第15話:宴
「さあ、フレイヤ! 遠慮せず好きなだけ食べておくれ!」
「いくらでもお作りしますからね!」
「はい、ありがとうございます」
木が剥きだしになった壁や天井。
街に戻ってきた私たちは、ソロルさんとエルマーナさんのお家でお食事をいただいておりました。
中央に置かれた大きなテーブルがいっぱいになるほど、食べ物が載っています。
子豚の丸焼きや具だくさんのシチュー、カラフルなフルーツサラダにふんわりしたパン……。
次から次へとお料理を出してくださるので、至極満足な気持ちで食べています。
ぺちゃぺちゃとミルクを舐めていたルーリンさんが、驚いた顔で何度目かの言葉を口にしました。
『そ、それにしても、フレイヤはめっちゃ食べるフェンね』
「……そうでしょうか?」
⦅もう20人前は食べてて草⦆
⦅胃袋どないなっとんねんw⦆
⦅だから、スタミナそんなに減ってないでしょうがw⦆
基本的に、私たち聖女にお食事の制限はありません。
神様にお祈りを捧げるのも、健康な身体があってこそ。
体力をつけておかなければ、いざという時の祈祷もできませんからね。
「食べることは良いことなのです」
「よく言った! 最近の若いヤツらは小食の女ばかりだからね!」
「美味しそうに食べてくださるので、私も作りがいがあります」
『僕もフレイヤを見習って、もっとたくさん食べるフェン! おかわりっ』
お食事は終始明るい雰囲気で終わりました。
食後の紅茶をいただいているとき、エルマーナさんがポツリと呟きました。
「フレイヤさん、これからどうするんですか?」
「これから……ですか? う~ん、そうですねぇ……」
デザートのりんごパイをいただきながら考えます。
今回、たくさんの使い魔たちに改心を促せました。
ですが、世界中の困っている人を救えるような大聖女になるには、とうていまだまだ修練が足りません。
となれば……。
「また別の街に行こうかと思います。祈祷の旅をしておりますので」
「え、もう違うところに行ってしまうのですか……? せっかく仲良くなれましたのに……」
伝えるや否や、エルマーナさんはしょんぼりしてしまいました。
幼い子どもの悲しそうな顔は、それだけでとても申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになります。
ですが、私には世界中の困っている方々を助ける使命があるのです。
「ごめんなさい、エルマーナさん。見習い聖女たる者、修練を欠かすわけにはいきません」
⦅なんて偉いんだ⦆
⦅これぞ聖女の鑑やね⦆
⦅それに比べてお前らときたら……⦆
「ほら、あんまりわがまま言ったらフレイヤも困るだろ?」
残念そうにしつつも、エルマーナさんはコクン……と頷いてくれました。
「……わかりました。でも、必ずまた遊びに来てくださいね」
「ええ、もちろん約束いたします。私もエルマーナさんのことが好きですので」
「絶対ですよ」
エルマーナさんと指切りげんまんします。
そんな私たちを、ソロルさんはお姉ちゃんの優しいお顔で眺めており、私とも握手を求めてきました。
「フレイヤ、改めて礼を言わせてもらうよ。あんたが来てくれなかったら、今こうしてエルマーナと過ごすこともできなかった」
「いいえ、私は聖女としてやるべきことをやったまでです。まだ見習いですが」
「あんたなら立派な聖女さんになるだろうよ」
ソロルさんの手は力強く、握手するだけでパワーをいただけるようでした。
⦅いいわぁ、こういう光景⦆
⦅ちょっとでいいから仲間に入れてほしい⦆
⦅うん、君はもう帰ろうか⦆
「ところで、この近くに別の街はありますか? 明日にでも行こうと思うのですが」
「なんだい、もっとゆっくりしてけばいいのに……。う~ん、そうだねぇ。近くだったらキカイン・ゲンテの街があるよ」
ソロルさんは顎に手を当てながら教えてくれました。
ふむ、キカイン・ゲンテの街。
初めて聞きましたね。
「あっ、そういえば、お姉ちゃん。その街のダンジョンでモンスターが大量発生しているらしいね」
「モンスターが大量発生……でございますか?」
「ええ、そうです。何でも、いきなりたくさん現れるようになって困っているとか……」
今回初めてダンジョンを進んでみて、怪物たちの恐ろしさをしかと経験いたしました。
神様への祈りがまったく通じないのです。
異教徒の支配の影響かもしれませんが、あのような怪物たちがたくさんいたら大変です。
それに、影に隠れている異教徒の親玉の存在はいずれ明らかにしなければなりません。
『フレイヤ、どうするフェンか?』
「もちろん、お伺いするしかありませんね」
何となくではありますが、ダンジョンの怪物たちはみな異教徒の使い魔なのでは? という疑問を抱いておりました。
大量発生しているというダンジョンへ行けば何かわかるかもしれません。
さて、一日の終わりのお祈りを……。
「それでは旅立つ前に、皆さんの幸せを神様にお祈りいたしましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
「お願いします、フレイヤさん」
『フレイヤの祈祷は効き目が抜群だフェンよ』
ソロルさんとエルマーナさん、そしてルーリンさんは床に跪きます。
いやぁ、なんとも美しい姿勢です。
こんな素晴らしい姿勢なら、きっと神様も私たちの思いに応えてくれるでしょう。
「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。当面の衣食住を授けてくれた、この心優しき者たちに大いなる幸福を与え給え……ワロタ」
「『ワロタ』」
私にはわかります。
皆さんには幸せな日々が待っていることが。
翌日、エルマーナさんたちと挨拶を交わし、私とルーリンさんはキカイン・ゲンテの街へ歩き出しました。
待っていてください、困っている方々。
今助けにまいります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます