す、すごい勢いだフェン!』
「このままじゃ全滅しちまうよ! アタシだけでも置いて逃げとくれ!」
「大丈夫、落ち着いてください。私が何とかします」
皆さんを守るため、一歩前に踏み出しました。
迫りくるブレイズ・リザードを正面から見据え、心の中で話しかけます。
大丈夫、私にはわかります。
あなたは異教徒に支配され、苦しんでいるんですよね。
まだまだ改心できるはずです。
そうと決まれば、やることは一つしかありません。
「杖さん! あの使い魔を改心させてください!」
【承知いたしました……《エンシェント・コンバージョン》!】
『グ……? アアアア!』
白くて眩い光がブレイズ・リザードを包み込みます。
燃え盛る炎にもビクともせず、ぎゅうううっと圧縮されていきました。
皆さんの驚く様子が伝わってきます。
「な、なんだい、この魔法は……」
「フレイヤさんは不思議な魔法を使います……」
『悪しきオーラが弱まっていくのを感じるフェン』
白い光の球は人間の頭くらいの大きさになっていました。
初めて使う魔法ですが、もうすぐで役割を果たすのだと確信できます。
『ギ……キャアアアン!』
ボフン! と音がして、おっかない使い魔は白い煙に包まれました。
煙が晴れ中から現れたのは……ちっちゃなブレイズ・リザードでした。
燃え盛る炎はロウソクの火のようになり、怖さなんて少しも感じません。
「え……ウ、ウソ……ブレイズ・リザードがこんなに小さく……」
「あ、あんたはとんでもない魔法使いなんだねぇ」
『やっぱりフレイヤはすごいフェン!』
⦅赤ちゃんになったw⦆
⦅かわいいw⦆
⦅いったい何が起きてるんだ……⦆
打って変わって、ブレイズ・リザードはプルプル震えています。
怪物らしさは消え失せ、ペットのような愛くるしさです。
「さあ、もう大丈夫です。これからは思う存分、神様にお祈りを捧げてくださいね」
『ピィィィッ!』
私が近寄ると、ブレイズ・リザードはどこかに走り去ってしまいました。
異教徒から解放されたのですね。
ああ、良かった、これで一安心です。
もう人々を襲うようなことはないでしょう。
ホッとしたのも束の間、ソロルさんとエルマーナさんが勢いよく私に抱き着いてきました。
「ありがとう、フレイヤ! あんたのおかげで命拾いしたよ!」
「フレイヤさん、いくら感謝してもしきれません! 本当にありがとうございます!」
助けた人に感謝されるのはとても心地よいです。
でも、これも全て神様のおかげなのです。
「いいえ。私はただ神様の示す道に従ったまでです。何より、エルマーナさんの勇気がソロルさんを救ったのです」
「あんた……」
「フレイヤさん……」
『どこまでも謙虚で尊敬できるフェン』
皆さんの瞳はキラキラ輝いていました。
神様の素晴らしさが伝わったようで良かったです。
「では、街に戻りましょうか」
「「はいっ!」」
無事ソロルさんを見つけた私たちはダンジョン“シクスティン”を後にし、ミン・ナクルへの帰路に就きました。
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